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歴史に対するリスペクト ~いつも心にリスペクト Vol.37~

2016年06月03日

歴史に対するリスペクト ~いつも心にリスペクト Vol.37~

4月中旬以来熊本県を中心に九州の中央部を襲った群発地震には本当に心が痛みました。地震による災害はこれから何年間も人びとを苦しめることになります。官民を問わず、国を挙げて支援を継続することが必要です。

さて公益財団法人日本サッカー協会は今年、95周年を迎えます。1921年、大正10年の創立。2年後の関東大震災も、その後の戦災やいくつもの天災も、すべてその歴史の中にあります。そう考えると、私たちの先輩がたくさんの苦難を乗り越えてサッカーに取り組み、日本のサッカーを形づくってきたことが理解できます。

1993年のJリーグの誕生は、日本の歴史で言えば「明治維新」のような大変革だったでしょう。サッカーが日本人の多くの人が関心をもつメジャーな競技のひとつに仲間入りし、ファンも飛躍的に増えました。

その結果、Jリーグ以前には日本にはサッカーがなかったように思っている人も少なくありません。私は「明治維新」と表現しましたが、Jリーグ以前を「紀元前」のような感覚で見ている若者も少なくないのではないでしょうか。

しかし日本のサッカーは、初めて欧州に渡った1936年のベルリンオリンピックで優勝候補の一角であるスウェーデンに3-2で逆転勝ちして驚かせたことがあります。さらに1968年のメキシコオリンピックでは銅メダルを獲得し、世界のファンに感銘を与えました。協会創立の年、1921年に始まった全日本サッカー選手権大会(天皇杯)は、今年で第96回大会を迎えます。

私が敬愛するお二人の先輩がいます。賀川浩さん(91歳)と牛木素吉郎さん(83歳)です。賀川さんは大阪の『サンケイ・スポーツ』紙で、牛木さんは『読売新聞』でご活躍され、同時に、私が一時期編集にたずさわっていた『サッカー・マガジン』の定期的な寄稿者でもありました。

お二人とも高齢になりましたが、現在は、多くのファンにとって「紀元前」であるかもしれないJリーグ以前、さらにそれ以前の日本のサッカー史を調べ、書き残すことに情熱を注がれています。

一昨年の1月に「FIFA会長賞」を受賞された賀川さんは、ご自身が活躍された関西のサッカー人を中心に、サッカーの普及や発展に功績のあった人びとの事績を詳しく書かれています。そしてその記事を「賀川サッカーライブラリー」としてネット上で公開されています。

牛木さんはサッカーをいろいろな方面から研究する人びとを集めて「ビバ!サッカー研究会」を主催し、また「日本サッカー史研究会」を組織してこれまで埋もれていた資料の発掘や、サッカー史の隠れた証人からお話しを聞くなど「日本サッカー史」を豊かにする材料を集めています。

ヨーロッパでは、若いファンでもクラブの「レジェンド」と呼ばれる選手のことをよく知っているのに驚きます。選手の話だけでなく、クラブの苦難の歴史や、再興を担った役員のことまで話してくれるのです。

それは、父親や先輩のファンから何度も何度も話し聞かされているうちに自分自身の知識となり、まるで自分がその選手のプレーを見たり、一緒になってクラブ再建の仕事をしたように思えるまでになったのでしょう。

自分自身が所属する社会やグループの歴史を知ることは、その社会やグループへの誇りにつながり、自分自身の誇りにもなります。「歴史へのリスペクト」を欠く社会やグループは、その場その場の成功不成功に一喜一憂するだけの薄っぺらな存在になってしまいます。

2021年の「協会百周年」に向け、日本のサッカーの歴史がまた掘り下げられ、ひとつの形にされていくでしょう。しかし後からくる世代に対し、さらに歴史を語り継ぎ、イメージをより豊かにし、そして誇りを持てるものにしていく努力を止めることは許されません。賀川さんや牛木さんの思いを後に続く私たちみんなで受け止め、引き継いでいかなければならないと思っています。

寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)

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