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日本代表:ワールドカップ予選激闘の歴史 History

2017.05.19

【経験者が語るアジア最終予選の真実#第2回】1998年フランスワールドカップ:川口能活<後編>現地に駆けつけた2万人のサポーターとともに世界への扉を開けた

FIFAワールドカップフランス大会アジア第3代表決定戦の舞台となる中立地マレーシア・ジョホールバルは、日本のファン、サポーターで溢れていた。およそ2万人が現地に駆けつけ、ホームの雰囲気をつくり出していた。 相手のイランはグループAでサウジアラビアとマッチレースを繰り広げ、最終的に2位に転落して決定戦に回ってきた。日本に勢いが出てきたとはいえ、イランはタレント揃いの強敵であった。川口能活は、こう語る。

「あの当時、イランがアジア最強だと個人的には思っていました。ダエイ、アジジ、バゲリ、マハダビキア……ブンデスリーガでプレーしている選手が多かったし、攻撃力はかなり脅威でした。日本としては胸を借りるつもりで臨みました。大勢のサポーターが来てくれたことは大きな力になりましたし、(1週間前に)ホームでカザフスタンに勝った国立競技場と同じような雰囲気をつくってくれました。」

前半29分にアジジのミドルシュートをセーブするなど川口は冷静に対処していく。均衡が破れたのは39分。川口のゴールキックから始まり、中田英寿のスルーパスを中山雅史が決めて日本が先制した。しかしイランも黙ってはいなかった。後半開始早々、ダエイのシュートを川口が弾いたところにアジジに詰められて1-1の同点に。そして14分。右サイドからのセンタリングをエースのダエイが頭で合わせ、日本は逆にリードを許してしまう。

「2点を取られてしまって僕自身悔しかったですけど、慌てることはありませんでした。この最終予選を通じて苦しい状況を何度も経験してきたし、みんなが冷静でした。」

岡田武史監督は三浦知良、中山の2トップを城彰二、呂比須ワグナーに替え、勝負に出る。後半31分、中田のセンタリングに対して城が頭で合わせて同点に追いつく。これまでの苦しい経験が、ここ一番で活きたのだった。

「まだ追いついただけ。」

川口の抱いた思いは全員の思いであった。冷静にプレーしている感覚が続いていた。 象徴的なシーンが延長後半13分だった。イランは右サイドからディフェンスラインと川口の間に速いクロスを送り、逆サイドからダエイが飛び込んできた。川口は懸命に前に出て、ダエイのシュートはバーの上を越えた。そのとき川口は座り込むダエイの頭をポンポンと撫でている。守護神は記憶を頭に浮かべると、思わず笑みをこぼした。

「グラウンドがスリッピーでクロスのボールが伸びるなとは思っていましたし、ダエイが来たことも分かっていました。さすがのダエイも届かないだろうと思っていたら、届いた。ダエイが凄く悔しそうな顔を浮かべていたので、『大丈夫か』みたいな感じでした。あんなことやれるぐらい、精神的に落ち着いたんだと思います。」

そしてその直後に、岡野雅行の決勝ゴールが生まれている。全員の「冷静」が、勝利を呼び込んだ。川口は、すべての得点に絡んだ中田の奮闘を称えた。

「ヒデが神懸かっていました。延長戦に入ってみんな疲れているなかで、彼だけが縦横無尽に動いていましたから。後ろから見ていて本当に頼もしかったし、別次元のプレーをしていました。みんなの思いが凝縮されてあのボールに伝わり、岡野さんが決めてやっと終わったな、と。凄く爆発的に喜びましたけど、ほっとしましたね。」

経験したことのない、想像を超えるプレッシャーから解放されたとき、それがどれだけ大きかったかを実感することになる。

「ホテルに戻ってからすぐに寝たんですけど、目が覚めて熟睡できたなと思ったら実は1時間しか寝てなかったんです。興奮と疲労が入り混ざっていたし、追い詰められた戦いというものを3ヶ月やったんだなと思いました。あんな経験は初めでした。」

あれから20年。SC相模原で現役を続ける川口にとって、97年の最終予選はどんな経験であったのか。そう尋ねると彼は、噛みしめるように語った。

「今までテレビで見るものであったワールドカップに出場できたというのは自信になりましたし、どんな苦しい状況でも慌てない、動じないメンタルはあの最終予選でつくられたのかなとは思います。初出場のプレッシャーは、本当に計り知れないものがありました。あの経験できたことは、かけがえのない財産です。」

死力を尽くしてワールドカップの扉をこじ開けて以降、日本は本大会への出場を続けている。代表キャップ歴代3位を誇る川口は、現在ロシア大会アジア最終予選を戦うメンバーにこうエールを送る。

「チームが一つになって、冷静かつ情熱的に戦う。そのバランスをしっかりと整えて、プレーする喜びと誇りをもって戦うことが大事かなとは思います。そして最終予選を楽しんでもらいたい。プレッシャーを楽しむことに変えられたときにチームは本当に強くなる。楽しむとは勝つということでもある。僕はそう思っています。」

プレッシャーに勝つ、己に勝つ、試合に勝つ。

それを楽しめなければ、つかみたいものをつかめない。「ジョホールバルの歓喜」は今なお最高の教材であり続けている。

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