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SAMURAI BLUEレポート report

2017.6.28

【恩師が語る日本代表選手の少年時代#第1回】:久保裕也(KAAヘント)<後編>「現状に満足せず、常に高みを見据えて」

ストイックに、ひたむきにサッカーと向き合ってきた久保裕也選手は、ユース年代の大会でゴールを量産し、高校2年生ながらトップチームに登録されるなど、順調に成長を遂げていった。

飛びぬけた選手が陥りがちな“天狗”になることもなく、指導者としては接しやすい選手だったと、本田将也さんは振り返る。

「まったく、そういう心配はなかったですね。常に自分と向き合っていましたから。とにかく、向上心が強かった。普通、1試合で1得点でも取ってくれれば、こちらとしては及第点を与えられるのですが、彼は1点取ったら2点、2点取ったら3点と、常に現状に満足することはありませんでした」

もっともストライカーらしく、自己主張の強さもあったという。途中交代させると明らかに不満げな表情を浮かべ、試合に勝っても自身がゴールを決められなければ、不機嫌になることも珍しくはなかった。それでも本田さんがその態度をとがめなかったのは、常に高い目的意識を備えて研鑽を積む、久保選手の日々の取り組みを理解していたからだった。

本田さんは久保選手に対して、特別な指導はしていないという。

「僕自身、監督になりたてで必死だったというのもあったんですけど、今振り返っても特別何かをやった意識はないんですよ。ただ、彼の持っている良さをつぶさなかったことが良かったのかなとは思います。チームメイトにも恵まれましたね。上の学年に駒井善成(現浦和レッズ)や、伊藤優汰(現アルビレックス新潟)などがいて、裕也の才能を生かすために、彼らをどのように組み合わせてやればベストなのか。そういうことばかりを考えていました」

高校3年になった久保選手は、再び2種登録されて、トップチームでの試合出場を果たす。いきなりゴールを奪う衝撃のデビューだった。以降、レギュラーの座を掴み、その年、30試合10得点を記録。17歳にしてチームのエースの座に上り詰めたのだ。

「トップチームに上げるのは当然の流れでしたね。当時の監督だった大木武さんからの強い要望もありましたが、こちらとしても不安なく送り出せました。それに育成全体を考えてもいいことだと思ったんです。頑張れば高校生でもトップチームで活躍できる。そういう刺激を他の選手に与えてくれましたし、今のU-18の選手の良いお手本にもなっています。今、U-18の寮の玄関には、裕也の日本代表のユニホームが飾ってあるんです。裕也というお手本が身近にいることは、彼らにとって目標でもあり、誇りでもありますよね」

高校3年次はほぼトップチームに帯同していたため、結果的に本田さんが久保選手を直接指導したのは1年間のみだったが、今でも師弟関係は続いているという。

毎年オフになると帰国した久保選手と再会し、近況を話し合う。そのたびに本田さんは、驚かされることが多いそうだ。最近感じたことは、コミュニケーション能力の向上だ。

「もともと口数が多いタイプではないんですけど、ヨーロッパへ行ってからは特にコミュニケーション力が上がったと感じています。やっぱり、助っ人として行っているので、周りに自分の力を証明しないといけないという意識が強いし、仲間からの信頼も勝ち取らないといけない。そのためには主張しなければいけないし、周りのことも理解しないといけない。それをよくわかっているからこそ、臆することなく積極的にみんなとコミュニケーションを取るようになったようです」

日本代表に定着した最近も、電話で話す機会があり、日の丸を背負い戦うことの重みを本田さんに伝えたという。

本田さんが衝撃を受けたのは、昨年のこと。リオデジャネイロオリンピックのメンバーに選ばれながら、所属クラブの事情で大会に参加できなくなった久保選手は、その決定がなされた数時間後に公式戦のピッチに立ち、2ゴールを決めている。

「あれは、なかなかできることではないなと。

彼は4年間オリンピックのことを考えながらやってきて、その夢が絶たれたのだから、そうとうショックは大きかったと思います。でも、そこからすぐにメンタルを切り替えて結果を残した。結局どれだけ準備しても、どれだけコンディションを整えても、メンタルひとつでプレーは変わる。苦しい時や悔しい時に、心が折れずにどれだけリアクションできるかは、選手としてすごく重要なこと。だから、裕也が成し遂げたことのすごさを、今のU-18の選手たちに話したのを覚えています」

所属クラブでゴールを量産し、日本代表の主軸にまで上り詰めた最近の久保選手の活躍を、本田さんも誇らしく思っている。同時に大きく成長した久保選手から、逆に学ぶこともあるそうだ。

「常に点を取り続けているのは、すごいと思うんですけど、裕也の考え方には、指導する側にとっても参考になる部分も多いですね。例えば、マイナスなことがあった時、普通はそこからなんとかプラスのことを見出そうとすると思うんです。この前、裕也に『マイナスなことがあった時、どうする?』って聞いたら、『マイナスなことなんて考えたことありません』って言うんですよ。ああ、変わったなと。やっぱり、今は自信があるからでしょうね。サッカーを楽しむことしか考えてない。そのためにどうすればいいのか。そういう発想で取り組んでいることに、驚かされましたね」

アジア最終予選を戦う久保選手の姿を、本田さんはどのように見ているのか。

「本当に、自分の価値を示し続けてくれていると思いますし、日本全体に感動を与えてくれていると思います。大きな期待を背負い、それに応えているのも素晴らしい。本当に成長したと思いますし、これからまだまだ伸びていくはずです。彼自身どこまで行くのか。今は、一ファンとして裕也のこれからを楽しみにしています」

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