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【特別企画】JFAこころのプロジェクト15周年 ~年間3000回が目標 時代に合わせて、工夫を重ねていってほしい 川淵三郎キャプテン(JFA相談役)インタビュー

2022年06月07日

【特別企画】JFAこころのプロジェクト15周年 ~年間3000回が目標 時代に合わせて、工夫を重ねていってほしい 川淵三郎キャプテン(JFA相談役)インタビュー

JFAこころのプロジェクトがスタートして今年で15周年を迎えた。
この15年の歩みと今後に期待することなどを創設者の川淵三郎キャプテン(JFA相談役)に語ってもらった。

○取材日:2022年4月28日
※本記事はJFAnews2022年5月に掲載されたものです

議論と経験を重ねて完成した現在のカリキュラム

――JFAこころのプロジェクトがスタートして今年で15周年を迎えました。

川淵 当初、いじめや自殺が社会問題になっていたんだよね。「日本サッカー協会(JFA)はサッカーを教えてはいるけど、『心身の発達』の心の部分については何もやっていない」と、あらためて思ったんだよ。それで、手嶋(秀人、当時広報部長)に何ができるか考えるように指示を出した。それがこのプロジェクトの始まりですね。

――電通やキャリアサポートのスタッフの方々と私たち職員数人が集められ、検討を開始しました。学校の授業も視察しましたが、なかなか「これ」というアイデアが出ず、一時期は袋小路に入った感もありました。

川淵 スポーツの感動的なエピソードやフェアプレーの具体例を伝える中で、いじめやルール違反が卑怯なことだというのを教えられないかと考えていたんだけど、僕自身、確固たるアイデアを持っていなかった。田嶋(幸三、現JFA会長)が加わって、「夢」をテーマにしたらどうかってことで、今のカリキュラムの骨子ができたんだよね。今思えば、僕が具体的に指示しなかったことが功を奏したね(笑)。

――何回かのトライアルを経て、カリキュラムが固まっていきました。

川淵 最初、トライアル授業でキーちゃん(北澤豪)に夢先生をやってもらって、それを見た城彰二が安永(聡太郎)にサポートに入ってもらいたいと言って現在の「夢先生+アシスタント+ディレクター」という体制ができた。それが大当たりだったね。安永も使命感を持って、いろいろ勉強してやってくれていたから。
このプロジェクトをサッカー界だけのものにするつもりは毛頭なくて、手嶋はそういう僕の気持ちをくんでくれていくつかの競技団体に打診してくれたんだけど、余裕がないとか、お金がないとか、そういう反応だったんだよ。それで手嶋は個別に選手に当たって協力を取り付けてくれた。その後、日本プロ野球選手会と協定を結んだりしたわけだけど、サッカー界の事業に他競技の選手が入るって画期的なことだよね。

――プロジェクトの10周年記念パーティーの時に、有森裕子さんが「一人の人間として、アスリートとして、しっかりと生きていきたい、そう思わせてくれるプロジェクト」とおっしゃっていたのが印象的でした。

川淵 僕も母校で夢先生をやったけど、子どもたちの喜々とした表情が忘れられないね。夢先生はみんなそんな眼差しで見られているんだなって感動した。そんな経験はそうそうできませんよ。だから、夢先生も自分の存在意義について考えるだろうし、夢を持たなきゃって気持ちになるんだよね。


元マラソン選手の有森裕子さんの授業(ゲームの時間)の様子。
サッカーの枠を超えて事業を推進してきた

――印象に残っていることなどはありますか。

川淵 担任の先生からの感想に「体育が嫌いな児童が満面の笑顔で授業を受けていることにショックを受けた」というのがあったの。初めて来る先生でスポーツ選手となれば、日々の授業とは違うのは当たり前だけど、でもそこがいいんだよ。しかも、そうやって赤裸々な感想を言える先生がいい。夢先生に負けてたまるかという気持ちが出ている感想文を読むとすごくうれしいね。逆に何も感じない先生だとしたら、そういう担任に教わっている子どもは可哀想な気がする。
全ての夢先生のものを見ているわけじゃないけど、福永祐一騎手が子どもたちに書いた夢のシートに感銘を受けたね。丁寧な字で一人一人に心のこもったメッセージがしたためられていたんだ。それから僕は彼に尊敬の念を持っているの。だから、レースで大けがを負った時に授業を受けた子どもたちが福永騎手にお見舞いの手紙を出してくれないかなと思ったんだけどね。みんな中学生になっていてそれはかなわなかった。でも、頼んだら絶対に書いてくれていたと思うよ。

表1:「夢の教室」カリキュラム
「夢の教室」は「ゲームの時間」と「トークの時間」、そして子どもたちと夢先生がメッセージを交わす「夢シート」で構成されている。
○対象:小学5年生・中学2年生(原則としてクラス単位で実施)

■ゲームの時間(35分)/体育館
子どもたちと体を動かし、互いの緊張をほぐしながら、仲間と協力することの大切さ、相手を思いやる心を伝えていく。
①自己紹介(5分):
夢先生が自己紹介とこの時間の趣旨を説明。夢先生がデモンストレーションを行う場合もあり。
②ゲーム(25分):
緊張している子どもたちの心を解きほぐしながら、仲間と一緒に心と体を温めるゲームや目的を達成するために仲間と協力するゲームを行う。
③まとめ(5分):
最後に、夢先生が子どもたちにメッセージを伝える。
   ▼
■トークの時間(55分)/教室
夢先生の体験談をもとに、夢を持つことの素晴らしさ、それに向かって努力することの大切さを伝えていく。
①夢先生の夢トーク(35分):
夢を持ったきっかけや、夢に向かっていく中でどのような困難があり、それをどのように乗り越えたのか。そして、どのようなことが得られたのか。自身の経験をもとに「夢曲線」を黒板に描きながら子どもたちに伝える。
②みんなの夢(15分):
子どもたちに自身の夢を考え、夢シートに書いてもらう。また、可能であれば何人かにその夢を発表してもらう。
③エンディング&まとめ(5分):
夢先生がこの時間のまとめとして子どもたちにメッセージを伝える。授業終了後には、全員で記念撮影を行う。
   ▼
■夢シート(後日)
子どもたちが記入した夢シートは、後日、夢先生に送付される。夢シートには、子どもたち一人一人に向けた夢先生の返事とサインが書かれ、授業終了後に撮影した集合写真と共に子どもたちの元へ届けられる。

コロナ禍の影響でリモート授業に

――この2年は、コロナ禍の影響を大きく受けました。川淵さんも心配されたのではないでしょうか。

川淵 生身の夢先生から受けるインパクトは絶大だし、夢先生だって子どもたちの真剣な眼差しを目の当たりにして高揚感が高まるわけだから、それがないのは夢の教室の魅力を半減させるなと正直、思ったね。だけど、子どもたちは画面越しでも前向きに夢先生と接してくれているようだね。
対面でやるのが10とすると、やらないのはもちろんゼロ、リモートは5くらいかなというイメージかな。やらないよりはやった方がいいに決まっている。だけど、やっぱり実際に顔を見てお互いに反応し合うことが大きな価値だから、早く対面でできる日が来ればいいなと思っています。


2020年度からはコロナ禍の影響を受けてオンラインに切り替えて実施

――15年間で、「夢の教室」は延べ1万8744回を数えます。

川淵 年間2000回を超えた時に目標は3000回だと言ったんですよ。1クラス30人として、3000回やったとすると9万人の子どもたちが夢の教室を経験することになる。9万人というのは、今の出生率で考えると約1割。これはすごいことだと思うよ。

表2:JFAこころのプロジェクト15年間の実績
実施回数:18,744回(学校数:3,853校)
児童・生徒数:562,443人
夢先生:1,410人

――SDGs(持続可能な開発目標)の達成のための活動も盛んになってきています。自治体や企業などこのプロジェクトを自社の社会貢献と考えてくれるところもさらに増えてくると思いますが。

川淵 この活動に参画してくれる企業や自治体が増えてきたのはうれしいことですね。僕ははじめから言っているんだけど、子どもたちの憧れの職業に就いている人や地元企業の社長さんとかにもぜひ、夢先生をやっていただきたい。ある程度の年齢の人は山あり谷ありの人生を生きてきたわけだから、言ってみれば、誰もが夢先生になれるんだよね。夢先生の話は大人にとっても刺激になるので、こういう活動が社会全体に広がっていけばいいなと思うね。

「一期一会」を大切に

――フィギュアスケートで冬季オリンピックに出場した樋口新葉さんもこの授業を受けました。今後は、授業を受けた子どもが夢先生となって教壇に立つというサイクルも生まれてきますね。

川淵 最初の子どもたちが授業を受けたのは15年前だからそういう年代になったんだね。この授業を受けた子どもたちが夢先生として話ができるような機会がくればすごくうれしいね。夢が循環していく。

――子どもたちにとって夢先生はどういう存在であり続けてほしいですか。

川淵 夢先生はやっぱり子どもたちの憧れの存在であってほしいし、少なくとも子どもたちに対して責任を負っているという自覚を持っていてほしいね。別の言い方をすれば、常にそういう意識を持てるからこそ、子どもたちの前で話せる資格があるということ。自分を律し、夢を持ち続け、さらに自分を向上させる努力を怠らないでほしいと思っています。
スケボーなど新しいスポーツへの子どもたちの関心も高まっているから、若い選手にも加わってもらい、そういう夢先生と出会うことで子どもたちがスポーツをしたいという気持ちになってくれたらうれしいよね。体を動かしたり、みんなでスポーツをすることが楽しいことだというのを知ってもらうのもこのプロジェクトの価値なんだからね。

――夢先生やスタッフらへのメッセージをお願いします。

川淵 夢先生に対しては「慣れるな」「一期一会」というのを言い続けてきた。それが夢の教室を支える原点。慣れていい加減な気持ちでやったら、子どもたちはすぐに察知して授業の価値が半減してしまいますよ。
夢先生を含め、スタッフらの思いもJFAの他の仕事よりももっと純粋かもしれないね。この活動が子どもたちのためになる、それがひいては世の中のためになるということをひしひし感じられるわけだから。そういう熱い気持ちがなければプロジェクトも継続しないと思いますよ。

――カリキュラムについてはいかがでしょうか。

川淵 今のカリキュラムが普遍的なものだとは思わない。時代に合わせて工夫を重ねながら、良いものを足していけばいいなと。常に子どもたちへの熱い思いを持って仕事をしてほしいと思っています。

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