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[特集]アジアサッカーの成長と背景 ~日本とアジア、共に成長するために 海外派遣指導者鼎談 後編

2022年04月13日

[特集]アジアサッカーの成長と背景 ~日本とアジア、共に成長するために 海外派遣指導者鼎談 後編

2018年からフィリピンでユース育成ダイレクターを務める平田礼次さんと、2021年よりタイで女子代表・U-20女子代表のGKコーチを務める轟奈都子さんをゲストに迎え、日本サッカー協会(JFA)技術委員会の小野剛副委員長との鼎談を実施。アジアで活動することへの思いや各国のサッカー事情、それぞれの活動内容のほか、活動する中での学びや気づきについて話を聞いた。

●鼎談日:2022年1月7日(オンラインで実施)
※本記事はJFAnews2022年2月に掲載されたものです

前編はこちら

継続した発展に必要なのは 明確な目標やビジョン

小野 われわれは各国のサッカーの発展に「貢献する」と言っていますが、実はわれわれにとっても個人として成長できる機会なんだと。そう考えるとこの事業はお互いに大きなメリットをもたらすものといえます。他にも苦労したことやチャレンジしてみてうまくいった経験などはありますか。

平田 初年度に予算の提出を求められたとき、日本のスタイルで項目を細分化して出したのですが「もう少し大まかな予算で出してくれ」と言われて、どのように伝えればいいか考え込んでしまいました。
連盟の役員や幹部の方にお願いをするときのハードルも高くて、返事が遅かったり、プロセスも日によって変わったりして、何かするにしてもなかなか承認がもらえないことが多いんですね。そういうときは足しげく通ってサインをもらうようにしています。

小野 国によって日本の常識が通用しないということですよね。日本の指導者はみんなそれで苦労しているようです。

 日本ですと、報告、連絡、相談が基本的にあると思うのですが、タイの場合は、途中経過を教えてもらうことがほぼなく、計画や予定がいきなり変更されることがあります。それだと困ってしまうので、岡本監督は協会にこまめに相談や連絡をしてほしいと伝えています。
タイの選手たちには振り返る習慣がこれまでなかったので、トレーニングや練習試合の振り返りを習慣化して次につなげる作業を繰り返しています。ここにきて選手たちは少しずつ自分やチームのプレーを振り返られるようになってきました。成長につながっていくんじゃないかなと感じているところです。

小野 これからはそうしたノウハウを現地のGKコーチや育成にも還元してほしいという要望が出てくると思いますので、ぜひ新しい文化を育てていってほしいと思います。
それぞれの国のポテンシャル、これから継続して発展していくために必要なものについてはどうお考えですか。

 今は、どちらかというと代表チームが目の前の試合に勝つことに集中していて、何年後にこうなっていたい、というビジョンがまだないんです。ポテンシャルはとても高いので、明確な目標を立てられればもっと良くなると感じています。そこに向けたロードマップやアクションプランを作って進んでいくことが大事だと思います。

平田 フィリピン連盟にも連盟としてのビジョンや哲学が必要だと思います。日本には「JFA2005年宣言」がありますが、そうやって皆のベクトルを合わせるためにもビジョンを明確にして打ち出すことが大事です。
次に人材ですね。サッカーの発展に関わる人材の見極めや選手の育成は欠かせません。若い世代にはエネルギーがあるので、それを機能させることが人材発掘にもつながると思っています。

アジア女子サッカーの発展へ 各国で求められる女性指導者の養成

小野 ビジョンとロードマップ、アクションプラン、そして人材。お二人はこれから人材育成の部分にもコミットしていくと思います。自分が携わって育った人材がその国で活躍してくれることが最もうれしいことかもしれないですね。フィリピンは女子サッカーにも力を入れていると思いますが、女子サッカー事情はいかがでしょうか。

平田 フィリピンは日本よりもジェンダー平等が進んでいると思います。女性大統領がいたこともあって、女性が社会で活躍する素地があります。女子サッカーも非常に有望で、男子よりも先にワールドカップに出場する可能性が高いと思っています。女子部門のフィリピン人スタッフはとてもよくまとまっていて、各年代代表のコーチたちはコロナ禍でも頻繁にウェビナーをしていますし、さらにレベルを上げたいという意識が強く、そのために「日本人の女性指導者に来てほしい」というリクエストも受けます。日本は女子ワールドカップで優勝している国ですし、どこに行っても日本人の女性指導者を求める声は多いですね。

小野 私が指導者講習会で訪れた際も、どこにも必ず女性指導者がいて、男性も女性も一緒に勉強する土壌がフィリピンにはありました。日本人の女性指導者の派遣については、今、アジア各国から最も多い依頼です。轟さんはタイで活動される中で女性指導者の需要を実感することはありますか。

 私自身がそれを実感する機会はあまりないのですが、タイでは女性指導者の数はまだまだ少ないのが現状です。日本人の女性指導者が赴任することも一つですが、タイ人の女性指導者が育っていくことも大切だと思っています。実際に今の代表チームでは、タイの女子代表経験のある人がアシスタントコーチをしています。元代表でGKコーチをされている人もいるので、今後はそうした人々に入ってもらって一緒に活動する中でタイの女子サッカーが発展していけばいいなと思いますね。

小野 フィリピンは以前から女性指導者が活躍していますが、アジアではまだそうではない国が多いですね。岡本さんや轟さんをはじめ女性スタッフが活躍する姿は多くのアジアの女性指導者に夢と勇気を与えることになると思います。女子サッカーの発展はアジアサッカー全体の発展につながりますので、期待しています。
次にフィリピン、タイへのそれぞれの思い、また自身の経験を日本サッカーにどのように還元していきたいかという部分をお聞かせください。


2023年のFIFA女子ワールドカップ出場を目指してトレーニングするタイ女子代表。
岡本監督、轟GKコーチ、江口フィットネスコーチが役割を担いながら強化を進めている

今の経験が指導者としての成長 日本サッカーの成長につながる

平田 ポテンシャルの高い選手をしっかりと発掘し、代表チームを強化して国際大会に送り出したいです。そして、若い世代の才能豊かな指導者も発掘して互いに協力しながらフィリピンのサッカーを発展させていきたいと思っています。男女とも高い可能性を秘めていますし、今後はフットサルにも力を入れていきますのでサポートしていけたら私にとっても大きな経験になります。
指導者を目指している日本人や上級ライセンスを目指す日本人指導者がフィリピンで研修できるようなシステムもつくれたらいいなと考えています。実際、高校卒業後に選手としてフィリピンに渡り、そのまま国に残って指導者を目指している人や実際に指導者になった人もいます。英語が通じるという利点もありますし、日本からフィリピンへの人の流れをもう少しオープンにしていきたい。長い目で見たときに、今度は日本がフィリピンをはじめとするアジア各国の人々に助けてもらう日もくるかもしれません。サッカーを通じて日本とアジア各国の社会的なつながりを強くしていくという部分に、微力ながらでも関わっていけたらと考えています。

 私は、代表チームに関わっていますので、まずは代表チームでしっかりと結果を残すこと。そして、タイの女の子たちが「サッカーをやりたい」と思えるように、女子サッカーの価値をもっと高めていくことに貢献したいと思っています。
タイの人たちは攻撃がすごく好きなんですけど、GKコーチとしてはGKの価値も高めていきたいですね。代表のGKが活躍する姿を見てGKを目指す選手が少しでも増えてくれたらうれしいですし、そのサポートをできたらと思って活動しています。指導者養成や選手育成、普及など、ほかにも力になれることがあれば関わっていけたらと考えています。

小野 二人とも赴任先の国のポテンシャルを信じて活動されている、そのことを聞けて私もうれしいです。そのエネルギーが素晴らしい活動を生み出し、価値を高めてくれているのだと感じました。海外での活動に関心はあるけど迷っているという人に、背中を押してあげられるようなメッセージをお願いできますか。

平田 住環境やサラリーなどの条件を先に考えてしまうと、どうしても迷いが生じてしまいます。でも、思い切ってチャレンジすることの価値はとても大きいです。私自身も個人的なことや家族のことでいろいろ考えることはありましたが、海外に出て本当によかったと思っています。もちろん大変なこともあるので、それを楽しめるかどうかという部分はあるんですけど、この経験はお金では買えないものです。

 海外で得られる経験や学びはとても貴重ですし、外に出て初めて気づく日本の良さもあります。今の経験は必ず後々に生きてくると思っています。現地の人々もとても親切ですから、こちらの思いがあればしっかり伝わり、サポートしてくれます。指導者として成長できる経験も多くできるのでぜひ挑戦してもらいたいですね。

小野 代えがたい経験ですよね。私も海外に出て初めて日本の良さに気が付きましたし、こうすればもっと良くなるということにも気付けました。お二人の経験を日本サッカーにも還元してもらえたらと思います。最後に二人の夢を教えてください。

 タイ女子代表が女子ワールドカップに出場してノックアウトステージに進むことが、個人としての目標でもあります。GKというポジションが好きなので、その価値を高めてGKを目指す子どもたちを増やしていきたいと考えています。

平田 夢は大きく三つに分かれています。短期的にはフィリピンにトレセン制度を確実に根付かせること。中期的には、サッカーに関わっていくこと。先輩方のように次世代にとっての良い見本となり、次につながる道をつくっていきたいと考えています。一生をかけた夢は、子どもたち、選手たちの才能が開花するようにサポートすることです。それはどんな役職でも、どの国でもできることだと思います。


タイ女子代表の選手たちと(前列右端が轟さん)

プロフィール

平田 礼次(ひらた れいじ)
1975年6月26日生まれ、岐阜県出身。JFA公認A級コーチ。帝京高校、PARIS F.C.(フランス)で選手としてプレーした後、1997年からセレッソ大阪サッカースクールで指導。1999~2009年にはJUVEN F.Cで代表理事兼U15・U18監督を務め、2009年よりFC岐阜でU18監督兼アカデミーダイレクターに就任。2014年に台湾台中サッカー協会の発展・強化アドバイザーとして活動し、2015年からはチャイニーズ・タイペイで各年代の代表監督、コーチなどを歴任。2018年からフィリピンサッカー連盟でユース育成ダイレクターとして活動中。

轟 奈都子(とどろき なつこ)
1977年8月17日生まれ、大阪府出身。JFA公認A級コーチ(A-Proコーチライセンス取得見込み)。高校時代は交野FCに所属、卒業後は日本女子サッカーリーグの松下電器パナソニックバンビーナ(2000年スペランツァFC高槻に名称変更)、アルビレックス新潟レディースでプレー。2008年よりA新潟レディース、セレッソ大阪、C大阪堺レディースで指導。2012年からJFAナショナルトレセンコーチとしてGK育成に携わるほか、U-17日本女子代表(2017年)、U-16日本女子代表(2018年)でGKコーチも務めた。2021年よりタイサッカー協会でタイ女子代表・U-20タイ女子代表のGKコーチとして活動中。


写真左端が轟さん

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