メディカルインフォメーション
栄養ガイドライン
はじめに
自分に合う“食のかたち” ― リバプール・遠藤航選手が語る栄養の考え方
1.戦うためのからだづくり
2.食事の重要性と水分補給
3.成長期のからだ
4.成長期の食事
5.SAMURAI BLUE(日本代表)の補食について
JFA栄養ガイドライン Q&A
はじめに
近年、インターネットの普及により、多くの様々な情報を簡単に入手でき、また、健康食品やサプリメントなどもボタン一つで簡単に購入できる時代になりました。インターネットなどから得られた情報がすべて正しいとは限らず、その見極めが非常に重要と考えます。これらを踏まえて、JFAでは2017年11月に栄養サポート部会を発足させ、JFAとして統一的な栄養に関するガイドラインを作成し、各年代の栄養サポートを中心に活動してきました。
サッカー選手が最高のパフォーマンスを発揮し、成長を続けるためには、日々のトレーニングだけでなく、栄養・休養・睡眠といった生活の基盤を整えることが大切です。しっかりとした食事は、身体を作り、力を生み出す源となります。十分な休養と睡眠は、疲労回復とコンディショニング維持に直結します。このような日常生活の積み重ねが、ケガの予防や集中力の向上、ひいては長期的な競技力の向上へとつながります。
この度、8年ぶりにガイドラインを改定いたしました。選手・指導者・保護者の皆さまが、サッカーに取り組む日常の中で、より良い選択肢ができるよう参考にしていただけましたら幸いです。
JFA医学委員会 栄養サポート部会 部会長 鈴木 朱美
自分に合う“食のかたち” ― リバプール・遠藤航選手が語る栄養の考え方

リバプールで活躍する遠藤航選手に、「栄養と食事」について話を聞いた。
世界のトップレベルで戦い続ける遠藤選手にとって、食事は単なるエネルギー補給ではなく、パフォーマンスを支える“準備”の一部だという。
遠藤選手はまず、「食事のバランスとタイミングが大事」と語った。
試合やトレーニングの前後にどのように栄養を摂るか。体づくりのためにどんな食材を選ぶか。そうした意識が日々のコンディションを左右するという。
印象的だったのは、その先の言葉だ。
「知識を得ることも大事だけど、その中で“自分に合ったやり方”を見つけることが一番大切だと思う。」
遠藤選手の言葉には、単なる理論ではなく、経験からくる説得力がある。
サッカー選手といっても、体質やプレースタイルは人それぞれ。同じ方法が全員に当てはまるわけではない。だからこそ、試行錯誤を重ねながら、自分の身体がベストに反応する方法を探していく。海外でプレーするという難しさも、状況により自分で判断してその時のベストな選択肢をチョイスする。栄養と食事も同様である。
「正しい知識を取り入れた上で、自分の体と対話すること」
それが、遠藤航選手の考える栄養との向き合い方だ。
ストイックでありながらも、自分をよく知り、無理をしない。
そんな遠藤選手の食への姿勢は、長年試行錯誤してきた先に得たバランスとタイミング、理論に裏打ちされた真の強さがある。
1.戦うためのからだづくり
①体力を高めるためには
サッカーにおけるエネルギー供給システムは、少し複雑ですが、無酸素性(乳酸系・ATP-CP系)と有酸素性によって成り立っています。試合時間はある程度長い一方、その中に瞬間的なスプリントやジャンプなど爆発的な動作も多いため、複数のエネルギー供給システムが同時に働いていると言えます。
図1に示すように、サッカーの試合時に発現するプレーについてみると、おおよそ運動時間により使われるエネルギーシステムが異なることがわかっています。

表1は、それぞれのエネルギー供給系について説明しています。おおよそ10秒程度で終わる運動の場合はATP-CP系、20秒~2分くらい連続して続けられる運動の場合は乳酸系(または解糖系とも呼ばれます)、そしてそれ以上の運動は有酸素系と呼ばれるエネルギー供給系によってエネルギーが作られます。

それらを高めるには、図2に示すようにそれぞれのエネルギー供給システム(ATP-CP系・乳酸系・有酸素系)を高めるためのトレーニングが必要です。

無酸素性トレーニングとしては、ATP-CP系と乳酸系のトレーニングがあげられます。まずATP-CP系のトレーニング例としては、30m以上の全力スプリントを含んだトレーニングやジャンプやシュートトレーニングなど10秒以内で完結するトレーニングがそれに当たります。このとき、運動時間に対して休息時間も重要です。ATPを回復するために運動時間の10倍以上の休息時間が必要です。次に、乳酸系の例としては30秒くらい動き続ける1vs1や90秒くらいでの2vs2などのスピード持久力トレーニングなどがそれに相当します。
休息も運動時間に対しておおよそ5倍くらいの休息時間を取らないと動き続けることが困難になります。
そして有酸素系のトレーニング例としては、高強度のトレーニングは2分くらい、中強度のトレーニングは4分くらい運動時間を持続させ、それぞれ休息時間を1分くらいと短めにとることがそれら持久力を高めることにつながります。
■ 参考文献
Laundry F, Orban WAR: 3rd International Symposium on Biochemistry of Exercise. vol 3.
Symposia Specialist, USA,1978
②体調管理
サッカー選手への第一歩は<体調管理>です.
サッカーは90分間にわたり全身を使う持久的かつ瞬発的な運動であり、心肺機能・筋力・柔軟性・集中力のすべてが高いレベルで要求されます。このためには身体的にも精神的にも可能な限り良いコンディションで臨み、全力でトレーニングに向き合うことが重要です。
適切な体調管理は、選手が最大限のパフォーマンスを発揮し、ケガを予防し、コンディションを維持することに直結します。自分に最適な体調管理を選手自身が常に求める習慣を持つことが重要であると考えています。(図1)

体調管理に必要なこと
体調管理に必要な要因としては、睡眠、食事、疲労回復です。疲労には身体的疲労と精神的疲労があり、これらの疲労を回復するための方法は世界中で探求されています。この疲労回復の基本は、睡眠と食事です。今回は、この体調管理の基本として重要である睡眠と食事に関して述べます。(図2)
なぜ睡眠は重要なのか?
疲労回復に睡眠はとても重要です。成人では1日7時間以上、育成年代では1日9時間以上の睡眠をとるのが望ましいといわれています。人間のからだは睡眠をとることで成長したり、傷ついている部位を修復したり、免疫を高めたりします。人間には日内リズムがあり、日中に覚醒度や精神・身体活動を高め、夜間に睡眠の準備を整える役割を果たします。しかし、夜更かしをして夜中まで光を浴びていると、目を通じて脳が光を感知して、メラトニンという睡眠を調節する物質を抑制してしまい、日内リズムの破綻が生じてしまいます。それにより、適切な睡眠時間や質の高い睡眠がとれなくなり、からだの修復が遅くなったり、疲労がとれなかったりする可能性がでてくるのです。この日内リズムをしっかり保ち適切な睡眠をとるためには、まずは早寝(可能ならば夜9-10時までには寝ていることが望ましい)早起きすることを心がけましょう。(図2)
食事の重要性(栄養と食事は後述)
サッカー選手にとって適切な栄養補給が重要であることは言うまでもありません。毎日バランスの良い食事を摂ることで、身体的な疲労のみならず精神的な疲労も回復できます。思春期のエリートアスリートの大多数が1日に必要な栄養素(特に魚や野菜)を摂れていないという報告があり、必要な栄養素をしっかり摂るためには、毎日3食をしっかりと食べることが重要です。とくに朝ごはんや昼ごはんを食べていない選手は睡眠不足や精神的ストレスを抱えやすく、怪我の発生率が上昇するといわれています。
朝ごはんをしっかり食べることは、身体的、精神的な疲労の予防や怪我の発生を防ぐことができ、同じトレーニングを行っていても、競技力が他の人より向上することを見込めるかもしれません。(図2)

まとめ
自分にとって最適な生活習慣を探し、身につけることは素晴らしいことです。これを是非活用して、適切な体調管理を行い、素晴らしいトレーニング準備を行ってください。
■参考文献
1. von Rosen P, Frohm A, Kottorp A, Friden C, Heijne A. Too little sleep and an unhealthy diet could increase the risk of sustaining a new injury in adolescent elite athletes. Scand J Med Sci Sports. 2017;27(11):1364-71.
2. Nedelec M, Halson S, Delecroix B, Abaidia AE, Ahmaidi S, Dupont G. Sleep Hygiene and Recovery Strategies in Elite Soccer Players. Sports Med. 2015;45(11):1547-59.
3. Faltstrom A, Skillgate E, Weiss N, Kallberg H, Lyberg V, Walden M, et al. Lifestyle characteristics in adolescent female football players: data from the Karolinska football Injury Cohort. BMC Sports Sci Med Rehabil. 2022;14(1):212.
③成長段階にあった食事の摂り方
サッカーは、持久的運動能力、高強度運動能力、スピード運動能力、筋パワー運動能力が必要となるため、そのためのからだづくりが必要です。
健全な成長が大切
サッカー選手としての戦うためのからだづくりには、からだの土台を築く時期である幼少のころから成人に至るまでに健全な成長を促し、健康的なからだをつくることが大切です。小学生から高校生の時期は身長と体重の増加が大きく(図1)、またからだの臓器や器官の発育も大きい時期(図2)です。からだが成長する時期に、正しい生活習慣と十分な睡眠、そして十分なエネルギーと栄養素のとれる食習慣をつくることが、サッカーに必要な運動能力を獲得するために必要です。からだは食べ物からできています。毎日の食事が戦うためのからだをつくるために重要な役割を果たしています。

学童期の食事
学童期では自ら食べることに興味・関心をもち、食事が将来のからだをつくることを意識することです。その支えとなり主に食事を整えてくれるのは、保護者が中心になります。保護者の正しい知識と行動が選手のからだづくりに影響する時期でもあります。
思春期・成長期の食事
思春期・成長期は自立の時期です。選手自らが正しい食事の選択ができるようになることが必要です。そのためには選手自身が正しい知識をもち、実践できる力を身に付けることが必要です。
成人期の食事
成人期では全てにおいて自己管理が必要となりますが、戦うためのからだづくりのために自身にとって何が必要か、何をすべきか、その前提に何が問題で何が課題なのかを明確にすることが必要となります。自己判断は必ずしも良い方向に進まない場合もあるため、成人期での戦うためのからだづくりのためには、各分野の専門家に相談することも重要です。
■参考文献
1)小林正子.スキャモンの発育曲線と子どもの発育.子どもと発育発達,12(4),259,2015
④相対的エネルギー不足に注意を!
スポーツにおける相対的エネルギー不足(Relative Energy Deficiency in Sport , RED-S)
国際オリンピック委員会(IOC)はアスリートの健康を守るため、科学的根拠に基づいた合意文章(consensus statement)発表しています。 その一つに“スポーツにおける相対的エネルギー不足(Relative Energy Deficiency in Sport , RED-S)”という概念があります。相対的エネルギー不足とは、健康、日常生活、成長および運動活動に必要なエネルギー消費が、日常の食事によるエネルギー摂取を上回った為に生じるエネルギーが足りなくなった状態のことを言います。このエネルギー不足は免疫、月経機能、骨の健康、内分泌系、代謝系、血液、成長発達、メンタル、心血管系および消化器系に影響し(図1)、慢性的になると健康とパフォーマンスにまで影響を及ぼすとしています(図2)。

この中で相対的エネルギー不足(利用可能なエネルギー不足)によって視床下部性無月経と骨粗鬆症が生じた状態を女性アスリートの三主徴(図3)と呼んでいます。

この利用可能なエネルギー不足は女性アスリートにおいて月経周期異常や無月経を生じさせるため、月経を通じて男性アスリートより気づかれやすく問題視されていますが、当然男性アスリートにも起こりうる健康被害ですので注意が必要となります(図4)。

女性アスリートの三主徴において無月経による低エストロゲン(女性ホルモンの一つ)血症はさらに骨粗鬆症を引き起こし、疲労骨折の原因の一つともなり得ます。
このように利用可能なエネルギー不足は競技パフォーマンスを低下させ、最終的に競技からの離脱という最悪の問題に発展する可能性をはらんでいるのです。
■参考文献
1)De Souza MJ, Nattiv A, Joy E, et al. et al. 2014 Female Athlete Triad Coalition Consensus Statement on Treatment and Return to Play of the Female Athlete Triad: 1st International Conference held in San Francisco, California, May 2012 and 2nd International Conference held in Indianapolis, Indiana, May 2013 Br J Sports Med 2014;48:289
2)Mountjoy M., Sundgot-Borgen J., Burke L., et al The IOC consensus statement: beyond the Female Athlete Triad—Relative Energy Deficiency in Sport (RED-S). Br J Sports Med 48: 491-497 2014
2.食事の重要性と水分補給
①サッカー選手にとっての食事の重要性
サッカー選手にとっての食事の重要性は、①からだづくり、②体調管理、③障害予防が挙げられます。 からだづくりのためには、十分なエネルギーと栄養素の補給を考え、毎日の体重測定により、練習や試合で消費したエネルギーを補充できているのか確認することが重要です。また、体重管理だけではなく、体調管理として日々の疲労度や食欲などの自分自身の体調面を振りかえり、十分な栄養素の補給に努めることで、障害予防にもつながります。

②戦うからだをつくるための基本の食事
大切な食習慣とは
高い競技力を保持するからだには、筋・脳・内臓に十分なエネルギー源を蓄えていること(エネルギー)、そのポジションに見合った筋肉や骨格を作ること(からだづくり)、トレーニング後や試合前の体調を整えること(コンディショニング)、障害の予防及び改善に取り組むことが不可欠になります。そのためには、食事からエネルギー及び栄養素を過不足なく摂取することが重要です。
①欠食をしない ②食品摂取の偏りをなくす・好き嫌いをしない ③アスリートの「基本的な食事の形」(図1)をそろえる ④トレーニングに合わせた水分・食品を摂取する、の4つの食習慣が基本になります。

1. 主食(体を動かすエネルギー源):主に炭水化物の供給源(例:ご飯・パン・麺・もち)
2. 主菜(筋肉、骨、血液など人の体を作る):主にたんぱく質の供給源(例:肉類・魚介類・卵・大豆製品)
3. 副菜(体調を整えたり、骨や血液の材料となる):主にビタミン、ミネラルの供給源(例:野菜・芋・海藻・きのこ)
4. 牛乳・乳製品(骨をつくるのに欠かせない):主にカルシウム、たんぱく質の供給源(例:牛乳・ヨーグルト・チーズ)
5. 果物(疲労回復、コンディショニングに役立つ):ビタミンC、炭水化物の供給源
エネルギー収支バランスの確認
「相対的エネルギー不足に注意を!」の項で述べているように、日常での身体活動や成長に加え、激しいトレーニングによりエネルギー消費量が増えるため、消費量に見合ったエネルギー量を食事から摂取し、「相対的エネルギー不足」にならないことが重要です。エネルギーの消費量と摂取量が見合っているかは「体重の変化」でわかります。毎日体重を測定し、エネルギーの収支バランスを確認しましょう。
【エネルギー収支バランスの基本概念】成人(18歳以上)
エネルギー摂取量とエネルギー消費量が等しいとき、体重の変化はなく、体格(body mass index:BMI※)は一定に保たれる。エネルギー摂取量がエネルギー消費量を上回ると体重は増加し、エネルギー消費量がエネルギー摂取量を上回ると、体重が減少する。
※BMI:体重(kg) ÷ 身長(m) ÷ 身長(m)
基本の食事をそろえましょう
「エネルギー」となるのは炭水化物(糖質)、たんぱく質、脂質であり、「からだづくり」にはたんぱく質が最も重要となり、ミネラルはその補助をしています。脂質は、細胞膜や体脂肪組織を形成します。「コンディショニング」は生体内の化学反応を円滑に行う、スポーツ障害を予防するという点からビタミン・ミネラルに代表されます。表1に「主な栄養素のはたらきと多く含まれる食品」、および日本人の食事摂取基準(2025年版)に示されている摂取目標量を示します。必要な栄養素をバランスよくとるために把握しましょう。
実際に日常的な食事においては、毎食アスリートの「基本的な食事の形」(図1)をそろえるようにしてください。
【表1 主な栄養素のはたらきと多く含まれる食品、および1日の目標栄養摂取量(18歳以上)】

※鉄の目標摂取量:月経なし/月経あり
③補食について
補食とは
補食とは朝・昼・夕の3食で足りないエネルギーや栄養素の補給をすることです。また、練習前に空腹の場合、練習後から夕食までに時間が空いてしまう場合は、効果的なトレーニングとリカバリーのために補食をとるようにしましょう。
運動前・運動中・運動後の補食
運動中の主なエネルギー源は、血中グルコース(血糖)と筋肉・肝臓に貯蔵されているグリコーゲンです。これらが不足すると空腹感・疲労感をおこしやすく、集中力が落ちるなどパフォーマンスの低下の一因となります。運動時間が長くなると、エネルギー源として脂肪が使われる割合が高くなりますが、脂肪が酸化してエネルギー源を産生する反応にもグルコースが必要です。そのため、練習前にはエネルギー補給をしておきましょう。
トレーニング後は、消耗したグリコーゲンを速やかに回復させる必要があるので、炭水化物を十分に摂取することが大切です。練習後速やかに炭水化物を摂取した場合は、何も摂取しなかった場合よりトレーニング後の筋肉たんぱく質分解が少ないことがわかっています。さらに炭水化物とたんぱく質を摂取することで、筋たんぱく質の合成が高まることも報告されています。

図1 練習前と練習後の補食例
補食のタイミング
基本的には、トレーニング開始2~3時間前、トレーニング終了後はなるべく早いタイミング(終了後2時間以内)で食事時間を設定できるようにスケジュールを組みましょう。
図1に練習前と練習後に適した補食例を示します。
■参考文献
1)Costill DL, et al. : Nutrition for Endurance Sport: Carbohydrate and Fluid Balance. Int J Sports Med, 1: 2-14, 1980
2)Lemon PW and Mulin JP: Effect of initial muscle glycogen levels on protein catabolism during exercise. J Appl Physiol 48:624-629,1980.
3)Esmarck B, et al. : Timing of Postexercise protein intake is important for muscle hypertrophy with resistance training in elderly humans. J Physiol, 535: 301-311, 2001.
④効果的な水分補給の方法
内部冷却としての水分補給を基本に
JFA熱中症対策ガイドラインでは、体温管理を目的とした内部冷却として、「水分補給」と「アイススラリー(氷と飲料水を混ぜたシャーベット状飲料)」が明記されています。
WBGT(暑さ指数)に応じた対応と補給タイミング
STEP1(必須事項)では、以下のように身体冷却を組み合わせることが推奨されています:
・ 外部冷却:アイスバス、アイスパック、クーリングベスト、ミストファン、送風、頸部・手掌冷却など
・ 内部冷却:水分補給、アイススラリー
環境リスクが高まる(WBGT 28℃以上)場合には、ベンチ環境整備、氷や経口補水液の準備、WBGT計の設置、クーリングブレークや飲水タイムの実施準備が求められます。
| WBGT範囲 | 対応内容(高校生以上/中学生以下) |
|---|---|
| 31以上(危険) | STEP1~STEP3と冷却策をすべて講じ、主催者判断で試合実施可(原則中止を検討) |
| 28~31(厳重警戒) | 高校生以上:STEP1+STEP2+クーリングブレークまたは飲水タイム |
| 中学生以下:STEP1+STEP2+クーリングブレーク | |
| 25~28(警戒) | 高校生以上:事前合意により飲水タイム可 |
| 中学生以下:STEP1+STEP2+クーリングブレークまたは飲水タイム |
実際の試合での水分補給の仕組み
クーリングブレークは各ハーフ終了前(45分ハーフなら30分頃)に約3分間行われ、日陰での休憩、身体の冷却、スポーツドリンクによる補給を行います。飲水タイムも同様に実施される場合があり、戦術的指示は禁止されています。
練習や試合時における実践的な飲み方
・練習や試合の前後に体重測定を行い、発汗によって失われた水分量を把握
・水だけでなく、塩分や糖分を含むスポーツドリンクを併用
・こまめな補給を行い、喉が渇く前に飲む
・運動後は失った水分量の150%を目安に数時間かけて補給
【尿の色で分かる脱水チェック表】
尿の色を確認することで、体の水分状態を簡便にチェックすることができます。
以下の表を目安に、日々のコンディショニングに役立ててください。
| 尿の色(色見本) | 状態の目安 | コメント |
|---|---|---|
| ① 無色〜淡いレモン色 | 十分な水分状態 | よく水分補給できている |
| ② 淡黄色 | 正常範囲 | 適切な水分摂取 |
| ③ 黄色 | 軽度脱水の可能性 | 運動時は意識的に水分補給を |
| ④ 濃い黄色 | 脱水傾向 | のどの渇きを感じる前に補給が必要 |
| ⑤ 褐色がかった黄色 | 中等度脱水 | パフォーマンス低下リスクが高まる |
| ⑥ 茶色〜濃褐色 | 重度脱水の可能性 | 医療的対応を検討すべきレベル |
【注意事項】
・ビタミンB群や薬の影響で尿が濃くなることがあります。
・朝一番の尿は自然に濃くなるため、日中の尿で確認するのが望ましいです。
・尿の色はあくまで目安であり、体重変化や体調と併せて評価してください。
まとめ:JFAガイドラインに基づく効果的な水分補給
| シーン | 対策 |
|---|---|
| 身体冷却 | 内部(飲水・アイススラリー)+外部(氷・冷却装具など) |
| WBGT 28℃以上 | ベンチ環境整備、飲料・氷の準備、WBGT計設置、冷却タイムの計画 |
| クーリングブレーク/飲水タイム | 各ハーフで1~2回以上、日陰・冷却・補給を実施可能 |
| チーム・個人で実践 | 体重測定→発汗量推定、スポーツドリンク併用、こまめな補給 |
■参考文献
JFA熱中症対策ガイドライン
⑤試合前後の食事
試合前日の食事は、試合に向けてエネルギーを蓄えること、安全であること、体調を整えることが重要です。
試合後の食事では、からだの回復を促すために補食(補食参照)として炭水化物と水分補給を速やかに行い、その後の食事でからだの回復に必要なエネルギーと栄養素を十分に補給しましょう。
普段通りの食事ができる環境を整える。
普段食べ慣れない食事をすると、体調を崩してしまう恐れがあります。試合前だからと言って特別な食事をするのではなく、日ごろから食べ慣れた食事をとることが試合前の体調管理として重要です。
安全性の高い食品や料理を選ぶ。
ベストコンディションで試合に臨むためには、腹痛などの体調不良にならないよう刺身や生卵などの生もの、生焼けの肉などは避けてください。海外では飲み水にも注意が必要です。水道の水ではなくボトルウォーターを利用しましょう。また、調理してから時間が経過した料理や食品、保存状態の悪い料理や食品は避けてください。
体重管理を継続する。
調整期は練習量も減少します。体重管理を継続し、通常トレーニング時に比べて食事量や内容を調整する必要があります。
便秘、風邪、ストレス対策に野菜、果物を適度にとる。
試合前の環境の変化等による便秘対策として、水分や食物繊維の多い野菜や果物を適度にとりましょう。また、風邪予防やストレスに対抗するために、ビタミンCが多く含まれる果物や野菜を毎食とりましょう。
エネルギー源となる炭水化物をとる。
試合で力を発揮するために体内にエネルギーを蓄えておく必要があります。炭水化物を多く含むごはんやパスタ、パンなどの主食や果物をとるようにしましょう。
3.成長期のからだ
①からだの成長(発育・発達、成長曲線・標準体重の算出)
1.はじめに
同じ学年でも、からだの成長が早く身長の高い人もいれば、身長のとても低い人もいますし、体重が重い人もいますし、軽い人もいます。本項ではからだの成長を、身長と体重から説明します。
2.骨年齢について
早熟なのか、晩熟なのかを判断する指標として、骨年齢があります。実際の年齢と、からだの発育年齢は異なります。したがって、実際の年齢よりも成熟が早い人は、実際の年齢以上に骨年齢が進んでいますし、晩熟の人は骨年齢が遅れていることになります。したがって、身体が小さいと心配だとしても、骨年齢が実際の年齢より低ければ、1~2年遅れで他の同級生に発育が追いつくことになります。では、骨年齢とは何でしょうか。骨は、完全な大人の骨になるとすべてが骨となりますが、成長期には骨の中に軟骨成分がたくさん存在します。この軟骨成分から骨が生まれ骨が大きくなっていきます。成長が止まると軟骨成分が消失し、すべて骨になります。骨の中に軟骨成分がどのくらい含まれているかを評価して、骨の成熟度を示すものを骨年齢といいます。からだのさまざまな部位で骨年齢は評価されますが、多くは手の骨におけるX線検査によって骨年齢を評価します。骨年齢が高い人は、からだは大きいですが大人の骨に近づいていて今後の身長の伸びはあまり期待できないかもしれないですし、骨年齢の低い人は、これからまだまだ身長が伸びて、身長が高い人をいずれ追い越すかもしれません。つまり、からだの成長は、実年齢より骨年齢で評価されることになります。
3.身長の伸び
一般的に骨年齢を測定するにはX線検査を行わなければならず、気軽に行えることではありません。そこで身長の伸びから、からだの成長を評価しています。そのために、身長の伸びについての説明をします。
身長の伸びに関しては、年間身長増加量曲線という一般的な身長の伸びを示したグラフがあります。通常、急に身長が伸びる時期が存在し、これをtake off age(TOA)といい、このTOAから年間の身長増加がピーク(peak height velocity age: PHVA, 最大身長増加時期)を過ぎるまでを年間身長増加曲線のフェーズ(Phase)Ⅱといいます(図1)。
この急に身長が伸びるフェーズⅡの時期は、成長期のスポーツ障害を発症しやすいと言われています。毎月身長を測り、年間身長増加曲線上のどこのフェーズにいるか、自分自身が知ることは重要なことです。
年齢に応じた標準的な身長と比較してあまりに低い時には、小児科医師に相談することが必要かもしれません。稀に成長ホルモンの分泌が減少してしまうことにより、身長が伸びないことがあります。小児科医師への受診により、骨年齢の評価など、専門的な検査および診断を行ってもらうことが可能です。ここで日本小児内分泌学会が厚労省と文科省のデータをもとに示した年齢に応じた平均身長を示します(図2)。

図1 身長成長速度曲線のパターンによる成長期の区分
大野ゆう子ほか,日小児会誌,1988

図2 身長体重標準曲線(日本小児内分泌学会HPから引用)
©日本小児内分泌学会
4.身長の伸びと体重
身長の伸びとともに、体重を増やすことが重要です。身長が伸びているときにこそ十分な栄養をとるようにしましょう。身長が伸びる時期に偏った食事やダイエットをしたり、食事の量を減少させたりすることは成長のために良いことではありません。いつ自分の身長が急激に伸びているか、自分で把握することはとても重要です。そのうえで今の身長では、どのくらいの体重があれば適切であるかの標準体重を調べてみましょう。これまで標準体重に関する指標は、ローレル指数やBMIなどがありましたが、個々の体格を評価する指標としては十分ではないという報告があります。日本小児内分泌学会では、性別・年齢別・身長別・標準体重計算式(5歳以上17歳まで)を出しています(表1)。このようなデータから、適切な標準体重を知り、それに達するためにどのような食事を摂れば良いか、どれくらいの量を摂れば良いか、日々の食生活を意識することが重要と考えます。

表1. 性別・年齢別・身長別標準体重計算式(日本小児内分泌学会HP)
©日本小児内分泌学会
まとめ
からだの成長には栄養・食事がとても大きく影響します。身長や体重についての知識を得て、からだの成長を栄養面からサポートすることができるようにしましょう。
②発育期の骨の成長
私たち人間の骨は全部で206個ありますが、赤ちゃんの時には約350個もの骨が認められています。骨といっても分離骨といわれ長い時間をかけて一部つながりあって、成人した段階で206個になります。骨の成長が終わるのは女性で15~16歳、男性で約18歳といわれています。身長の伸びは、10歳ころまでは1年に約6cm、思春期の初期(男子は10.5〜14歳、女子は10~13歳)になると1年に6~8cm、青年期中期(男子は12~14歳、女子は12.5~15歳)になると最も急激な成長を遂げる段階で女子で約8cm、14歳の男子で約10cmも伸びます。成長期の子供の骨をX線で撮影する、関節付近に「成長軟骨板(骨端線)」と呼ばれる線があります。この線は骨の両端部分にある骨端と骨幹との境目部分にあたり、成長期の子供しか確認できません。

この成長軟骨板部分にある組織は「骨端軟骨」と呼ばれる軟骨組織で形成されています。
骨端では、新しい骨を作る骨芽細胞と、古い骨を分解・吸収する破骨細胞が盛んに働いています。成長期には骨芽細胞の働きが活発化するため、この骨端軟骨組織が増殖しながら栄養素を取り込んで硬い骨へと置き換わっていきます。骨は成長軟骨板に沿って伸びていきます。
成長期が終わりに近づくにつれ軟骨層は少なくなり、やがてすべての軟骨層が硬い骨へと置き換わると、成長軟骨板はほとんど見えなくなります。この段階で骨の伸びが止まり、身長も伸びなくなります。X線で成長軟骨板が確認できるかどうかが、成長期を知る分かりやすい目安になります。
ここで成長期におけるスポーツ外傷・障害について説明します。
外傷・障害とは
・外傷:1回の動作で発症するもの(打撲、骨折、捻挫、肉離れなど)
・障害:繰り返しの動作で発症するもの、いわゆるオーバーユース(使いすぎ)(野球肘・オスグッド・シュラッター病,疲労骨折など)
成人では、「外傷」が多いのに対し、成長期では、「障害」が多いとされています。
成長期に発症しやすいスポーツ障害
① 骨端症
1) オスグッド・シュラッター病
骨化過程にある脛骨粗面(お皿の下の骨)における繰り返される牽引力による骨端症。脛骨粗面部の突出と運動時痛。10~13歳の成長期に多く、特に男児に多く発生します。スポーツ種目では、サッカーやバスケットボール、跳躍系のスポーツに多く発生します。成長が終了する頃に症状が消失することが多いです。
2) シーバー病
ダッシュやジャンプ動作のようにアキレス腱と足底腱膜により繰り返される牽引力によって起きる踵の骨端症。10歳前後の男児に多く、またサッカー、野球、陸上に多く発生します。1-2か月程度で改善することが多いです。
② 疲労骨折
繰り返し負荷により発生する骨折で、15-17歳に多く、スポーツ種目は多岐にわたりますが、野球、サッカー、陸上が多いとされています。好発部位は、腰椎が最も多く、次いで脛骨と中足骨と続きます。要因としては、急激な運動負荷の増加、環境因子(シューズやインソール、人工芝)、身体的因子(柔軟性の低下や身体の使い方)などの他に、栄養学的な問題(カルシウムやビタミンD)、女性では月経に関連する骨粗鬆症などがあげられます。
1) 腰椎分離症
過度な腰の反りや捻りがストレスとなり生じる背骨(腰椎)の疲労骨折。腰を反りすぎる動作、捻る動作(回旋)に注意が必要です。X線で骨折線がはっきりする時期には、すでに手遅れ(進行期、終末期)になっていることがあるため、早期診断・早期治療が重要です。2週間以上腰痛が続く場合は、医療機関の受診をおすすめします。

単純X線:スコッチテリアサイン(首輪)
2) ジョーンズ骨折(第5中足骨疲労骨折)
第5中足骨近位部(からだに近い部分)に発生する疲労骨折で、治りにくく、また再発も多い骨折です。サッカー選手に多く、足のアライメント(形)、関節柔軟性の低下(特に股関節内旋)、足趾把持力の低下、スパイクシューズの形状、人工芝などが原因とされています。早期に診断されれば、治療しながらプレーすることも可能ですが、完全骨折に至った場合は手術を要することもあります。

単純X線
[治療と予防]
・早期発見・早期診断
・早期に適切な治療
・体幹、下肢含めた柔軟性の獲得
・成長期には無理な負荷をかけすぎない
③月経について
月経とは
月経とは、「約1ヶ月の間隔で起こり、限られた日数で自然に止まる子宮内膜からの周期的な出血」と定義されています。
思春期になると、脳内にある視床下部から卵胞刺激ホルモンを出すよう脳下垂体に命令が出され、脳下垂体から卵胞刺激ホルモンが出されます。卵胞刺激ホルモンは卵巣に作用し、女性が生まれた時からおなかの中に持っている卵巣の中の原始細胞が活動を始め、卵子を含んだ成熟卵胞となります。この時、卵胞からは卵胞ホルモン(エストロゲン) が分泌されます。その後、脳下垂体は、黄体化ホルモン(LH)を分泌し、卵巣を刺激します。これにより、卵胞から卵子が排出されます。これが「排卵」です。排卵した卵胞からは卵胞ホルモンと黄体ホルモン(プロゲステロン)が分泌され、これらのホルモンのはたらきで、子宮内膜は厚くなり、 受精卵が着床しやすい状態になります。この時、卵子が受精しなければ、不要となった子宮内膜がはがれ落ち、腟から排出されますことになります。 これが「月経」です。これを一周期とし、月経が始まると再び脳下垂体から卵胞刺激ホルモンが分泌され、同じサイクルが繰り返されます。
なぜ月経が必要か
月経があるということは妊娠できるということに他ならないのですが、具体的には女性ホルモンが分泌されることになります。女性ホルモンは上述したエストロゲンとプロゲステロンがそれにあたりますが、この中で特にエストロゲンは女性生殖器以外に、身体の健康維持に重要な役割を果たしています。アスリートにとってこれらエストロゲンの働きのなかで、骨量を獲得したり維持したりする働きが最も大事で、月経が来ない(無月経といいますが)、つまりエストロゲンが分泌されないと、骨量が低下し、その結果骨粗しょう症、場合によっては疲労骨折をきたすことになります。特に骨量のピーク(最大骨量)は20歳ごろといわれており、10代で一生の骨量獲得することになります。そのため10代での無月経はこの骨量獲得と、将来的な骨の健康に影響を及ぼしかねないので、注意が必要になります。
④学童期・思春期の栄養課題(貧血予防と改善、その他)
はじめに
学童期、思春期に不足しがちな栄養素として鉄があげられます。鉄の不足により貧血が生じます。日本陸上競技連盟の調査では、陸上ジュニア選手の2割前後に貧血の既往があり、特に女子選手、長距離選手ではさらに貧血が多いことが報告されています。1)貧血は、全身へ酸素を運ぶ血液中のヘモグロビンが低下し、酸素運搬能力が低下することによりおこります。疲れやすい、息切れ、頭痛、めまいなどの症状を来たし、アスリートにおいては、疲れが抜けない、練習についていけない、記録が伸びない、息があがりやすいなど、パフォーマンスの低下がもたらされます。
育成年代のアスリートは貧血になりやすい
アスリート貧血の要因には、激しいトレーニングによる鉄分の排出・需要増加、成長期に伴う鉄分の需要増加(筋肉や骨の形成)、偏食やダイエットによる鉄分の摂取不足、運動による発汗や消化管出血、月経による鉄分の喪失、などがあります。国立スポーツ科学センター(JISS)での報告 2)では、トップアスリートの貧血(ヘモグロビン値:男性13.5g/dl未満、女性11.5g/dl未満)の割合は、18歳以上では男性5%、女性13%、18歳未満では男性5%、女性15%と女性アスリートに多い傾向でした(図1)。また、JFAアカデミー福島のデータ 3)では、13〜16歳までの貧血は、男子も女子もほぼ同じ確率で発症しており(図2)、成長期では男子も注意する必要があります。

図1 各種目ジュニア選手の貧血の割合(%)1), 2)

図2 JFAアカデミーにおける血清フェリチン値 3)
鉄欠乏性貧血の予防
ヘモグロビンの材料となる鉄分とタンパク質に加えて、鉄の吸収を助けるビタミンCも同時に摂ることが必要です。タンパク質は、動物性タンパク質(肉や魚)を継続的に摂りましょう。また、造血に関わるビタミン(B6、B12、葉酸)やエネルギーとなる主食(糖質)もしっかり摂ることが重要です。
では、食事から鉄をどのくらい摂ればよいのでしょうか。厚生省のホームページ 4)(図3)によると、推奨量としては成人男性(18〜29歳)では7.0mg/日、成人女性では月経周期に応じて6.0〜10.0mg/日に設定されています。10代の成長期では、男子で9.0〜9.5 mg/日、女子で6.5〜12.5mg/日と成人よりもより多くの鉄が必要とされています。鉄の必要量が多いアスリートではさらに多くの摂取量が必要であり、20〜30mg/日とされています。潜在性鉄欠乏(貧血がなく、貯蔵鉄の指標である血清フェリチン値が低値の状態、鉄欠乏性貧血の前段階)のアスリートでは、20〜30mg/日の鉄を摂取することで、血清フェリチン値が上昇するとされています。鉄の耐用上限量は、成人男性では50mg/日、成人女性では40mg/日とされていますが、一般的な食事ではこの耐用上限量に達する可能性は極めて低いとされています。ただし、サプリメントの過剰摂取では耐用上限量に到達する危険性があり注意が必要です。アスリート、特に成長期では、食事でしっかり必要量を摂るように心がけましょう。

図3 鉄の食事摂取基準4)
まとめ
アスリートとして必要な基本的な栄養素のほかに、学童期・思春期に注意すべき栄養課題として、鉄を中心に説明しました。
■参考文献
1) 陸上競技ジュニア選手のスポーツ外傷・障害調査, 2016
2) 土肥美智子ら, 日本臨床スポーツ医学会誌, 2016
3) 中堀ら,臨床スポーツ医学, 2010
4) 厚生労働省 「日本人の食事摂取基準(2025)年版」 策定検討会 報告書
⑤成長期のトレーニング
成長期の選手は、こころとからだの両面において計画的かつ慎重にトレーニングを進める必要があります。激しいトレーニングの一方で、必要な栄養と十分な休養をとってリカバリー(回復)をしっかり行わないとケガにつながってしまったり、サッカーが嫌いになってしまったりする危険性があります。
図1は個人によって成長のスピードが違うことを示しています。普段おおよそ学年や種別によって枠を決めてトレーニングすることが多いと思いますが、時にはその枠を取り去って、成長の度合いによってグループ分けをしてみるのも良い試みだと思います。トレーニングすべてではなくても、セッションごとの回数や時間、強度、セット数などを変更する柔軟なアイディアを持つと適正な負荷になり過度なトレーニングを避けることができます。

また、日本人はパワーがないとかコンタクトやデュエルに弱いといったこれまでの固定観念を捨て、図2に示すように育成年代から将来パワーを獲得するためにそれぞれの年代で体づくりや動きづくりを計画的に行いましょう。
https://technicalnews.jfa.jp/31893/
※閲覧にはJFA ID及びサッカー指導者、またはフットサル指導者の資格の取得が必要です

成長期のトレーニング時に心がけたい項目を下記にまとめてみました。
1. 発育発達に応じた負荷設定をする
身長の伸びをみて、学年ではなく発育段階(PHV:成長スパート期)に合わせて負荷を調整する。
https://www.jfa.jp/coach/physical_project/monitoring.html
2. チーム全体トレーニング前にセルフコンディショニングを実施する
選手個人によってコンディションは違うので、ストレッチやコアトレーニングなどいくつかの種類のプレウォームアップの種目を行えるように身につける。
https://www.jfa.jp/coach/physical_project/fitness_example.html
3. ウォームアップにいろいろなパターンや動きを取り入れる
トレーニング時のウォームアップはいつも同じものを行うのではなく、その日の選手のコンディションやトレーニング内容によって変えてみる。他の競技からヒントを得たりして、ステップワークやコンタクト、スプリントなどさまざまな動きを入れてみる。
(JFA版11+製作中)
4. メンタル面を重視して楽しく行う
モチベーションを保つためにも選手個人の目標を明確にして、段階に応じて課題解決や達成感などいつもメンタル面に配慮して行う。
■参考文献
Chuman et al.: Maturity and Intermittent Endurance in Male Soccer Players during the Adolescent Growth Spurt: A Longitudinal Study. Football Science 11, 39-47, 2014
4.成長期の食事
①成長期にはどれくらい食べたらよいか(目標栄養量)
必要なエネルギー量とは
成長期のアスリートにどれくらいのエネルギー量が必要か(どれだけ食べたらよいか)というのは、年齢や性別、成長による増加分、体格(体重もしくは除脂肪量*)、ポジション、練習内容などによって異なります。厚生労働省が策定した「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、日本人の基準体位をもとに、身体活動レベル別の推定エネルギー必要量が示されており、成長期(1~17歳)では成長に必要なエネルギー量を加味した値になっています【表1】。表1をみると、身体活動レベル(活動量)によってエネルギー量が異なることがわかります。したがって、練習のある日、練習量が多い日、または練習のない日、けがの時などでは摂取するエネルギー量を調整する必要があります。
*体重=体脂肪量+除脂肪量(筋肉、骨、内臓など)

表1 1日の推定エネルギー必要量(kcal/日)
エネルギー収支バランスの確認
「戦うからだをつくるための基本の食事」の項で述べているように、基本的にエネルギーの「消費量」と「摂取量」が見合っているかは「体重の変化」でわかります。 一般的に、健康な成人では体重が変化しなければエネルギー消費量と等量のエネルギーを摂取していると考えられますが、成長期で身長が伸びているのであれば体重の変化だけではエネルギーバランスを正しく評価することができません。毎日の体重の測定と、定期的な身長の測定も行い、エネルギーの収支バランスを確認しましょう。
必要な栄養素量とは
アスリートは、エネルギーだけではなく栄養素を過不足なく食事からとることが大切です。必要なエネルギーと栄養素をバランスよくとるために、毎食アスリートの「基本的な食事の形」(2.食事の重要性と水分補給②戦うからだをつくるための基本の食事 図1)をそろえることが理想的です。
表2-1:1日の目標栄養素摂取量(男性)

表2-2:1日の目標栄養素摂取量(女性)

■参考文献
- 1)厚生労働省:「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書
②骨の成長に必要な食事
骨の成長
骨は、学童期から思春期にかけて形態学的成長とともに量的増加をしていきます。20歳前後で最大骨量を迎えるため、思春期の骨形成時に十分なカルシウム摂取、適切な運動負荷が大切になります。女子においては、女性ホルモン(エストロゲン)が骨代謝にも関係しているので、ある程度正常な周期の月経を維持することが重要になります。
骨の健康に必要な栄養素
10代において高い骨密度を獲得するためには食習慣が重要になります。
骨の健康に必要な栄養素は、骨のミネラル成分の重要な構成栄養素であるカルシウムです。またカルシウムの吸収を助け、骨や歯を丈夫にするビタミンD、骨の形成を助けるビタミンKも必要になります。このように骨の健康にかかわる栄養素は多く、カルシウムのみが重要というわけではないため、栄養素全体の摂取量を考えることが重要になります。また、特に避けるべき食品はありませんが、リン、食塩、カフェインの過剰摂取はカルシウムの吸収を阻害することが考えられるため、控えるように心がけましょう。
カルシウムやその他の栄養素の必要量
健康な人を対象に策定されている「日本人の食事摂取基準(2025 年版)」ではカルシウムやその他の栄養素の推奨量を「1.成長期にはどれくらい食べたらよいか【表2-1,2-2】」のように示しています。
カルシウムをみると、男女とも人生の中で12~14歳の年代がもっとも多くのカルシウム摂取が必要とされます。
カルシウム摂取量を増やすには
カルシウムは、牛乳・乳製品、小魚類、大豆製品、一部の緑黄色野菜に多く含まれています。
【表1】の食品例を参考に、日常の食事で摂取量を増やしていきましょう。
ビタミンDとビタミンK摂取量を増やすには
ビタミンDは魚類(サケ,ウナギ,サンマ、きのこ類など)に、ビタミンKは緑の葉の野菜、納豆に多く含まれています。ビタミンDが不足しないように、肉類ばかりではなく魚類も積極的に食べるようにしましょう。

■参考文献
- 1)骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会編集.骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2025年版
③月経状況に応じた食事面の配慮
女性アスリートの三主徴と利用可能エネルギー不足
「④相対的エネルギー不足に注意を!」で示したとおり、女性アスリートの三主徴において、「摂食障害の有無によらない利用可能エネルギー不足」が視床下部性無月経や骨粗鬆症の原因になります。
正常な月経のためには、「エネルギー消費量に見合ったエネルギー量」を毎日の食事から摂取することが重要となります。
利用可能エネルギー不足の改善法
アメリカスポーツ医学会では,女性アスリートが利用可能エネルギー不足に至った原因を見極めたうえで改善方法を考えるとしています。利用可能エネルギー不足改善のための治療目標として下記にアメリカスポーツ医学会と国際オリンピック委員会の指針を紹介します。
《アメリカスポーツ医学会の指針》
①最近減少した体重をもとに戻す
②正常月経が保てる体重に戻す
③成人は BMI 18.5kg/m2 以上,思春期は標準体重の 90%以上にする
④エネルギー摂取量や体重は下記を目指す
・エネルギー摂取量は最低2,000kcal/日とする
・エネルギー必要量よりもエネルギー摂取量を20~30%増やす
・7~10日ごとに0.5kg以上体重を増加させる
ただし、トレーニングによるエネルギー消費量によってはさらに増やす
⑤利用可能エネルギーを45kcal/kg 除脂肪量/日以上にする
《国際オリンピック委員会の指針》
①最近のエネルギー摂取量に300~600kcal/日を加える
②トレーニング量を適正にする
③トレーニングや食事に関するストレスへの対処を考える
利用可能エネルギー不足改善の食事
利用可能エネルギー不足による無月経の改善のためには、「アスリートの基本的な食事の形」をそろえることを前提に、食事量を増やすかトレーニング量を少なくして利用可能エネルギー不足を改善していくことが基本となります。
エネルギー摂取量を増やすには、エネルギー源となる「炭水化物(糖質)、脂質、たんぱく質」を適正に摂取する必要があります。特にトレーニング量が多い時には炭水化物(糖質)が不足しないようにしっかり食べましょう【表1】。

④貧血予防の食事
アスリートの貧血
貧血とは、からだの各組織に酸素を運搬するヘモグロビン量が減少した状態で、症状は息切れ、動悸、めまい、頭痛、疲労感などがみられます。したがって、ヘモグロビンの減少は運動能力の低下につながるため、アスリートは貧血の予防が重要になります。
女性アスリートの貧血の原因は、月経血からの鉄の損失、運動や発汗による鉄の損失、血液を造る材料(たんぱく質、鉄、ビタミン類)の不足などが考えられます。
「貧血=ヘモグロビンの減少」の前段階として、貯蔵鉄(フェリチン)の減少と血清鉄の減少があります。運動能力が低下する前に危険信号を把握できるので、定期的に血液検査を受けましょう。
貧血予防の食事
長期的な減量や食欲低下などでエネルギー摂取量の不足が続くと、血液を造る材料であるたんぱく質、鉄、ビタミン類も不足すると考えられます。したがって、貧血を予防・改善するためには、①活動量に見合った食事量にすること、②鉄の多く含まれる食品と各グループの食品を組み合わせて食べることが重要です。
貧血および鉄欠乏予防の食事のポイント

※ビタミンB6、ビタミンB12:ヘモグロビンの合成を助ける働きがある
鉄摂取量を増やすには
鉄は、レバー、赤身の牛肉と魚、一部の緑黄色野菜、あさりやしじみなどに多く含まれています。日常の食事で摂取量を増やしていきましょう。また、鉄は吸収率が低い栄養素の一つですが、ビタミンCが鉄の吸収を高めるため、鉄の多い食品とビタミンCの多い緑黄色野菜や果物を一緒に組み合わせてとりましょう。
⑤成長期の食事の課題
思春期・成長期は自立の時期です。選手自らが正しい食事の選択ができるようになることが必要です。そのためには選手自身が正しい知識をもち、実践できる力を身に付け、その食生活が習慣化されることが必要です。
具体的には、以下の「8か条」を実践するようにしましょう。
1. 食事・睡眠・休養がまず大事
2. 朝・昼・夕の3食の食事をしっかり食べる
3. 好き嫌いをなくし、何でもたべよう
4. 間食ではなく補食を
5. お菓子やジュースをとりすぎない
6. ごはんをしっかりたべよう、ごはんは体を動かすエネルギーのもと
7. サプリメントに頼らない、まず食事
8. 自分の体調をふりかえる
5.SAMURAI BLUE(日本代表)の補食について
①食品から栄養素を摂取することを基本とする
現在、SAMURAI BLUE(日本代表)では、日本サッカー協会医学委員会が2017年9月19日に示した<アンチ・ドーピング活動に関する栄養補助食品(サプリメント)の摂取についての方針>に則って代表活動を行っています。
代表活動中は、サプリメントに頼らず、食品から栄養素を摂取することを基本としています。
その目的は、①ドーピングリスクを避けること、②適切なリカバリーを促すことの二点です。
栄養補給の基本はあくまで「食事」であり、3食をしっかり摂ることが最も重要です。
ただし、活動環境や時間帯によっては十分な食事が難しい場面もあります。
そのような場合には、ゼリーや飲料など食品に分類される補食を補助的に活用することを認めます。
これらは「サプリメント」ではなく、消化吸収の良い食品の一形態として位置づけています。
②ドーピングコントロールと安全性
運動直後のリカバリーを目的に、サプリメントを使用する利点は確かにありますが、どのような製品であっても「絶対に安全なサプリメントは存在しない」ということを常に意識する必要があります。
民間の第三者機関で安全認証を受けた製品であっても、製造過程でドーピング禁止物質が混入する可能性を完全に否定することはできません。
そのため代表チームでは、安全性が確保された食品を用いて、同等の栄養素を摂取できる体制を整えています。
使用する際は、原材料表示・製造元・流通経路などを必ず確認し、不明確な製品の使用は避けることを徹底しています。
③適切なリカバリー
練習後や試合後の補食は、高い運動強度によって受けたダメージからの早期回復を目的としています。
糖質を主体に、たんぱく質や水分を効率的に補給できる食品を多様に準備し、選手の嗜好や活動環境に応じて選択できるようにしています。
提供している主な食品例:
・おにぎり、干し芋、羊羹、カステラ、きなこ入り甘酒、飲むヨーグルト、オレンジジュース、経口補水液ゼリーなど
これらは、国内外どこでも入手可能で衛生的に扱えることを重視して選定しています。

④補食の考え方
補食とは、朝・昼・夕の3食で不足するエネルギーや栄養素を補うものであり、練習前後・試合後の限られた時間の中でリカバリーを支援する手段です。
運動後は筋グリコーゲンを速やかに回復させるため、炭水化物とたんぱく質を適切なタイミングで摂取することが重要です。
特にトレーニング終了後2時間以内を目安に、糖質1〜1.2g/kg体重/時間の補給が推奨されます。
⑤最後に
補食はあくまで「3食を基本」としたうえでの補助的な手段であることを忘れてはなりません。
食品からの摂取を基本にしつつ、どうしても必要な場合のみ、信頼できる製品を慎重に使用します。
その際には、「絶対に安全なサプリメントは存在しない」という意識を常に持ち、ドーピングリスクとリカバリー効果の両面を理解したうえで、正しく判断・活用していくことが求められます。
執筆者
JFA医学委員会
栄養サポート部会
部会長 鈴木朱美
副部会長 前田弘
部会員 石井美子
部会員 亀井明子
部会員 菅野淳
部会員 菊島良介
部会員 品川明穂
部会員 土肥美智子
部会員 松永怜



