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メディカル通信

第5回 パフォーマンス低下の原因となる貧血に注意しよう

くらみ、めまい、気を失ういわゆる失神などを「貧血」ということが多いと思います。しかし、これらは頭への血流が一時的に減少する「脳貧血」のことであり、本来の「貧血」とは異なります。医学的に「貧血」とは、正常の大きさの赤血球が減少することです。赤血球は、全身に酸素を運搬する大切な役割を担っています。したがって、その赤血球が減少する貧血は、スタミナ、持久力に直接影響します。試合の後半になるとパフォーマンスが低下する選手がいる時、単に練習や試合が続いて疲労が蓄積しているという理由だけではなく、貧血の可能性を考えてみることも大切です。

貧血の種類
表1 貧血の種類
① 材料不足
 (鉄、蛋白質、ビタミンB12、葉酸など)
② 赤血球の寿命が短くなる
 (出血、溶血など)
③ 骨髄の機能が低下する
 (骨髄の病気、全身の病気など)

酸素を直接運搬するのは、赤血球の中にあるヘモグロビンです。このヘモグロビンは、「鉄(ヘム)」と「蛋白質(グロビン)」から作られます。また、赤血球を作る工場である骨髄では、細胞の分裂の際に、「ビタミンB12」や「葉酸」が必要となります。血液中の赤血球の寿命は約120日と言われています。すなわち、赤血球は日々壊され、新たに作られています。したがって、貧血は、壊されるまたは失う量が、新たに作られる量より多い時に生じます。

具体的には、①赤血球の材料不足、②赤血球の寿命が短くなる、③骨髄の機能が低下する、に分類することができます(表1)(参考文献1)。これらの中で、サッカー選手の貧血の原因として、①の鉄不足が重要です。鉄は、便や尿だけではなく、汗の中にも含まれているのです。運動中の汗の中には、1リットルあたり0.18~0.42mgの鉄が含まれていると報告されています(参考文献2)。

すなわち、大量の汗をかくサッカーでは、鉄も同時に失われていることになります。また女性選手では、月経による失血のため、①の鉄不足になりがちです。一方、サッカーでは必ずしも多くはありませんが、長距離ランナー、バスケットボール、剣道など足の裏側を地面や床に強く打ち続ける競技では、赤血球が壊れる「溶血性貧血」を認めることがあります。

表1 貧血の種類
①材料不足(鉄、蛋白質、ビタミンB12、葉酸など)
②赤血球の寿命が短くなる(出血、溶血など)
③骨髄の機能が低下する(骨髄の病気、全身の病気など)
貧血の症状
表2 貧血の症状
全身症状:だるい、疲れやすい
呼吸・循環系:息切れ、動悸
脳神経系:めまい、頭が重い、頭痛、耳鳴り
皮膚:色白、青白い
その他:食欲がない、月経が不順

貧血の症状は様々なものがあります(表2)。
さらに具体的な例としては、「なんとなく調子がよくない」、「集中力がない」、「練習ができない」等があります。このような症状や声を聞いた際は、貧血の可能性を考えることも必要です。

表2 貧血の症状
全身症状:だるい、疲れやすい
呼吸・循環系:息切れ、動悸
脳神経系:めまい、頭が重い、頭痛、耳鳴り
皮膚:色白、青白い
その他:食欲がない、月経が不順
貧血を疑ったら

貧血を疑ったら、まず下まぶたの内側を見てみることをお勧めします。赤味が無く白っぽいようでしたら貧血の可能性があります。しかし、医療従事者以外は判断が難しいかもしれません。確実な診断には、血液検査が必要です。ヘモグロビン値、赤血球数、フェリチン(体に貯蔵されている鉄の量)などを検査します。ヘモグロビンの正常値は、検査機関により異なります。一般に男性では13~14g/dl、女性では11~12g/dlの間に設定されています。したがって、男性13g/dl未満、女性11g/dl未満は明らかな貧血といえます。貧血を認めた際は、いろいろな原因が考えられますので、専門医に相談するのが良いでしょう。

貧血の予防と治療

サッカー選手で最も多い貧血の原因は鉄欠乏です。まず大切なことは、普段からバランスの良い食事に心がけ、予防することです。
実は、食事からの鉄分の吸収効率はあまり高くなく、10~20%と言われています。発汗による鉄の喪失を考慮すると、サッカー選手では1日当たり男性約2mg、女性では約3mgの鉄分が必要と考えられます(もちろん年齢や発汗量により増減します)。したがって、1日の鉄分の摂取量は、20~30mg必要と考えられます。鉄分の多い食品(ひじき、切干大根、ほうれん草、納豆、豆腐、魚の赤身、貝類、レバー等)を、吸収効率を高めるビタミンCと一緒に取ると良いでしょう。

野菜類の鉄分は、吸収されにくい非ヘム鉄が多く、お茶やコーヒーと同時に摂取するとさらに吸収されにくくなります。緑茶や紅茶などは、食後しばらくたってから飲むようにしましょう。摂取量が十分でない時は、サプリメントで補充する方法もあります。また、溶血の可能性がある時は、靴や走り方を確認して、足底の襲撃を減らす指導を行う事も大切です。

参考文献

1. スポーツ医学研修ハンドブック 応用科目 競技選手に多い疾患¾貧血、オーバートレーニングなど 日本体育協会監修
2. Lamanca JJ, et al. Int J Sports Med. 9:52-5;1988.

2011年2月
JFAスポーツ医学委員 島田和典

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