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「ソリダリティの精神」東日本大震災から10年~リレーコラム 第14回~

2021年04月02日

「ソリダリティの精神」東日本大震災から10年~リレーコラム 第14回~

東日本大震災から、10年の時がたちました。国内外から多くのサポートが寄せられ復旧が進んだ一方で、復興にはまだ長い道のりが残されています。それぞれの立場で、東日本大震災とこの10年間にどう心を寄せ、歩んできたか。ここではサッカー関係者のエッセイやコラムをお届けします。

第14回は、東日本大震災発生時にSAMURAI BLUE(日本代表)のキャプテンを務めていた長谷部誠さんです。

東日本大震災の被災地と被災者を支援するチャリティーマッチを大阪の長居スタジアムで行うと聞いたとき、いろいろな葛藤が僕の中であったのは確かです。2011年3月11日に起きた大地震により、巨大な津波が東北の沿岸地域を襲い、福島第一原子力発電所も大きな被害に遭いました。日本サッカー協会(JFA)が「東北地方太平洋沖地震復興支援チャリティーマッチ がんばろうニッポン!」の概要を発表したのは地震から6日後の17日。「早すぎる」「こんな状況でサッカーをする気か」という世論があるのを感じました。僕は、ドイツで暮らしているので日本の正確な状況はよくわからないけれど、JFAとコンタクトを取り、選手同士でも話し合う中で、サッカー界として何か行動を起こすことは意義があるようにも感じました。やる前は、それが果たして正しいのかどうかよくわからなかったけれど、結果的にスポーツ界、サッカー界からの発信として、良いものになったと思っています。

地震が起きた日本時間の午後2時46分はドイツの早朝で、ちょうどトイレに起きるくらいの時間でした。それからは携帯電話が何回も鳴り、メールも次々に送られてきて日本が大変な危機に陥っていることを知りました。いっぺんに目が覚めて、そこからはインターネットの画像や映像にくぎ付けになりました。僕はドイツで暮らして14目年になります。これだけははっきりしているのが、日本の出来事がドイツのマスメディアで取り上げられることはそれほど多くないのですが、東日本大震災に関するニュースは例外だったということです。ドイツにとって「脱原発」が政治の一大テーマであることも関係するのか、報道番組も連日連夜、東日本大震災のことがトップニュースになるほどでした。新聞の1面、雑誌のカバーストーリーも同様。たぶんドイツだけでなく、世界中があの時はそうだったのだろうと思います。当時、僕はヴォルフスブルクの一員でしたが、チームメートにもものすごく心配されました。厳格なチーム管理と猛練習を課し、選手との間に一線を画すことで知られたフェリック・マガト監督でさえも「ハセ、大丈夫か。ファミリーは無事か」と、珍しく気にかけてくれたほどです。

実際に被災した東北や関東と異なり、大阪は計画停電等の影響も小さく、常と変わらない日常のように感じました。それでも、公開した練習に集まったファン・サポーターからは募金活動などを通して、被災地・被災者に対して何か行動したいという強い思いを感じました。その気持ちは、集まった選手やザックさん(アルベルト・ザッケローニ監督)、チームスタッフ、JFAの人たちも同じでした。練習後の募金集めにしても別に誰かが率先したわけではなく、みんなが同じ思いを持っていたから自然に行動に移せた感じでした。このチャリティーマッチから、地震や台風などの被害に遭われた方たちに対して、JFAやJリーグ、Jクラブが試合会場などで募金活動を行い、被災地に届けることに積極的になった気がします。そういう形がここで一つできたのも、意味のあることだと思います。

試合で覚えているのは、やはりカズ(三浦知良)さんのゴールでしょう。先発した僕は前半で退き、後半はベンチから見ていました。62分に中村憲剛さんと交代でピッチに入ったカズさんが82分にシュートを決めたとき、気持ちは喜んでいるのに「うん? 待てよ。これって俺たち、失点したんだよな?」と一瞬リアクションに迷いました。ベンチのみんなも「ウオー」と叫んで立ち上がったものの、そのままはしゃいでいいものかブレーキがかかった感じで……。試合後、ザックさんが「監督を長くやって、相手のゴールを喜んだのは初めてだ」と語りましたが、僕に湧いた感情も初めてといえるものでした。先日、カズさんがあの試合を振り返って「自分のゴールに本当にたくさんの方が―被災された方々も―すごく喜んでくれて。ゴールというものにあんなに力があるのかと、僕自身も知らされた思い」と語られているのを知りました。10年前のカズさんは44歳。それで代表からゴールを奪うなんて本当にすごいことだと今でも思います。同時に、あの、見る者すべてを幸せにするゴールに僕が感じたのは「サッカーの神様は本当にいるんだなあ」ということでした。

試合が終わった後は、ひとりのサッカー人として、スポーツの力、サッカーの力を感じることができて、サッカーをやっていてよかったと素直に思いました。すごくほっとしたことも覚えています。最初に述べた通り、復興支援の試合をすることに自分の中で正直、葛藤がありましたから。当時の深刻な事態を考えると、サッカーの試合を見られるような状況にない被災地、そんな気持ちになれない被災者の方は大勢いたと思うのです。もともと自分は物事に正答を強く求めるというか、白か黒か、ゼロか100か、はっきりさせないと気が済まない性格です。勝負の世界に生きることで、そういう部分がさらに助長された気もします。とにかく、社会貢献的な活動をするときにも「ただの自己満足でやっているだけではないか」とか「周りにちゃんと真意が伝わるだろうか」とか、あれこれ考えてしまうのです。しかし、ありがたいことに、大阪からドイツに戻った後、開設しているブログを通じて多くのポジティブなメッセージをいただきました。クラブ宛てにも被災地から手紙を何通もいただきました。そこには、あの試合への感謝の思いがつづられていました。その言葉の数々に僕自身がどれだけ救われたことか。2007年から始めた国連児童基金(ユニセフ)を通じた社会貢献活動、そして東日本大震災の復興支援活動などを通じて、僕自身は白と黒の間にもいろいろな「色」があることを学んだように思います。自分のやることがいつも正しいとは限らないし、すべての人に受け入れられることもない。賛否は必ずある。でも、一番いけないのは、否を恐れてその場で立ちすくみ、結局何もしないことだと。

チャリティーマッチの後、シーズンオフの期間に被災地に出入りするようになりました。特に宮城県・南三陸町には再建のお手伝いをさせてもらったあさひ幼稚園があることから、毎年通うようになりました。今の園児たちは震災のことを知らない。震災の頃、園児だった子どもたちはもう中高生になっている。そんなことを思うと月日を感じます。10年の歳月はいろいろな変化を感じさせてくれます。道路とか建物とか目に見えるものは整備されてきた実感があります。でも、心に負った傷はどうでしょうか?人の心の内側はなかなか見えないものですし、心の奥底にある悲しみまでは自分には感じ取れないと思うことも当然あります。例えば、震災から10年の節目ということで、いろいろなことが集中的に大量にメディアで取り上げられると思うのですが、それを被災した人たちはどういう思いで見ているのだろうかと考えたりします。しかし、そういうことに気を遣い過ぎて、足が遠のくというのも変だと思うんですね。昨年はコロナ禍で、あさひ幼稚園に足を運べなかった。8年間、続けたことを新型コロナウイルスに邪魔されてしまったわけです。新型コロナの危機が去れば、再び足を運ぶつもりでいます。通うことで全てがわかるわけではありませんが、実際にその場に行かないと分からないことはたくさんありますから。大切なことは続けることだと思っています。

10年前のチャリティーマッチは、ソリダリティー(連帯)の一つの形を示したのではないでしょうか。同じ気持ちを持ち寄って、みんなで支え合えば、大きな力を生み出せる、ということを。「自分だけが良ければそれでいい」ではなく、どれだけ自分のことのように他者に思いを巡らせることができるか。そうやって紡がれる連帯の精神は、コロナ禍という現在の苦難を乗り越える上でも大事な要素だと思います。日本代表の試合は、そういう気持ちのつながりを自然に生み出してくれるもの。代表戦が日本国内で一日も早く見られるようになることを願っています。

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