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【不服申立委員会】 2021年10月14日付 公表

2021年10月14日

【不服申立委員会】 2021年10月14日付 公表

2021年8月24日付で福島ユナイテッドFCが提起した不服申立について、公益財団法人日本サッカー協会(以下、「本協会」という。)不服申立委員会にて審議した結果、下記のとおり決定した。

1 不服申立人

福島ユナイテッドFC

2 不服申立人に原懲罰を科した主体(第一審機関)

公益社団法人日本プロサッカーリーグ(以下、「Jリーグ」という。)規律委員会

3 不服申立人が不服を申し立てた原懲罰の内容

(1) 不服申立人に対し、JFA懲罰規程(以下、「懲罰規程」という。)[別紙1]3-3の「出場させた者」に対するものとして科した懲罰
譴責(始末書提出)(以下、「原懲罰①」という。)

(2) 不服申立人に対し、同3-3の「チーム」に対するものとして科した懲罰
本件試合[2021明治安田生命J3リーグ第8節 2021年5月16日 福島ユナイテッドFCvs ヴァンラーレ八戸]につき得点を3対0として負け試合扱いとする(以下、「原懲罰②」という。)

4 当委員会の決定

(1) 原懲罰①について
本件不服申立を却下する

(2) 原懲罰②について
原懲罰を取り消す
不服申立人に対し罰金150万円を科する

5 理由

(1) 第一審機関の判断及び不服申立人の不服申立の趣旨等
ア 第一審機関の判断
第一審機関であるJリーグ規律委員会及び不服申立人から提出された資料によると、本件は、不服申立人が新型コロナウイルス感染症に関する指定公式検査(以下、「指定公式検査」という。)において陰性判定を得ていない選手を本件試合に出場させたという事案であるが、これについて、Jリーグ規律委員会は、「2021明治安田生命J1・J2・J3リーグ試合実施要項(以下、「試合実施要項」という。)第13条第3項第1号により、試合にエントリーできる者の要件として、『指定公式検査において陰性判定を得ていること』が求められているところ、不服申立人は、指定公式検査において陰性判定を得ていないX選手(以下、「本件選手」という。)を本件試合に出場させた。これは、出場資格の無い選手を公式試合に不正出場させたものであり、JFA懲罰規程〔別紙1〕競技及び競技会における懲罰基準3-3.『出場資格の無い選手の公式試合への不正出場(未遂を含む)』(以下、「本懲罰基準」という。)に該当する。」と判断した。

その一方で、同規律委員会は、「①不服申立人がエントリー資格認定委員会への申請を欠いていたことについて悪意はなく、手続き上のミスであったこと、②本件選手は保健所によるコロナ関連の検査、自主的な抗原検査を実施していること等から、酌量すべき事情があると考えられる。」と判断し、本懲罰基準によれば、出場させた者(本件では不服申立人がこれに当たる)については処分決定日から1ヶ月間の出場停止、出場した選手には処分決定日から1ヶ月間の出場停止、チームについては得点を3対0として負け試合扱いとするとの懲罰を科すことが定められているところ、その懲罰を軽減して、不服申立人の出場させた者としての懲罰については、出場停止処分ではなく、譴責処分(原懲罰①)とすることとし、チームとしての処分については、規定通り負け試合扱いとする(原懲罰②)とともに、上記出場選手については懲罰処分を行わないこととして原各懲罰を科した。

イ 不服申立人の不服申立の趣旨
不服申立人は、Jリーグ規律委員会の上記処分を不服とし、当委員会に対し、原懲罰①及び②の処分の取消しまたは原懲罰②の処分の取消しを求めて本件不服を申し立てた。

ウ 相手チームからの意見聴取
そこで、当委員会は、原懲罰②が取り消された場合には勝ち点等においてその影響を受けることとなる相手チームであるヴァンラーレ八戸(以下、「相手チーム」という。)にも意見聴取をし、審議の参考とした。

(2) 不服申立人の不服申立の可否について
ア 原懲罰①について
当委員会が本件不服申立を受理して原懲罰の当否を審議するためには、原懲罰が懲罰規程第36条第1項(1)ないし(13)の各号に規定する「不服申立可能な懲罰」のいずれかに該当することが要件とされているところ、原懲罰①の「譴責」は、同項(1)ないし(12)の各号のいずれにも該当せず、また、同項(13)に定める「前各号に掲げるもののほか、懲罰効果において実質的に前各号のいずれかと同等か又はそれ以上と判断される処分」にも該当しないことは、その懲罰の内容からして明らかである。
したがって、原懲罰①については、不服申立人が当委員会に対し不服を申し立てることはできない。

イ 原懲罰②について
他方、Jリーグ規律委員会が原懲罰②を科すに当たって適用した本懲罰基準のチームに対する懲罰の内容は、「得点を3対0として負け試合扱いとする(ただし、すでに獲得された得失点差の方が大きい場合には、大きい方を有効とする)。」というものであり、懲罰規程第4条第2項(9)において定める「得点を3対0として試合を没収(ただし、すでに獲得された得失点差の方が大きい場合には、大きい方を有効とする)」との試合の没収の懲罰に該当するが、同懲罰は、上記第36条第1項(1)ないし(12)の各号に規定する不服申立可能な懲罰には含まれていない。

そこで、さらに、上記試合の没収の懲罰が同項(13)に該当するか否かについて検討するに、同懲罰は、勝ったチームに対して科される場合には、勝ったチームの勝ち点が0点に減点されるとともに、得点も0点として負け試合とされるため、勝ったチームにとっては極めて重い懲罰となるものであり、同様に、引き分け試合においても、勝ち点を減ぜられること等になることから、同懲罰を科されるチームにとっては極めて重い懲罰になるものといえる。

他方、負けたチームに対して科される場合には、そもそも勝ち点は0点であることから、勝ち点は奪われず、得失点差だけが問題となるところ、得失点差が3以下の場合には、負けたチームが得点をしていた場合にはその得点が0点にされるに止まり、勝ったチーム等に同懲罰が科される場合に比べて格段に軽い懲罰となる。
そして、例えば、負けたチームが、得点3対0で負けた場合には、同懲罰は、形式的には懲罰を科したこととなるものの、実質的な懲罰の効果は認められず、さらに、4点以上の得失点差で負けた場合には、同懲罰をそのまま適用することとなれば、かえって負けたチームを利する結果を招いてしまうことから、同懲罰に関する懲罰規程第4条第2項(9)及び本懲罰基準は、「ただし、すでに獲得された得失点差の方が大きい場合には、大きい方を有効とする」との但し書き規定を置いているのである。

そうすると、試合の没収の懲罰が懲罰規程第36条第1項(13)に定める「懲罰効果において実質的に前各号のいずれかと同等か又はそれ以上と判断される処分」に当たるかどうかについては、当該懲罰を受けるチームの勝ち負け等の状況によって判断せざるを得ない。
そして、これを本件について当てはめてみるに、本件試合において、不服申立人が2対0で勝利していた事実を踏まえると、本来得られたであろう3点の勝ち点が原懲罰②によって0点に減じられていることは明らかであり、懲罰規程第36条第1項(5)が定める「2点以上の勝点の減点」と同等か又はそれ以上と判断される懲罰効果があるものといえるから、本件は、同項(13)に定める「懲罰効果において実質的に前各号のいずれかと同等か又はそれ以上と判断される処分」に該当するものということができる。
よって、不服申立人は、原懲罰②について不服申立を行うことができる。

(2) 原懲罰②に対する不服申立の内容について
ア 本件選手の出場資格について
不服申立人は、「本件選手は、本件試合当時、指定公式検査を受けておらず、エントリー手続を経ていなかったものの、本協会への選手登録を完了し、Jリーグ規約第100条に定める『Jリーグ登録システム』にてJリーグ登録を行っており、出場資格に関するJリーグ規約第48条第1項及び試合実施要項第9条第1項の定める手続による出場資格を有していた。試合実施要項には、『出場資格』の項(第9条)と『エントリー』の項(第13条)とがあるところ、出場資格の有無については、『出場資格』の項の要件を充足しているか否かによって判断されるべきであり、同項による出場資格は有するがエントリー手続に不備がある選手は『出場資格の無い選手』には該当しない。したがって、本件選手は出場資格を有しており、本懲罰基準にいう『出場資格の無い選手』に当たらないから、それにもかかわらず、本件選手について、『出場資格の無い選手』に当たるとして、本懲罰基準に該当することを前提として懲罰を科した原懲罰の決定には、規定の適用に誤りがある。」旨主張する。

そこで検討するに、本協会の「サッカー選手の登録と移籍等に関する規則」は、第21条第2項で、選手の公式試合への出場資格について、「選手の公式試合への出場資格を競技会の大会要項により制限できる。」と規定しているところ、試合実施要項第13条は、その第3項で、試合にエントリーできる者についての要件を定めており、この要件を満たした者でなければ、試合にはエントリーできず、出場することはできないとしているのであって、これは、まさに競技会の大会要項によって出場資格が制限されていることを示すものである。

したがって、不服申立人の主張するJリーグ規約第48条第1項及び試合実施要項第9条第1項の定める手続による出場資格を有していることは、本件試合への出場資格を有することの必要条件ではあるが、それだけでは足りず、上記試合実施要項第13条第3項に規定されている要件を満たさなければ出場資格を得ることはできない。
そして、関係資料によれば、不服申立人も認めているとおり、本件選手は、同条第3項に定める指定公式検査を受けていなかった者であるから、本件試合において本懲罰基準に規定する出場資格の無い選手であったことは明らかである。よって、不服申立人の上記主張は理由がなく、失当である。

イ マッチコミッショナーの関与について
また、不服申立人は、本件選手が出場資格が無いにもかかわらず本件試合に出場した経緯について、「本件試合のマッチコミッショナーに対し、本件試合について指定公式検査の検査結果が反映されたエントリー可能者リスト及び本件選手がメンバーとして記載されたJリーグメンバー提出用紙を提出したところ、マッチコミッショナーから、本件選手がエントリー可能者リストに記載されていないことを指摘されるとともに、その際、本件選手がエントリー可能者リストに記載がなくても、本件選手が新型コロナウイルス感染症の陰性判定を得ていることが証明できれば本件選手は本件試合に出場することができる旨の発言があった。そこで、マッチコミッショナーに対し、本件選手が陰性判定を得ている旨を告げ、抗原検査における陰性判定の結果を撮影した写真を示したところ、マッチコミッショナーが、本件選手が本件試合に出場することを承認したので、本件選手は本件試合にエントリーして出場したものである。マッチコミッショナーは、Jリーグのチェアマンが任命して派遣されるものであり、キックオフ時刻の変更についての承認権やエントリー完了後からキックオフ時刻までの間における選手の変更についての承認権等について権限を有しており、そのようなマッチコミッショナーからの提案と承認に基づき本件選手を出場させたのであるから、その出場は本懲罰基準にいう『不正出場』には当たらない。」旨主張する。

しかしながら、マッチコミッショナーの権限は、不服申立人が主張する上記程度のものに止まるものであって、選手の出場資格を与えるような重要な権限まではなく、そのことは、選手の出場資格に関する上記試合実施要項第9条及び第13条の規定からも明らかであるだけではなく、同実施要項第13条の2では、Jクラブの責に帰さない事由により指定公式検査において陰性の結果が得られない場合には、指定の期限までに、所定の方法によって、Jリーグのエントリー資格認定委員会に判断を求めてエントリー資格の認定を得ることができる旨のエントリー資格(出場資格)の取得方法についての規定まで定められているのである。

そして、関係資料によれば、本件試合は、2021年5月16日に行われたものであるところ、本件選手は、同年4月23日に行った新型コロナウイルス感染症の感染検査の結果、陽性と判定され、ホテル療養を行っていたため、同月29日に実施された新型コロナウイルス感染症に関するJリーグの指定公式検査を受検することはできなかったものの、その後、同年5月7日までには、保健所において実施されたPCR検査及び抗原検査により陰性が確認されており、Jリーグが定める試合日の4日前である同月13日までの間にエントリー資格認定委員会に判断を求めてエントリー資格の認定を得ることは優にできる状況にあった。

それにもかかわらず、不服申立人の側では、これを怠ったまま、本件試合当日、マッチコミッショナーに対し、本件試合についてのエントリー可能者リストに記載されていない本件選手がメンバーとして記載されたJリーグメンバー提出用紙を提出していたものである。

したがって、マッチコミッショナーからの上記提案があったとしても、不服申立人は、上記試合実施要項を熟知していたはずであるから、上記手続を怠ったまま上記メンバー提出用紙を提出して本件選手を出場させた点において、出場資格の無い選手を不正出場させた事実には変わりがないものと言わざるを得ない。結局、不服申立人のこの点に関する上記主張も理由がない。

ウ 情状による軽減について
(ア) 他方、本件において本件選手には出場資格が無いにもかかわらず不服申立人が本件選手を本件試合に出場させるに至った経緯については、関係資料によっても、不服申立人が主張するとおりのマッチコミッショナーによる積極的な提言と承認があったものと認められ、これが出場資格の無い本件選手を本件試合に出場させるに至った大きな原因となっていることは否めない(なお、本件選手に出場資格を与える権限がないにもかかわらず、その出場を承認し、本件選手を本件試合に出場させるに至った当該マッチコミッショナーに対しては、その後、Jリーグチェアマンから、「無期限の割当停止とする」との処分がなされている。)。

そして、マッチコミッショナーの権限の範囲及び役割等については、必ずしもJリーグに参加する各チームやマッチコミッショナー間で徹底されているようには思われない現状に照らすと、不服申立人の側の落ち度をあながち強く責めることまではできないものと認められる。

したがって、原懲罰②については、上記経緯に加え、本件選手は、保健所のコロナ関連の検査、自主的な抗原検査を実施していること等の事情をも併せ考えると、酌量すべき事情があり、本件試合に勝利している不服申立人に対して本懲罰基準に定められたチームに対しての「得点を3対0として負け試合扱いとする」との試合の没収の規定まで適用することは酷であり、情状による軽減を定めた懲罰規程第12条第2項(5)にいう「特に参酌すべきと判断される事情がある場合」に当たるから、原懲罰②についてはこれを取り消し、その懲罰を軽減すべきものと認められる。

なお、本件試合の相手チームは、当委員会の意見聴取に対し、原懲罰②の維持を希望している。そして、原懲罰②が維持された場合には、相手チームは、3点の勝ち点及び3点の得点を得られることとなる。

しかしながら、懲罰規程は、懲罰の対象となる者に対しいかなる懲罰を科すべきかという、懲罰を科すことを目的として定められているものであり、当該懲罰に関係する他の者に利益を与えることを目的としているものではない。したがって、本懲罰基準の適用によって関係者が得られる利益は、関係者がその適用を要求すれば得られるような当然の利益ではなく、当該懲罰の反射効に過ぎない。

そして、本懲罰基準を適用した原懲罰②は、不服申立人の本件不服申立により、未だ確定していないため、相手チームにおいてその反射効による利益を確定させているわけでもなく、現実に、本件試合では、得点0対2による敗戦結果となっていること等をも併せ考慮すると、懲罰規程第12条に懲罰の軽減規定がある以上、上記反射効を得られないことは当然にありうるわけであるから、原懲罰②の取消しによって、相手チームにおいて上記反射効を得られなかったとしても、やむを得ないものと思料される。

(イ) ところで、懲罰規程第12条第1項は、「違反行為が行われた場合においても、その情状において酌量しうる事情があるときは、その懲罰を軽減することができる。」と規定するものの、具体的な軽減方法についての規定は置いていない。

他方、チームに対する懲罰の種類については、懲罰規程第4条第2項に規定があり、同項では、(1)から(17)までの17個の懲罰が定められているところ、その内容を見てみると、懲罰の質としては最も軽いものと認められる(1)の「戒告」から始まり、以後、順次懲罰の質が重くなっていき、最後に最も重い懲罰であると認められる(17)の「除名」に至っているのであって、その並び順は、懲罰の重さの質的な順番にしたがって並べられているものと認められる。
そして、試合の没収については、勝ったチームが懲罰を受ける場合には極めて重い懲罰となることから、これを念頭に、軽い方から見て9番目に重い懲罰として、(9)に規定されているものと認められる。

そうすると、懲罰規程第12条第1項が、懲罰は軽減できる旨定めている一方で、懲罰規程にはその具体的な軽減方法についての規定が置かれていないことからすると、懲罰権者が懲罰を軽減するに当たっては、同条第2項に定める「情状において酌量しうる事情」を基に、合理的な裁量に基づいて、当該懲罰そのものについての軽い処罰、もしくは、当該懲罰よりも質的に軽い懲罰を科すことを許容しているものということができる。

(ウ) 以上よりすれば、本懲罰基準の試合の没収の懲罰を軽減する場合には、懲罰規程第4条第2項(9)が定める試合の没収の内容そのものを軽減するか、もしくは、これよりも軽いものとして定められている同項(1)ないし(8)の懲罰のうちの、軽減措置として相応しい懲罰を科することができるものと解される。

そこで、不服申立人に対しては、上記のとおり、試合の没収の懲罰を科することは酷であると思料される一方で、不服申立人については、上記手続の懈怠等の落ち度があったこともまた事実であるから、再発を防止するためにもある程度重い懲罰を科すことが相当であると思料する。よって、上記合理的裁量の範囲内で軽減した懲罰として、同項(3)の罰金の懲罰を選択することとする。また、その金額については、Jリーグにおける従前の制裁金及び罰金の賦課状況に鑑み、150万円とすることとする。

(3) 結論
以上の審議の下に、当委員会は、不服申立人の本件不服申立に対し、上記4記載のとおり決定することとした。

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