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フェアプレーとリスペクトの連鎖 ~いつも心にリスペクト Vol.19~

2014年12月01日

フェアプレーとリスペクトの連鎖 ~いつも心にリスペクト Vol.19~

なでしこリーグの試合を見ていて気持ちがいいのは、一般的に試合がとてもフェアなことです。
 
今年8月のASエルフェン埼玉とINAC神戸レオネッサの試合では、1点をリードした埼玉が後半のアディショナルタイムにCKを獲得した場面が印象的でした。

これまでリーグで神戸に勝ったことのなかった埼玉。この試合も、神戸の猛攻に耐え、前半にFKで奪った1点を懸命に守って終盤に得たCKでした。Jリーグなら、間違いなく小さく動かして体を入れてキープし、時計を進めようとするでしょう。しかし埼玉は2点目を狙って平然と蹴ったのです。

10月13日に行われた「エキサイティングシリーズ上位リーグ」の岡山湯郷ベル対I神戸でも、目立ちませんでしたが、すばらしいシーンがありました。
 
台風19号が近づき、雨が激しくなる中での一戦。ともに前節敗れている両チームにとって、優勝戦線に残るには絶対に勝たなければならない試合でした。一進一退のなか、後半7分にすばらしい速攻から岡山が先制します。

I神戸が猛反撃に出ます。シュートがバーやポストをたたき、岡山の選手たちは守備に追われます。

そうした中、後半26分のことでした。自陣ゴール前からようやくかき出され、左サイドに送られたボールをFWの有町紗央里選手が懸命に追います。そしてタッチラインを割ろうとするボールに水しぶきを上げながらスライディングして触り、間髪を入れずに立ち上がって相手ゴールに向かおうとします。しかし、ほんのわずかのところでボールはタッチラインを割っており、主審の笛が吹かれます。

このとき、ボールは有町選手の前、2メートルほどのところにありました。近くにはI神戸の選手はいません。相手ボールになったのだから、有町選手は守備のポジションにはいっていくだけでいいのです。彼女も一瞬そう考えたようでした。しかしすぐに思い直すと、2、3歩寄ってボールを拾い、近寄ってきたI神戸の右サイドバック甲斐潤子選手に渡したのです。
 
私自身は、シンガポールでのサムライブルー(日本代表)対ブラジル代表の取材に出かけていて、帰国してからこの試合を録画で見ました。

この場面にきたとき、思わず再生を止め、巻き戻して見直しました。するとこの場面の直後にさらにすばらしいものがあったのです。

「サンキュー、アリ」

さりげないそんな声でした。

声をかけたのは、有町選手からボールをもらった甲斐選手ではなく、有町選手を追ってきていたI神戸のMF澤穂希選手でした。
 
有町選手は2013年の9月になでしこジャパン(日本女子代表)に選ばれ、澤選手と一緒にプレーしています。福井県出身で大原学園(長野県)を経て2008年に岡山に加入した有町選手と澤選手の接点はそれ以外にはないのですが、一度一緒にプレーをしただけでも、澤選手は有町選手を「サッカーの仲間」と見ているのでしょう。
 
相手のスローインになるボールでも拾って渡した有町選手の行為は、誰が何と言おうと、人間として、すなわちサッカー選手としてすばらしい行為だと思います。

しかし同時に、そうした行為をしっかりと認め、とっさに、さりげなく、しかも人間として当たり前の声をかけられる澤選手の人間性にも、私は深く打たれました。
 
この日の観客は1123人。この悪天候の中、よくこれだけ入ったと思いますが、喧噪に包まれたJリーグ中継では、こんな声は拾えなかったかもしれません。
 
試合は最後まで集中力を切らせなかった岡山が1-0のまま勝利をつかみました。敗れたI神戸は4連覇が非常に厳しい状況になってしまいました。
 
しかしそうした厳しい勝負がかかった中でも、選手たちがフェアな態度を忘れず、互いのそうした態度にリスペクトの気持ちを示し合っている光景は、見ていて本当に気持ちのいいものでした。

放送では聞こえなくても、Jリーグでも、このようなフェアプレーとリスペクトのさりげない連鎖が、きっとあるのでしょう。

寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)

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