JFA.jp

JFA.jp

EN
ホーム > 最新ニュース一覧 > U-22日本代表と特別指定選手 ~技術委員長 反町康治「サッカーを語ろう」第33回~

ニュース

U-22日本代表と特別指定選手 ~技術委員長 反町康治「サッカーを語ろう」第33回~

2023年11月13日

U-22日本代表と特別指定選手 ~技術委員長 反町康治「サッカーを語ろう」第33回~

大岩剛監督に率いられたU-22日本代表は9月から10月にかけて3つの活動を行った。まず9月7日から13日まで「AFC U23アジアカップ カタール 2024予選」をバーレーンで戦い、9月20日から10月7日までは中国の杭州で開催された第19回アジア競技大会に参加した。その後、米国のフェニクッスに飛んで10月14日にメキシコ、17日に米国と強化試合を行った。JFAの技術委員長として、これまでさまざまなチームの団長を務めてきたが、オリンピックを目指すチームに同行し、活動の最初から最後までつぶさに観察したのは実は今回が初めてだった。チームのみならず、私にとってもいろいろと実りの多い旅だった。

行動をともにすることで、大岩監督のマネジメントやチーム全体のオペレーションがどのように行われているか、つぶさに把握できたことも収穫の一つ。大岩監督のチームは非常に統率が取れていて、「郷に入っては郷に従え」という言葉をもじれば「剛に入っては剛に従え」という感じ。SAMURAI BLUEの森保一監督と同様、選手との対話は大事にしつつも、大岩監督は自分の基準をはっきり示し、それについてこられる選手は機能するというスタイル。陣頭に立つ指導者像は、これからの若い選手が多いU-22のチームづくりにマッチしていると感じた。攻守をシームレスにハードワークするのはナショナルチームを横にも縦にも貫くコンセプトであり、常にそこは話し合いの場を設けて上から下まで目線を合わせているので心配はない。チームづくりは順調に進んでいる。

サウナ風呂のような高温多湿のバーレーンではパキスタンに6-0、パレスチナに1-0、バーレーンに0-0で引き分けて無事、来年4月のパリオリンピック最終予選を兼ねたAFC U23アジアカップに駒を進めることができた。気温の高さは尋常ではなく、ビーチの海水ですら、なめたら塩の味はしたが足を入れると風呂のような熱さだった。そんな酷暑に苦しみながらも日本はターンオーバーを活用し、ダブルチーム体制で試合をコントロールした。Jリーガーと海外組で編成された我が方は選手をどのように使い回しても戦闘力が落ちない。この選手層の厚さは日本にしかない武器だった。他のライバルを見渡せば、イランが最終予選に進めなかったのは大きなトピックだった。一方でベトナム、タイといった常連に加えインドネシアが予選K組で1位になって初出場を決めたのは、東南アジアの近年の勢いの良さを感じさせる。出場16チームの中から来春、パリ行きのチケットを無条件で手に入れられるのは上位3チームのみ。どのチームも着実に前進しており、非常に厳しい戦いになることは覚悟の上だ。3位決定戦で敗れて4位になるとアフリカのギニアとのプレーオフに回ることになるから、そこは何としても避けたいと考えている。

本番のドローは11月23日に行われる。日本は昨年の前回大会で3位になったことで地元のカタール、優勝したサウジアラビア、2位のウズベキスタンとともに第1ポッドに入ることは約束されている。ライバルの韓国は第2ポッドだから、抽選次第で日本と同居する可能性がある。どんな組み合わせになるにしろ、日本の対戦相手は徹底的に引いた省エネサッカーを仕掛けてくるだろう。今回の予選で日本と引き分けたバーレーンもパレスチナやパキスタンと戦うときは4バックだったのに、日本戦だけ5バックで後ろをガチガチに固めてきた。日本が確固たる地位を築いた証しなのだが、来春の本番でも相手の専守防衛に手を焼くことは間違いないだろう。

杭州のアジア大会は銀メダルを獲得できた。惜しくも決勝戦は韓国に1-2の逆転負けを喫したが、条件的にいろいろなハンディを背負った中で、よく戦ってくれたと思う。ファイナルのテレビ視聴率は15.1%という高い数字をはじき出したそうだ。相手がアジアのライバル韓国だったからなのか、アジア版のオリンピックとして他のいろいろな競技・種目と同時進行することによる相乗効果があったからなのか。分析はできていないが、SAMURAI BLUEのように名の知られた選手が大勢いるわけでもないチームの戦いに、これほどの関心が集まったことを素直に喜びたいと思う。同時に選手を派遣してくれたチームの関係者にこの場を借りて謝辞を述べたいと思う。

今回のアジア大会もそうだったが、オリンピック出場を目指すチームに対しては、いつも世間一般の方々から苦情めいた意見を聞かされることが多い。ひと言でいうと「分かりにくい」と。中にはアジア大会とアジアカップの区別がつかない人が結構いて、余計に頭の中が混線するらしい。どの大会にどんな選手が出ていて、どちらが重要なのか、ワケが分からないというのである。理由の一つにチームの呼称はあるのだろう。欧州はフル代表のユーロ(欧州選手権)と平行してU21のEUROが行われ、その上位チームにオリンピックの出場権を与えている。来年のパリオリンピックの出場チームも今年夏に行われたユーロの結果を基にスペイン、イスラエル、ウクライナに決まっている。大会の呼称はU21 EUROでも出場資格は2000年1月1日以降生まれの選手に与えられていたから、実際にはU23の選手も出ていた。

日本はその線引きを非常に厳密にやっている。来年のパリオリンピックの男子サッカーは2001年1月1日以降生まれの選手に出場資格があり、そこに3人のオーバーエージ(OA)を加えることが認められている。最終着地点のオリンピック本番にそういう年齢制限があるのであれば、そのプロセスにある大会もすべてその基準に沿った選手で戦う方が本番に向けた強化に役立つ。そういう方針にのっとって、我々はこれまでU23 AFCアジアカップにU21の選手を送り込んだり、U24の選手にOAを加えることを許されたアジア大会にU22の選手で戦ったりしてきた。こんなに自らを厳しく縛って戦っている国はアジアでは日本くらいかもしれない。2022年にU21と呼ばれたチームは翌年にU22になり、オリンピック・イヤーになるとU23と1年ごとに呼び方が変わる。その間、選手の伸長に合わせて、あるいは国内の日程の絡みもあって派遣する選手が大幅に入れ替わることもある。それが一般の人からすると、この世代のチームの分かりにくさにつながっているのだろう。結局、このカテゴリーのチームはオリンピック予選を兼ねたU23アジアカップを勝ち抜いて「オリンピック代表」と正式に名乗れるまで、わかりにくさは解消できないのかもしれない。

アジア大会で銀メダルを手にしたU-22日本代表は、バーレーンでアジアカップ予選を戦ったチームとは別ものだった。我々スタッフはバーレーンの予選が終わると、ただちに羽田空港に帰り着き、その翌日には中国行きの機上の人となったが、羽田で選手だけを変更したという感じ。まさにタッチ・アンド・ゴーの慌ただしさだった。なぜ、選手を入れ替える必要があったかというと、アジアカップと違って、アジア大会はFIFA(国際サッカー連盟)公認の大会ではなく、インターナショナルウインドー(FIFA認定の国際試合期間)とは無関係に開催されているからだった。アジア大会ではクラブ側に選手をリリースする義務はなく、すべて応相談という形になる。その相談に乗ってくれたヴェルダー・ブレーメンの佐藤恵允やグレミオ・ノヴォリゾンチーノの松岡大起は、かなり前から交渉し準備を進めていたこともあり、今回メンバー登録することができたけれど、その他の海外組やJリーガーを招集するのは無理な状況だった。その結果、必然的に増えたのが、今回22人中10人を占めた大学生だった。我々にとって非常にありがたいのは、日本代表に招集されたら必ず選手を送り出すことを、全日本大学サッカー連盟は快諾してくれている。この協力的な姿勢に我々がどれほど救われていることか。

そういう経緯を知らなくてアジア大会を見た人は「この代表は、なんでこんなに大学生が多いんだ?」と疑問を持たれたことだろう。同時に既にプロに内定している大学生が多いこともテレビの実況を通して伝わったと思う。が、内定者が多い理由に「JFA・Jリーグ特別指定選手」という制度が関わっていることまでは知られていないのではないか。今回の大学組でいうと奥田勇斗(桃山学院大→セレッソ大阪)、今野息吹(法政大→ガンバ大阪)、吉田真那斗(鹿屋体育大→横浜F・マリノス)、関根大輝(拓殖大→柏レイソル)、重見柾斗(福岡大→アビスパ福岡)、山内翔(筑波大→ヴィッセル神戸)、日野翔太(拓殖大→サガン鳥栖)の7人が特別指定選手だった。

この制度、Jクラブのアカデミーに所属する選手が〝飛び級〟でJリーグの公式戦に出ることができるように、アカデミー以外のタレントも大学や高校、タウンクラブといった種別・学校の垣根を越えて、Jの舞台を踏めるようにする仕組みである。現在はJ1とJ2は3名まで、J3が2名まで登録を認めている。

制度自体が発足したのは1998年のことだ。最初は高校生だけが対象だった。第1号は帝京高校で「和製ロナウド」と呼ばれた矢野隼人さん。1999年に強化指定されてヴェルディ川崎(現東京ヴェルディ)で公式戦に出た。ヴェルディの神童といえば、2004年シーズンに15歳10カ6日で公式戦に出場した森本貴幸がいるが、彼はヴェルディのアカデミー所属だから、この制度を利用する必要はなかった。ここからは私の勝手な推測だが、強化指定という枠組みが考案されたのは、時期的に見て、1998年のFIFAワールドカップに18歳で出場した小野伸二が頭角を現したことと無縁ではないだろう。小野のような高校生がこの先も現れたとき、高体連の大会だけにとどめておくのは致命的な機会の損失ではないのか? そんな議論があったと思うのである。

それはさておき、この制度、当初はいろいろな問題があったようだ。就職戦線でいえば「青田買い」のようなもので、早めにつばをつけて新卒者の囲い込みをするのは一般企業でもあることだが、制度を利用しながら卒業の段階になってクラブがその選手と契約しないとか、逆に選手が別のチームと契約してしまうとか、いろいろと紆余曲折があったと聞く。問題を放置するとクラブの補強戦略に狂いが生じ、パワーバランスが崩れてしまう。大学側・選手にとってもよろしくない。それでJ1とJ2は3人、J3は2人と枠を設け、特別指定=内定=仮契約を前提とする現在の形に落ち着いた。これで選手は安心して競技に打ち込めるようになった。

特別指定の数は年々増えている。2018年は27人だったのが、2019年は40人、2020年は55人、2021年は60人。2022年は48人に減ったが、9月に集計を終えたばかりの2023年の最新の数字は75人に増えた。内訳は大学4年生が57人、大学3年生以下が12人、高校やタウンクラブが6人。上限が3人だと、計算できる即戦力の大学生で枠を埋めるのは自然の流れだろう。大学生の特別指定の増加は三笘薫(ブライトン・アンド・ホーヴ・アルビオンFC)、旗手怜央(セルティック)ら大学出身者の活躍も刺激になっているのだろう。三笘は筑波大、旗手は順天堂大在学中に、ともに川崎フロンターレの特別指定選手になった。

この制度について実際に経験した選手や指導者らにアンケートを取ると「試合に出られなかったけど、練習参加だけでもすごくいい経験になった」「多くのことを学べた」というポジティブな回答が多い。個別に「主力選手を週末の大学の大会にエントリーできない。その選手がJリーグのベンチに座って試合に出ていないのを見ると切なくなる」といった苦情はある。選手を送り出す側のそんな気持ちも分かるので、Jクラブにはくれぐれも運用には気をつけて選手の成長を促すような遇し方をしてほしいと切にお願いしている。2023年10月20日付けのFIFAの公式ホームページは、日本サッカーが大学経由で多くのタレントを輩出していることを驚きの目で紹介している。
https://www.fifa.com/fifaplus/en/news/articles/japan-unique-combination-football-education

その一文を抜粋すると、「確かに、このプロへの道から遠回りする習慣は日本サッカーの大きな利点である。実際のところ、それを回り道と呼ぶことはもはや当てはまらないかもしれない。日本の大学サッカーはアマチュアリズムの域を超えている。これは、最も優秀な人材の多くが成長の機会を模索し、プロの舞台で自分の可能性を最大限に発揮できるエコシステムとなっている。改善の余地と固有の課題はあるけれど、それは依然として日本サッカーの人材の生産ラインにおける重要な要素になっている」

選手が大成していく上で、パスウェイが豊富なことは、日本サッカーの武器であると私もこのコラムで繰り返し述べてきた。種別・学校の垣根を越えて、鉄は少しでも熱いうちに打つ、という特別指定はその一助になっていると言えるだろう。

話をU-22日本代表に戻そう。アジア大会が終わると、今度は同日に米国に飛んで、メキシコ、米国と手合わせした。北中米カリブ海地域のパリオリンピック予選は既に終わっており、チケットを手にしたのはドミニカと米国。東京オリンピック銅メダルのメキシコは今回3位に終わり、パリには来られない。この地域も競争は苛烈ということだろう。試合の方はメキシコに4-1で勝ったが、同じスコアで米国には敗れた。

北中米と対戦すれば、南米にも目を向けたいということで、今年の試合を締めくくるのが11月18日に静岡のIAIスタジアム日本平で行う、U-22アルゼンチン代表との強化試合である。南米のパリオリンピック予選はまだ終わっておらず、アルゼンチンもこの遠征を大事な強化試合と認識している。18日の試合後、21日に同じ場所でトレーニングマッチを非公開でやるくらいだ。現在FIFAランキング1位の世界王者は、いついかなるときも手を抜かず、しっかりとしたチームを送り込んでくるから有意義な試合になるだろう。インターナショナルウインドー期間中ということで、こちらも海外組を呼び戻してガチの体制で臨む腹づもりだ。18日の試合には是非とも大勢のファン、サポーターの皆様に応援に駆けつけていただきたい。

ここまでのU-22日本代表の活動を振り返ると、昨年6月のAFC U23アジアカップ ウズベキスタンで3位に終わった後は公式戦の数に恵まれなかった。それでフル代表のインターナショナルウインドーを利用して欧州遠征を積極的に重ねた。9月はスペイン、イタリアを転戦し、スイスとイタリアのU-21代表と試合をした。イタリアには元日本代表監督のアルベルト・ザッケローニさんが視察にきてくれた。今年の3月にはフランクフルトでドイツと、スペインのムルシアでベルギーと戦った。ドイツでは長谷部選手とGKの川島選手が応援に来て差し入れもしていただいた。6月にはイングランド、オランダとも強化試合を組めた。そうやって毛色の異なるチームと手合わせしてきたことの集大成が、今度のアルゼンチン戦になる。9月から10月にかけての活動だけでも40-50人くらいの選手を連戦の中で試すことができた。母体となるパイを大きくする上で本当に有意義な活動だった。ここからU-22日本代表を飛び越して、SAMURAI BLUEに選ばれる選手が出てくる予感がするくらいである。アルゼンチン戦はこれまでの活動のすべてを網羅した中からベスト・オブ・ベストの編成をして臨むつもりだ。すべてはアジアカップを勝ち抜いて、パリになんとしてもたどり着くため。念頭にあるのはオリンピックのメダルである。

JFAクラウドファンディング実施中
日本代表の未来をみんなでつくろう!ユース育成から世界トップへ

「日本がワールドカップのトロフィーを掲げる」この夢の実現のためにクラウドファンディングに挑戦することを決めました。第一弾は「ユース育成」です。世界の強豪国の中でワールドカップ優勝を目指すためには、可能性ある若い選手を育成する取り組みが鍵となります。未来の日本代表選手のために、ご支援をお願いします。

アーカイブ
JFAの理念

サッカーを通じて豊かなスポーツ文化を創造し、
人々の心身の健全な発達と社会の発展に貢献する。

JFAの理念・ビジョン・バリュー