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もう一度、名前を呼ぼう ~いつも心にリスペクト Vol.103~

2021年12月23日

もう一度、名前を呼ぼう ~いつも心にリスペクト Vol.103~

この連載が始まって2年目の2015年に「名前を呼ぼう」という記事を書きました。ずいぶん時間がたったので、もう一度、名前を呼ぶことの大切さを考えてみたいと思います。題材は、私がリスペクトされていると感じたときと、そうでなかったときの話です。

驚くほどひとりの人間として認められていると感じたのは、6年前の記事でも紹介した中学の校長先生から声をかけられたときです。

入学から間もないある日、校庭で突然校長先生から声を書けられました。

「オースミくん、学校にはもう慣れましたか」

ちなみに私の中学の校長先生はドイツ人でした。いつも厳しい顔つきをしていましたが、そのときは優しい笑顔を浮かべていました。

新入生が180人もいる中で、なぜ私の名前を覚えているのか不思議だったので、たずねてみました。すると、入学式の1週間も前から、180枚のカードに新入生の写真を貼りつけ、一生懸命名前と顔を覚えたとのことでした。

名前を呼ばれたことで、私はとても誇らしく思いましたし、同時にしっかりしなければならないと、強い責任感も感じたのです。

一方、「リスペクトのかけらもない」と感じたのは、高校2年生の生物の先生です。中間試験でヤマを完全にはり間違えた私は、知識を問われたほとんどの問題に答えられず、一番難しそうな最後の1問だけに集中しました。実はそれはまだ習っていないテーマだったのですが、必死に考え、私はなんとか正解にたどりつきました。

テストが返されたとき、当然のことながら、私の得点は惨憺(さんたん)たるものでした。私の学校では、百点満点の60点未満は「欠点」とされ、進級にかかわる重大事です。

ところが返されたテスト用紙では、私が必死に解いた最後の1問も「×」になっていました。そこで私は手を挙げ、なぜ「×」なのかを質問しました。先生は解説を始めましたが、私は強い口調で「それはおかしい」と意見を言いました。

その問題がまだ教えていない範囲だったことに先生が気づいたのはそのときでした。だから誰も正解がいなかった。だからその問題はなかったことにすると、先生は言うのです。くいさがる私に、先生は「うるさい、この問題はなしだ」と言い、その日の授業に移っていきました。

その日の午後、私はたまたま生物学教室の掃除当番に当たっていました。ごく普通にその仕事をこなしていたつもりでしたが、友人から声をかけられ、少しの間、それに応えて話をしていました。

先生が教室に入って来たのはのときでした。すると彼は私に向かってこう言ったのです。

「おい、そこの欠点、さぼるな」

その瞬間は、確かに仕事の手を休めて話をしていたので、「さぼるな」という言葉は仕方がないことだと思います。しかし私が大きなショックを受けたのは、「そこの欠点」と言われたことでした。

当然、先生は私の名前を知っています。それをことさら「欠点」と呼んだのは、授業中にみんなの前で「先生は間違っている」と主張したことに腹立たしい思いがしていたせいに違いありません。

しかしあまりな言われ方に茫然とし、私の口からは「すみません」のひと言も出ませんでした。

私は、名前を呼ぶことは相手への「リスペクト」を示す重要な手段だと思っています。試合中に「レフェリー!」とか「○○番!」などという言い方をしたら、声をかけられた人は「敵意」や「上から目線」のようなものしか感じません。しかし「××さん」と名前を呼んだら、その瞬間に平等な人間関係が生まれるのです。

日本には、名前を呼ばず、役職名で呼ぶのが相手に対する礼儀であるという伝統があります。この慣習はなかなか変えがたいものがありますが、サッカーという本来誰もが平等なスポーツの場では、選手とレフェリーの間だけでなく、選手と指導者、そして役員との間でも、ぜひとも名前を呼び合い、それによって「リスペクト」を示し合うことが、よりふさわしいのではないかと思っています。

寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)

※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2021年11月号より転載しています。

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