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FIFA U-17ワールドカップから ~技術委員長 反町康治「サッカーを語ろう」第34回~

2023年12月26日

FIFA U-17ワールドカップから ~技術委員長 反町康治「サッカーを語ろう」第34回~

インドネシアで11月10日から12月2日まで開催されたFIFA U-17ワールドカップで日本はベスト16で涙を飲んだ。今回はグループリーグでポーランドを1-0、セネガルを2-0で下してノックアウトステージ(R16)に駒を進めたが、その最初の試合でスペインに1-2で敗れ、優勝カップを掲げる夢は費えた。森山佳郎監督と選手は本気で頂点を目指していたから悔しさは大きかったが、試合後、スペインの監督、スタッフ、選手が日本に対してとった振る舞いはリスペクトの精神にあふれるものだった。勝って喜びを爆発させるのは勝者の特権だが、敗者をねぎらう姿勢を同時に持つこともスポーツには必須だ。ピッチに最後まで残って敗者と目を合わせて握手を交わし、短くてもいいから言葉をかけ、健闘をたたえ合う。そういうことがスペインはごく自然にできていた。あるいは日本は、それだけの行動を引き出すに値するグッドルーザーだったのかもしれない。日本はグループステージで南米の強豪アルゼンチンにも1-3で負けた。アルゼンチンやスペインのような強国の壁をいかにして乗り越えていくのか。敗戦を重く受け止めながら、私はしばし、アルゼンチンやスペインにあって、日本には無いものに思いをめぐらせた。

例えば、日本には「自分の好きなこと」「得意なこと」は進んでやるけれど、「嫌いなこと」「苦手なこと」はあまりしたがらない選手がまだいる。アルゼンチンやスペインにそういう「お山の大将」みたいな選手はいない。好き嫌いなどという個人の趣味嗜好はチームの勝利の前ではどうでもよいことで、選手のウイークな部分も常日ごろから接する監督やコーチが直せばいいだけのこと。そこに触ろうとしないから「このままでいいんだ」と勘違いし、それがその選手の日常になってしまう。日本では欠点に目をつぶって長所を伸ばすことが「是」とされやすい。小さなことにこだわると個性が失われると。しかし、スペインやアルゼンチンには、得意な部分を消されても十分に個性が輝いている選手がごろごろいた。言うなれば、彼らの方が選手としては「大人」だったということである。

スペインは戦術的には金太郎アメみたい感じがある。フル代表もアンダーの代表も中盤を逆三角形にした4-3-3を組んでくる。フル代表のブスケツ、ペドリ、ガビみたいなMFがアンダーの代表にもいる。さらに共通するのは、フル代表の武器であるポジションの優位性がアンダーの世代にもすでに刷り込まれていることである。例えば、スペインの1トップのマルク・ギウは日本のCB土屋櫂大(川崎フロンターレU-18)、本多康太郎(湘南ベルマーレU-18)の中間に必ず立ってくる。そうやって2人のCBを同時にけん制するわけである。FCバルセロナ所属のこのセンタ-フォワードはその上で背後を狙ったり、下りてきてくさびのパスを引き出しては前を向ければ向き、向けなければ味方に落としたりした。プレーの優先順位が常に明確だった。同じような優位性をスペインは、ウイングの選手が位置取り一つでサイドバックやボランチの動きを抑止するなど、サイドでも仕掛けてきた。試合自体は名和田我空(神村学園高)の同点ゴールで接戦に持ち込めたが、チーム戦術の面で見ればスペインの方がやはり「大人」だったと思う。

アルゼンチン戦で日本はFKから失点した。震源はペナルティーエリア近くで反則を誘うゴリゴリ感満載のFWがいたことである。フル代表で前線を張ったカルロス・テベスやセルヒオ・アグエロの系譜を受け継ぐアタッカーというか。決して体格に恵まれているわけじゃないけれど、ひるむことなくDF陣の間を突き破ろうとする。考えが整理され、意思がプレーに表れるアルゼンチンやスペインのアタッカーに比べ、日本の選手はその点、何となくやっているというか、駆け引きの経験が足りないと感じた。

スペイン戦に限れば、日本は休養が中2日と相手より1日少なく、バンドンからスラカルタに移動して戦うハンディもあった。アジア予選で活躍したFW道脇豊(ロアッソ熊本)がケガでぎりぎり間に合い、本調子から遠かったのも残念だった。ただ、これは言えると思うのは、日本でゴールにハングリー感があるアタッカーは高校のサッカー部でやっている選手に多いことである。今回日本の全5得点中4点を挙げた高岡伶颯(日章学園高)や名和田もそうだ。確証があるわけではないが、周りから「おまえしかいない」と託され、本人も「俺がやるしかない」と思い定める環境が高校サッカー部の方にあり、それがたくましいFWを育むのかもしれない。

SAMURAI BLUEの森保一監督に言わせると「欧州に行くと選手は2カ月で劇的に変わる。特にボールを奪う迫力が変わる」そうだ。それをU-17日本代表を率いた森山佳郎監督は引用して、今大会は「アリバイづくりみたいにボールを奪いにいくな」とカツを入れていた。「取りに行くなら本気で取りに行け」と。そんな森山監督が将来の日本サッカーに対する懸念として私に吐露したのは、オーバーナンバーのトレーニングが多いのではないかということだ。例えば5対2のボール回し(ロンド)や4対4+3フリーマンであるとかボールを持っている側の判断が少し遅くてもプレーできる練習に慣れきってしまうと、最近のマンツーマン気味に張り付くハイプレッシャーな戦いにとてもじゃないが対応しきれないと思うのだ。4対4の同数にしてタッチ数も制限するとか、人に強い選手が当たり前のように出てくる練習をさせないと、どうしたってスペインやアルゼンチンとの差は開いてしまうだろう。人形を立ててその脇を通過させるようなコンビネーション練習の効果を全否定するわけではないが、こうした練習ばかりしていると肝心の対人感覚が磨かれないということも今後考えていく必要がある。

日本の選手にもいいところはたくさんある。育成の仕組みも今や世界から一目置かれている。アンダーカテゴリーで全国大会に出場するようなチームに入れなかったからといって「そこで終わり」とはならず、後から伸びてくる選手をすくい上げる網が機能している。ただし、選ぶ側の指導者は大変である。日本サッカー協会に所属するJFAコーチは指導者養成のチューターもやっているけれど、それ以外に選手のスカウティングにも奔走している。高校年代でいえば週末になるとU-17日本代表の森山監督、広山望コーチ、高橋範夫GKコーチ、村岡誠フィジカルコーチらが手分けして試合を見て回っていた。1人が1日2試合見るとしても8試合が最大。それでは足りないということで他のコーチも手伝った。これがスペインならバルセロナとレアル・マドリードといったビッグクラブの育成組織を視察しておけば、事足りるのかもしれない。ある程度、U-15のキャンプでタレントはセレクトされているとはいえ、日本はどこに逸材が眠っているか分からない。それで「雨にも負けず、風にも負けず」の宮沢賢治の世界のごとく、JFAのコーチたちは日本中を行脚するわけである。

アンダーカテゴリーのワールドカップが終わる度に思うのは、大会終了後の選手たちが置かれる環境の落差である。バルセロナやレアル・マドリードなど、ラ・リーガのクラブに籍を置くスペインの俊英たちには、ギウのように既にトップリーグで経験を積む者がいる。そこまではいかなくても、U-21やU-19のリーグで毎週末しのぎを削る日常がある。日本の高校生年代にそういう日常はない。FIFA U-17ワールドカップ期間中に大きく成長しても、日本に戻ると自分の所属チームの水に慣れ、「このままではヤバい」という危機感をいつの間にか失ってしまう。

できることからやっていこうということで、JFAは11月の理事会でJFA・J特別指定選手制度に「JFA推薦の特別指定選手」の追加を決議した。Jクラブのアカデミーに所属する選手は2種登録選手としてJリーグ等の公式戦に出場できるから、今回の決議の対象外。我々が狙いとするのは、いわゆる町クラブや高体連の逸材をJFA推薦という形をとってJクラブで練習させたり、Jリーグ等の公式戦に出したりすることである。選考はJFA技術委員会で行い、受け入れ先は選手の負担を考慮して、その選手が通うチームと同一都道府県内のJクラブにする。今大会で日章学園の高岡は大活躍をしたが、そんな彼がもっと大人のサッカーができていたら、もっと爆発的なことができていたかもしれない。そんな流れを、この制度を使って加速させていきたいのである。

私は、世界から評価されるようになった日本サッカーがもうワンランクもツーランクも上がるには「自立と自律」が必要だと思っている。監督やコーチから言われて何かをやるのではなく、もっと内発的というか、その選手自身の内からあふれ出るエネルギー、モチベーション、野心みたいなものに突き動かされて、自分から自分で練習も試合にも取り組めるようになるべきだと。スペイン、アルゼンチンにあって、日本にはない、あるいはあっても足りないと感じたものを根元までたどっていくと、そこに行き着く気がするからだ。

2015年にU-15日本代表監督に就任して以来、長年にわたってアンダーカテゴリーの強化に身を粉にして働いてこられた森山監督は来年からJリーグの仙台の監督に転身することになった。我々としては非常に残念であるが、本人の意向を尊重するのは当然のことであり、今は感謝の念を持って、ゴリさんこと森山監督を快く送り出したいと思う。新天地での御活躍を心よりお祈り申し上げます。そして思うのだ。広島のユースチームを率いて頭角を現したゴリさんは日本のU-17のスタッフや選手たちとともに世界に挑み、今度はJリーグに挑戦する。青森山田高校で全国制覇し、今季はJ2の町田を率いてJ1に昇格させた黒田剛監督みたいなケースも出てきた。指導者のパスウェイもいろいろだ。既成概念にとらわれず、埋没することなく自分で自分の殻を破り、彼らの後に続く、指導者がこれからもっともっと出てきて欲しい。

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