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手に当たっちゃったんだ ~いつも心にリスペクト Vol.147~

2025年08月21日

手に当たっちゃったんだ ~いつも心にリスペクト Vol.147~

セネガル代表のサディオ・マネ選手(33歳)は海外のスター選手の中でも、日本のファンになじみの深い人ではないでしょうか。

セネガル南部の農村で生まれ、15歳で家出をして首都ダカールの選手養成機関に加入。19歳で欧州に渡り、フランス、オーストリア、イングランド、ドイツの強豪クラブでプレー、現在はサウジアラビアのアル・ナスルに所属しています。

2018年にはFIFAワールドカップ・ロシア大会に出場、日本代表との対戦で先制点を決めました。しかしマネ選手と日本のつながりはそれだけではありません。イングランドのサウサンプトンに在籍していた時代(2014~16年)には日本代表の吉田麻也選手と、そしてリバプール時代(2016~22年)には南野拓実選手とチームメートで、特に吉田選手とは今でも良い友達だそうです。

そのマネ選手がリバプールからドイツの強豪バイエルン・ミュンヘンに移籍したばかりの2022年8月のことです。ブンデスリーガの第3節で、バイエルンはアウェイでボーフムと対戦しました。ボーフムには、浅野拓磨選手がいました。マネ選手は開幕節でバイエルンでの初得点を挙げていましたが、大きな期待を受けて加入したばかりのストライカーとして、この試合でももちろん得点を狙っていたはずです。

2013年からブンデスリーガ10連覇という「無敵」のバイエルンは絶頂期にありました。この試合でも、前半33分までに3-0とリードし、開幕からの3連勝は確実でした。マネ選手も、先制点に見事なアシストをしていました。そうした中、前半40分過ぎに「事件」が起こります。

左後方から送られたボールに合わせて走り込んだキングスレイ・コマン選手が右ポスト前でヘディング。しかしボールは左ポストをわずかに外れるように飛んでいきます。そこに一人の選手が左から猛スピードで走り込み、左足を上げてゴールに押し込んだのです。マネ選手でした。主審は「ゴール」の合図をしました。

しかし勢い余ってゴールネットに寄り掛かるように座り込んだマネ選手には、歓喜の表情はありません。そして走り寄ってきたコマン選手に向かって、まるでいたずらを見つかってしまった小学生のようにウインクしながら、白いテープを巻いた自分の左手を右手でとんとんと叩きました。

「手に当たっちゃったんだよ」

「ハンド」の反則は、ボールが手に当たったかどうかだけでは決められません。意図的であったか、あるいは不自然に手を広げていたかなど、主審が判断して反則かどうかを決めます。しかしボールが攻撃側の手に当たって直接ゴールに入ったり、あるいは手に当たった直後に得点したりした場合には、その「ハンド」が意図的ではなく完全に偶発的だったとしても、得点は認められません。ルールの「根本精神」の一つである「公平」の観点から定められた規則です。

もちろん、全てのゴールはビデオアシスタントレフェリー(VAR)のチェック対象になります。マネ選手の「ゴール」もさまざまな角度からチェックされるでしょう。その過程で「手に当たった」ことも明らかになるでしょう。

しかしマネ選手は、そうした手順を待たず、自分から「手に当たった」と告白したのです。

リプレーを見ると、コマン選手がヘディングしたボールは、高く上げたマネ選手の左足をかすめ、左ポストに当たると、マネ選手の左腕に当たってゴールに入っていました。VARからの助言を受けて、主審はノーゴールにしました。「手に当たった」という「事実」だけが問題だったので、主審が映像を確認する必要はありません。

バイエルンがすでに3点をリードしているという状況もあったかもしれません。しかしストライカーならどんな状況でも自分自身のゴールがほしいもの。それを「手に当たった」と告白したマネ選手の人間性は高く評価されました。

そしてこの直後に、マネ選手は「正真正銘のゴール」を決め、後半にもPKで1点を取って、7-0の勝利に貢献したのです。

寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)

※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2025年7月号より転載しています。

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