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日本代表:ワールドカップ予選激闘の歴史 History

2017.08.04

【経験者が語るアジア最終予選の真実#第6回】2010 FIFAワールドカップ 南アフリカ:田中マルクス闘莉王<後編>タフにしてくれたアジア最終予選。“クリーンな日本代表”が南アフリカでの躍進を導いた

「あのチームは別格。やられる気しかしなかった」

苦笑いを浮かべながら田中マルクス闘莉王選手は、そう振り返った。

2009年2月11日、2010 FIFAワールドカップ 南アフリカ・アジア最終予選、日本代表はグループ内最大のライバルと目されたオーストラリア代表をホームに迎えていた。

「あの時のオーストラリアは本当に強かった。ケーヒル選手、ニール選手、ブレシアーノ選手、最後にケネディ選手も出てきて、長いボールやクロスをどんどん入れてくるので、俺と佑二さん(中澤佑二選手)でも、相手にあれだけ高さがあるとさすがに大変でした」

実はこの重要な試合を、闘莉王選手は充分な準備ができない状態で臨んでいた。

「怪我明けだったんですよ。その前の年の12月にひざを手術して、まだ筋肉が戻っていない状態でした」

それでも闘莉王選手は必死にボールを跳ね返し続け、オーストラリアの攻撃を完封。0-0の引き分けに終わったものの、日本はホームで難敵から勝点1を確保することに成功したのだった。

「ホームだけど負けないことを重視した戦い方でした。勝点1を掴むことがなによりの目的だったので、それを達成できたのは良かったです」

相手の力を認めたうえで、プライドを投げ捨ててでも掴んだ勝点1。結果がすべてのワールドカップ予選において、ホームで負けなかったことは評価されるべきものである。一方で日本の戦い方には“守備的”という批判がまとわりついた。しかし、そんな周囲の声を、闘莉王選手はまるで気に留めていなかったという。

「日本は守備的じゃないとダメなんです。世界と肩を並べるなんてことを言っていては結果が出せない。強い相手に対して、少しでも嫌なことをしてやろうという気持ちで、日本はやっていかないといけない。耐えることに関しては、日本人はすごい力を持っています。面と向かってやりあったらやられるだけ。サッカーの質が違うし、個人の能力も違う。だからチームとしてカバーしないといけない。攻撃ではできない。カバーできるのは、守備なんです」

このオーストラリア戦で守備の手応えを掴んだ日本代表は、その後、試合を重ねていくなかでますますその堅守に対する自信を深めていった。

続く3月のバーレーン代表戦も、47分に生まれた中村俊輔選手のゴールが決勝点となり、1-0で勝利。5試合を終えて3勝2分で勝点11とし、早くもワールドカップ出場に王手をかけた。

第6戦の相手はホームで引き分けたウズベキスタン代表。勝てば本大会が決まる重要な一戦となった。

この試合でも「守り勝つことを徹底していた」と闘莉王選手は言う。開始9分、岡崎慎司選手のゴールで先制した日本代表だったが、その後はホームの声援の後押しを受けたウズベキスタンに押し込まれる展開となった。しかし、楢﨑正剛選手がスーパーセーブを連発し、闘莉王選手と中澤選手を中心とした守備陣も身体を張った守りで応戦。最後まで集中力を切らさなかった日本は虎の子の1点を守り抜き、見事に4大会連続となるワールドカップ出場を世界最速で決めたのだった。

「やられたと思ったシーンもたくさんありましたが、僕らのタフさが出た試合でした。攻め勝つのではなく、守り勝つ。1点取ってくれれば絶対負けない。そう思いながらプレーしていました」

ワールドカップ出場が決まった瞬間、闘莉王選手の胸のうちには喜び以上のある感情が湧き上がっていた。

「世界最速だったし、決まった瞬間はもちろん嬉しかった。だけど、僕の中ではここからだという気持ちのほうが大きかった。前回出場できなかった悔しさを晴らしてやろうと、そういう気持ちにすぐに切り替わりました」

重要なのはワールドカップのピッチに立ち、結果を残すこと。比較的すんなりと本大会出場を決めた日本代表にとって、残り1年でいかに世界に近づけるかが重要なテーマとなっていた。

もっとも、その後の日本代表にはやや停滞感が漂った。すでに突破を決めていたとはいえ、続くカタール代表戦は1-1の引き分け。さらに最終予選のオーストラリアとのアウェイゲームは、闘莉王選手のゴールで先制しながらも、ケーヒル選手に2ゴールを叩き込まれ、逆転負けを喫した。

「佑二さんが試合に出られなかったことも影響しましたが、やはりオーストラリア代表は強かったです。ヨーロッパで活躍している選手がたくさんいたし、自信があり堂々としていた。強さっていうのは、そういうところから出てくるもの。オーストラリアがアジア枠に入ってきたのは、この予選からでした。厄介なチームが入ってきたなと。結局、いまだに予選ではオーストラリア代表に勝ったことはないですから」

まさに日本にとって、因縁の相手と言えるオーストラリア代表とは、今回のアジア予選でも同組となり、アウェイで引き分けている。そして8月31日、勝てばロシア行きが決定する重要な一戦で、日本代表は再びオーストラリア代表と対戦することとなった。

はたして闘莉王選手は、今の日本代表の戦いぶりを、どのように見ているのだろうか。

「最後までもつれ込んだら何が起こるかわからない。だから、絶対に今回が勝負。日本はアウェイでサウジアラビア、オーストラリアはホームでタイと、最終戦の相手を考えれば、引き分けでもいけないでしょう」

では、重要な試合で結果を出すためには、何が求められるのか。闘莉王選手は自身の最終予選の経験をもとに、こうアドバイスを送る。

「ナラさん(楢﨑選手)、佑二さん、俊輔さん(中村俊輔選手)、イナさん(稲本潤一選手)……。あの時の僕らは、みんなどっしりしていました。結局、みんな自分がやりたいことがありましたが、その想いがバラバラにならず、ひとつにまとめられるかどうか。例えばイナさんは、どうしようとなった時に、必ず一言出してくれて、同じ方向に導いてくれました。そういう選手がいるかどうかで、チームは大きく変わっていくと思います。今のチームのことはわかりませんが、長谷部(長谷部誠選手)、本田(本田圭佑選手)、川島(川島永嗣選手)、岡崎(岡崎慎司選手)と経験のある選手はたくさんいる。ただ、どちらかというと今のチームはメンバーの入れ替わりが激しいので、難しい部分もあると思います。95%はワールドカップに行けると思いますよ。でも残り5%は何が起こるかわからない。その5%をなくすためには、チームがひとつにまとまらないといけないと思います」

アジア最終予選を戦う中で、闘莉王選手は多くのことを学び得たという。そしてその戦いの先にあったのが、ベスト16に進出した南アフリカでの躍進だった。

「ワールドカップ予選は、自分たちを強くさせてくれました。監督が代わったことも含め様々なトラブルやアクシデントがありました。それを乗り越えていくなかで、タフになっていったと思います。何があっても、動揺しなかった。どんな時でも、バラバラになりかけた時でも、最終的に同じ方向を向いて戦っていけた。予選があったからこそ強い日本代表になったのは間違いないですね。岡田(武史)さんの存在も大きかったと思いますよ。あの人が素晴らしいのは、クリーンなところ。みんなにオープンだったし、いい意味での競争に導いてくれていました。本大会ではナラさんや俊輔さんを使わなくなりましたが、選ばなかった理由をしっかりと説明していたので、誰も腐らずに、チームとしてひとつにまとまることができました。そういう意味で、本当にクリーンな日本代表だったと思います」

最後に、闘莉王選手は、今の日本代表チームに向けて熱いエールを送ってくれた。

「まずはワールドカップに行ってもらうのは当然ですけど、日本という国を、サッカーを通じて盛り上げてもらいたい。Jリーグを盛り上げるためにも、代表の活躍は欠かせない。やっぱり、彼らはこの国の代表なんです。この人たちと一緒に戦いたい、この人たちを応援したい。多くの人たちにそう思ってもらえるような代表になってもらいたいですね」

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