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歴史を語り継ごう ~いつも心にリスペクト Vol.149~
2025年10月23日
釜本邦茂さん逝去のニュースを知り、最も強く感じたのは、「もっと歴史を知ってもらわなければならない」ということでした。いろいろな人から「釜本さんって、いったいどんな選手だったの?」という質問を受けたからです。
2012年にオリンピック・ロンドン大会の取材の最中、報道関係専用のバスで、日本のテレビキャスターとしてきていた人気タレントに会ったことがあります。場所は北イングランドのニューカッスル。オリンピックのサッカーは、いくつもの都市が会場となります。
「案内には、報道入口は『ジャッキー・ミルバーン・スタンド』と書いてあるけど、『ジャッキー・ミルバーン』って誰のこと?」
「そうですね…?」
その質問に付き添いのテレビ局員が答えられなかったので、ついおせっかいをしてしまいました。
「ニューカッスル・ユナイテッドのレジェンドですよ」
ジャッキー・ミルバーンは1940年代から50年代にかけてニューカッスルで353試合に出場してクラブ最多記録の177ゴールを挙げ、3回のFAカップ優勝に導きました。日本でもよく知られるイングランド代表ボビー・チャールトンの叔父でもあります。
彼の死の前年、1987年に、スタジアムの大改装を終えたニューカッスル・ユナイテッドは、西側のスタンド、すなわちメインスタンドを、「ジャッキー・ミルバーン・スタンド」と名づけました。そして死後には、スタジアム前だけでなく、町のあちこちに彼の銅像が建てられています。
ニューカッスルのサポーターは、そうした施設や銅像の前を通りかかるたびに、ミルバーンがどんな選手で、どんなゴールを決めてチームを栄光に導いたかなど、子どもたちに話して聞かせたでしょう。そしてその子どもたちは、自分の子どもに同じ話を聞かせ続けているでしょう。
そうした例は、世界の各地で見ることができます。そして10代と思しきファンが、半世紀も前のスター選手の物語を、日本からきたジャーナリストに、自分が見てきたように説明してくれるのです。そのように「歴史」を語り継ぐことで、レジェンドたちはいつまでも生き、クラブだけでなく、町や地域の誇りとなっていくのです。
日本という国、日本人という人々を見ていると、ときおり、「今日」と「明日」にばかり意識が向き、「過去」を軽んじる傾向があるように感じることがあります。
「温故知新」という言葉は、歴史を知って、いまどう生きればいいかを知るというような意味ですが、そうした「実利」がなくても、古いことを知るのは価値があるのではないでしょうか。歴史を知ることは、先人たちの業績や努力を知ることにほかなりません。そしてそれが現代を生きる自分たちにもつながっているのを理解すれば、自分たち自身への「誇り」にもなるはずだからです。
日本サッカー協会(JFA)には「殿堂」があり、これまで日本サッカーの発展に努力、寄与されてきた人々を顕彰しています。それは、「歴史を知って、日本のサッカーに誇りをもってもらいたい」という、現代を生きる人々への願いから生まれたものだと、私はとらえています。
当然、釜本さんは、2005年に「殿堂」が始められたときに最初に選ばれた一人でした。
「早稲田大学時代は4年連続関東大学リーグの得点王。JSL(ヤンマー)では、251試合出場202得点を記録。1968年敢闘賞受賞、得点王7回、アシスト王3回、年間優秀11人賞14回、年間最優秀選手賞7回受賞。様々な前人未到の記録を残す」(JFA.jp「日本サッカー殿堂」ページより)
この記述だけでも十分驚くべきものなのですが、私たちサッカーを愛する大人は、もっと具体的なエピソードを、もっと日常的に若い人に話し、世代を超えて語り継いでいってもらう努力を払う必要があると思うのです。
釜本さんの話だけでなく、日本のサッカーの歴史をより深く知ってもらう努力が、釜本さんに対する一番の「はなむけ」になるのではないでしょうか。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2025年9月号より転載しています。
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