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用具への思いやり ~いつも心にリスペクト Vol.34~
2016年03月04日

「ボールも風呂に入れてやれ」
監督を務めている女子チームで、汚れたままのボールを練習に持ってきた選手にこんなことを言ったら、「え~!」といやな顔をされた。
しかし実際に私はそうしているのだ。もちろん、寒いから温めてやっているわけではない。
試合に使うと、ボールはけっこう汚れる。土のグラウンドはもちろんだが、人工芝だとクッション用のチップで黒くなるし、天然芝でも切れた芝で緑色がつくことがある。しかししっかり洗ってやれば新品のようにきれいになる。
最近のボールは人工皮革でできている上に表面がコーティングされているから、遠慮なく洗うことができる。ただし庭などないから、「外の水道」は使えない。どこで洗えばいいかなと考えた末に風呂場が浮かんだ。
入浴時、自分の体を洗ったら、ボールも洗う。キズは取れないが、石けんをスポンジにしみ込ませてゴシゴシこすると、面白いようにきれいになる。きれいになると湯船にも入れてあげたくなる。というわけで、最後に温まるときには、私の隣でサッカーボールがプカプカと浮いているのだ。
私がサッカーを始めてから50年になるが、最初はまだチューブに空気を入れてから革ひもで口を閉じる形のボールだった。ゴムのバルブのついたボールになってからは、練習の準備がとても楽になった。だが天然皮革のボールは使っているうちに革が伸び、見た目にも分かるほど大きくなった。
人工皮革になったのは80年代のこと。天然皮革のボールはオイルを塗るなど手入れが大変だったが、人工皮革のボールはぬれた雑巾で拭くか、丸洗いでOK。これもとても楽になった。
だがそんなことしたこともないプレーヤーも多いのではないか。どうせ翌日使えばまた汚れるのだから…。
駆け出しのサッカー記者だったころ、試合後の選手のコメントはロッカールームに入り込んで取った。大阪のヤンマー所属だった釜本邦茂さんは、東京にくると、試合後、いつもたくさん(と言っても10人はいなかった)の記者に取り囲まれた。
釜本さんは記者の質問に答えながらまず足首のテーピングをベンジンで丁寧にはがす。そして大きなバッグからタオルを取り出すと、サッカーシューズのポイントについた土を落とし、さらにシューズ全体をいとおしむように拭いてから丁寧にバッグに収めた。
「釜本さんでも自分でシューズを磨くんだな」と、妙な感心をしたのをよく覚えている。
1970年代まで、イングランドのプロクラブでは「シューズ磨き」はアプレンティス(見習いの少年)の仕事と決まっていた。当時のシューズはもちろん天然皮革。まず汚れを落とし、次にぼろきれで靴墨をつけて伸ばし、最後にブラシをかける。数人のアプレンティスで1チーム分やるのはなかなか大変な仕事だった。
私はシューズ磨きが好きだった。あれこれとプレーのことを考えながら白い三本線を汚さないように靴墨をつけ、ブラシで強く磨くと、黒い革に光沢が出てくる。無心に作業をしていると、翌日の試合や練習が待ちきれなくなってしまうのだ。
最近は、ボールだけでなく、シューズも大半が人工皮革だ。カラフルになっただけでなく、まるでプラスティックそのもののようなシューズまである。当然、面倒な手入れは不要になった。その結果、靴底についた土やアッパーの汚れを落とすといった簡単な手入れまでしなくなったのではないか。
ウエアの洗濯はするかもしれないが、ボールやシューズの手入れなど考えも及ばない現代の選手たち。でも心を込めて手入れをすれば、ボールやシューズに対する愛着がわき、サッカーへの取り組み方も違ってくるのではないか。自然にいろいろなものへの感謝の気持ちももてるのではないか。そしてもしかしたら新しいプレーのアイデアも…。
きょう帰ったらシューズを磨き、ボールを風呂に入れてみよう。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
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