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アメリカ国民が盛り上げたワールドカップ ~いつも心にリスペクト Vol.160~
2026年09月25日

「世界のサッカーへのリスペクトはあるか?」――。
6月号のこのコラムで、私はそんなことを書きました。
今年のFIFAワールドカップの主要な開催国となったアメリカ。ワールドカップは世界中の人々が心待ちにする「人類のお祭り」であり、サッカーの世界最高の大会です。しかし32年前、1994年にこの国で行われた大会では、スタジアムは満員になり、試合も盛り上がりましたが、街にはまったくお祭りの雰囲気がなく、寂しい大会でした。アメリカは世界中のファンの気持ちを理解し、国を挙げてその楽しさが出せるだろうかという問いかけでした。
その面で言えば、今回の「アメリカ大会」は大きな成功だったと言えるように思います。
さまざまな問題があったのは間違いありません。最大の問題は、現在のアメリカが抱える世界との関係の複雑さで、いくつもの国からの人々の入国を拒否していることでした。大会直前には、ソマリア国籍のレフェリーがアメリカ入国を拒否され、大会に出場できないという事件も起きました。
アジア予選を勝ち抜き、上位進出が有力視されていたイランは、アメリカなどとの間で戦争状態にあり、一時は「不出場」も伝えられました。そして全3試合がアメリカ国内での開催だったにもかかわらず、メキシコに滞在し、そこから試合地に「とんぼ返り」のように訪れて試合をするという、不利な形を余儀なくされました。
何より今大会で大きな問題になったのは、チケットの高騰でした。これまでの大会より数倍高く設定された上に、「ダイナミックプライシング(需要と供給の関係で値段が上下する)」という制度が採り入れられ、重要な試合は法外と言っていい価格となりました。
それに加え、大会を主催する国際サッカー連盟(FIFA)が「転売価格」の制限を撤廃したことがファンを苦しめました。前回大会までの「公式転売サイト」では、定価での転売しか認めていませんでしたが、今回は転売希望価格を自由にし、しかも取引が成立すると両者から15%ずつ、すなわち計30%をFIFAは徴収したのです。
「すべてアメリカの商慣習による」と説明しましたが、世界中のファンが悲鳴を上げました。
最終的にFIFAはこの大会の収益を約150億ドル(約2兆5000万円)と発表しました。今大会の出場国で言えば、ウルグアイの国家予算に匹敵する額です。
ラウンド32で退場処分になったアメリカのバログン選手が、トランプ大統領からFIFAのインファンティーノ会長への電話で次戦に出場できるようになりました。これも、チケットの問題とともに、アメリカというよりFIFAが責めを負うべき問題です。
大会前半で見事な活躍を見せたアメリカ代表に触発され、大会はアメリカ国民の関心の的となったようです。アメリカ国内で決勝戦を生中継で見た人は6640万人にも及び、会場都市に設けられた公式の「ファンフェスティバル」だけでなく、アメリカ中でパブリックビューイングや飲食店での観戦が行われ、盛り上がりました。
1996年に始まったプロリーグ「MLS」の影響でアメリカ人にとってサッカーが「見る競技」として急成長してきたことに加え、世界各地からの移民がそれぞれのユニフォーム姿で「祖国」を応援したことが、大会を盛り上げました。
何より世界中からきたファンを楽しませたのは、アメリカのスタジアムの雰囲気でした。何万人もの人が声をそろえて歌い、踊る中で、国籍や民族を超えた交流が実現しました。
世界のサッカーを統括し、もう1世紀もワールドカップを運営してきたFIFA自体が「カネの亡者」に成り下がり、その会長がサッカーの「スジ」を曲げるという言語道断な行為があったにもかかわらず、アメリカ国民が世界の人々とワールドカップを心から楽しんだことにより、素晴らしい大会になったのではないでしょうか。アメリカ国民には、サッカーとワールドカップに対する立派な「リスペクト」がありました。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2026年8月号より転載しています。
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