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勝者を心から称える ~いつも心にリスペクト Vol.155~
2026年04月24日

イタリアのミラノとコルティナを中心に2月に開催された冬季オリンピックで日本を最も沸かせたのは、三浦璃来選手と木原龍一選手の「りくりゅう」コンビによるフィギュアスケート「ペア」での金メダルだったでしょう。
前日の「ショートプログラム」でミスが出て5位、首位に立ったドイツ・ペアに6.9点もの大差をつけられた中で臨んだ「フリープログラム」。大きなプレッシャーを乗り越え、二人は最高のパフォーマンスを見せて大逆転で金メダルを獲得しました。最後まで諦めず全力を尽くす姿勢は、大きな勇気と感動を与えました。
しかし私がそれ以上に感動したのは、最終順位が決まった直後、「りくりゅう」に逆転を許したドイツのペア、ミネルバ=ファビエンヌ・ハーゼ選手とニキータ・ボロディン選手のふるまいでした。
フリー首位のペアとして最終滑走となったドイツ・ペア。小さな失敗があり、出された得点は、日本だけでなく、ジョージアのペアにも抜かれて3位というものでした。得点が発表された瞬間、ハーゼ選手は「仕方がないわね」というように笑顔で頭を左右に振り、ボロディン選手は小さく手を叩きました。「残念だけれど、全力は尽くした」という表情でした。
日本の放送の映像は、「暫定首位」としてすぐ横の席で待機していた「りくりゅう」コンビに切り替わります。三浦選手がドイツの選手たちの演技を称えるように表情を崩さずに小さく拍手しています。そして木原選手が顔を寄せて「金メダルだよ」とでも言うようにささやくと、困ったような表情を見せて小さく2回うなずき、椅子から降りてひざまずいたまま木原選手を抱き締めました。
この状況なら、誰でも跳び上がって喜ぶに違いありません。しかし笑顔さえ見せなかった三浦選手に、日本人ならではの「奥ゆかしさ」がありました。
やがて二人は体を離し、ひざまずいたまま、まるでおじぎをし合うように頭を下げました。
そこにやってきたのが、ドイツのハーゼ選手でした。大きく両手を広げ、彼女は日本のペアを抱き締めて、「おめでとう」と声をかけます。そして女性同士、三浦選手に何度も頭を下げながら「あなたはすごい」と称賛の言葉をかけます。「そんなことはない」とでも言うように何回も首を振る三浦選手。ボロディン選手もやってきて木原選手を祝福し、抱き締めます。
ジョージアのメテルキナ選手とベルラバ選手のコンビは、銀メダルが決まると、コーチ陣と歓喜の輪をつくりました。この国にとって冬季オリンピックで初めてのメダル獲得です。ハーゼ選手とボロディン選手はそこにもやってきて、二人を祝福しました。その後、ジョージアのペアは日本ペアを祝福に訪れます。
このオリンピックを前に、世界ランキング1位は「りくりゅう」ペアでしたが、ハーゼ選手とボロディン選手のドイツ・ペアは2位。ショートプログラムで2位以下に大差をつけ、最大のライバルである「りくりゅう」が大きく出遅れていただけに、念願のオリンピック金メダルは目前でした。3位に終わったことが悔しくないはずがありません。しかし二人はそのかけらさえ見せませんでした。
テレビでは表情は見ることができませんでしたが、その姿からは、心から日本のペアを称賛し、祝福する気持ちが伝わってきました。成熟したスポーツ選手としてのそのふるまいは、このドイツ・ペアを金メダルにも勝る「勝者」としたように思います。
このオリンピックでは、勝者を称える選手たちの姿を、どの競技でも、どの会場でも見ることができました。自らが勝てなかったこと(金メダルを逃したこと)を悔しがるのではなく、笑顔で勝者を祝福する態度は、今大会が世界に発信した最も重要なメッセージではなかったでしょうか。
世界のサッカー選手たちも、多少はこのオリンピックを見たかもしれません。もしそうなら、そこから自分たちに欠けている何かを感じ取ってほしい――。ドイツ・ペアのふるまいを見ながら、私はそんなことを考えていました。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2026年3月号より転載しています。
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