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戦い方は変わっていく ~森保一監督手記「一心一意、一心一向 - MORIYASU Hajime MEMO -」vol.05~
2019年11月05日
掲げている「全員攻撃、全員守備」
日本代表の監督に就任したのが昨年7月末。あれから1年3カ月が経ち、2022FIFAワールドカップ予選を戦う中では、これまで選手たちに要求してきたことが、少しずつ浸透してきている実感が沸いています。
ひとことで、今のチームが目指している方向性を示せば、「全員攻撃、全員守備」ということになります。チームには、攻撃に特徴を持っている選手、守備に特徴を持っている選手と、個性に違いはありますが、日本が確実にアジアで勝利し、世界でも勝って行くことを考えれば、この「全員攻撃、全員守備」こそが、最大のコンセプトになります。
もちろん、その中においても、個の最大量のパワーというものは活かさなければならないですし、今後もさらに個の力を上げていくということは忘れてはいけません。ただ、組織力で戦うことが日本の良さであり、武器にしなければならないということは、指揮してきた1年3カ月の間でも、改めて僕自身が学ばせてもらったことのひとつでもあります。
監督に就任して間もないころには、新たに日本代表に招集する選手も多かったことから、チームコンセプトを知ってもらうための映像を作り、それを踏まえてチームの基本として理解してもらったこともあります。当時は、2018FIFAワールドカップの映像を中心に抽出していましたが、その都度、映像をアップデートしながら、今の日本代表でプレーするうえで大切なこと、チームとしての戦い方を示すこともあります。
サッカーは相手、状況によって変わっていく
これまで日本代表監督として、フレンドリーマッチも含めて23試合を指揮してきました。記者会見やインタビューの場で、よく聞かれることのひとつが、やはり、このチームコンセプトについてでした。
ただ、戦術、コンセプト、戦い方、他にはスタイルといった具合に表現されるサッカーの内容について、「全員攻撃、全員守備」と綴ったのには理由があります。
それは僕自身が、サッカーとは、相手によって、状況に応じて変わっていくものだと考えているからです。
例えば、パスをつないで中央を打開していくとします。でも、相手がゴール前に人数を割いて固めてくるのであれば、サイドから相手を崩していくことも必要になります。例えば、カウンターを狙おうとしたとします。でも、相手が引いて守備的に戦ってくるのであれば、カウンターを狙うことは効果的ではなくなるでしょう。また、アウェイで戦ったミャンマー戦がそうであったように、雨が降りピッチコンディションが芳しくなかったとします。そうなれば、ショートパスをつながずに、もしかしたらロングボールを多用することになるかもしれません。そうやって相手や状況、さらには環境によって戦い方は変わっていく。だから、選手たちにも、これまでフレキシブルに戦うことを求めてきました。
アルベルト・ザッケローニさんが率いていたときは「インテンシティ」、ヴァヒド・ハリルホジッチさんが指揮していたときは「デュエル」と、これまでの日本代表には、戦い方や方向性を示すキーワードが確かにありました。それに類似するような言葉をメディアのみなさんが探そうとしていることも僕自身は理解しています。それでいうと、僕が目指す方向性は、やはり「バランス」ということになり、さらには「柔軟性」「臨機応変」「対応力」、他には「切り替え」といったところになってくるのかもしれません。そして、それらを総じて「全員攻撃、全員守備」となるのです。この姿勢は、我々日本人の良さを活かすためにも、不変であると感じているからです。
僕自身が欲張りなのかもしれない
ただ、僕自身が「柔軟性」や「臨機応変」という言葉を用いて、選手たちの判断に委ねている部分があるからといって、すべてが自由かといったら、それもまた違います。自由と聞いたとき、その範疇は人それぞれ異なりますよね。プレーも同様に、自由と聞いて、イメージすることは選手によって差があります。だからこそ、チームには、ときに「立ち返る場所」と表現することもある、ベースというものが大事になってくるのです。
例えば、守備において。ボールを失えば、まずはボールを取り返すことを最優先にする。もし相手の状況が良ければ、守備の態勢を作ってから相手を追い込んでいく。例えば攻撃において。マイボールを大切にしながらも、素早い攻撃を仕掛けられる状況であれば、仕掛けていく。これまた具体例を挙げれば、攻撃の優先順位としては、ボールを奪った瞬間に、シンプルにゴールへと向かえるのであれば、パスをつながずともロングボールということになります。ただ、これで得点が奪えればいいですが、簡単にはいかない。そうなると、チームのベースとしては、やはりボールを保持することになる。そして、素早く攻められるタイミングを見極めていく。
ただ、こうしたプレーにしても、私自身は、相手や状況によって、選手たちへの伝え方を変えていくので、1~10までのすべてが毎回、同じということではないのです。
もうお気づきかもしれませんが、私は欲張りなのかもしれません。だから、ポゼッションもできれば、カウンターもできる。ショートパスも多用できれば、ロングボールでも活路を切り開ける。中央から攻撃できれば、サイドからも攻撃を仕掛けられる。攻撃的に戦うこともあれば、ときには守備的に戦うこともあるかもしれません。相手、状況に応じて、ありとあらゆる戦い方を選択できるチームを目指しているだけに、それを求めている選手たちは大変かもしれません。
だから、率いた23試合の中で、ベストゲームを上げるとすれば、AFCアジアカップ2019のサウジアラビア戦になります。あの試合で、日本のポゼッション率は29%。相手にほぼ押し込まれる展開でした。でも、そうした状況においても、選手たちが勝てる方法を探り、我慢強く粘り強く最後まで戦い続けてくれたことで勝利をもぎとることができた。自分たちの理想どおりに試合が進まない中でも、選手たちは勝つすべを導き出したのです。
もちろん、ベストゲームとは言いましたが、理想の試合とはまた違います。だからこそ、選手たちには、自分たちの理想を追求しつつ、勝利するために、そのときどきでベストな選択、最適な判断、さらには多くの選択肢を持ってほしいと働きかけています。
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