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[特集]審判員のマインド サッカーはみんなでつくるもの 黛俊行審判委員長インタビュー 前編

2021年06月07日

[特集]審判員のマインド サッカーはみんなでつくるもの 黛俊行審判委員長インタビュー 前編

サッカーの試合を成り立たせるために審判員はなくてはならない存在だ。審判員はより良い試合環境をつくるため、そして日本サッカーをより強く魅力的なものにするために、選手や指導者と同様、個々にレベルアップに励み、試合に臨んでいる。
今回は、2021シーズンの日本サッカー協会(JFA)審判委員会の指針、これからの審判員の在り方を黛俊行JFA審判委員長に聞いた。

○オンライン取材日:2021年3月12日
※この記事は、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2021年4月号より転載しています。

優れた審判員にはそれ相応の舞台を

――今年、審判委員会として力を入れていきたいと思っていることを教えてください。

 いくつかありますが、まずは、VAR(ビデオアシスタントレフェリー)をスムーズに導入することですね。本来でしたら、昨年のうちに経験値を積み、今年はそこで出た課題を生かしてブラッシュアップしたいところでしたが、昨年はコロナ禍の影響で、Jリーグ再開以降は見送りになってしまいました。今年はただ単に導入するだけではなくて、メディアの力も借りて、VARの仕組みを理解していただくための工夫を重ねていきたい、それが大きな目標の一つです。
次に、日本人の国際審判員をFIFA(国際サッカー連盟)やAFC(アジアサッカー連盟)の主催大会に送り出すことです。われわれには、世界トップレベルのレフェリーを養成するという命題があります。今年はAFCチャンピオンズリーグなどで日本の審判員の優秀さをアピールし、最終的には来年のFIFAワールドカップ、再来年のFIFA女子ワールドカップに審判員を派遣することを大きな使命と考えてます。

――国内の事業についてはいかがですか。

 現在、JFAが進めている大きな取り組みの中に、「審判員の資格制度の見直し」を盛り込もうと考えています。現在、審判員には1級から4級の資格制度があるのですが、その制度に準ずる審判員の割り当てや昇級と降級の考え方が、現状の環境にそぐわなくなってきています。試合の強度、カテゴリーによって審判員として求められる能力は異なりますし、級によって求められる能力が変わるのではなく、試合によって変わると考えられます。
例えば、現在の規定上は1級審判員がJFA主催の全国大会を担当することになっていますが、2級審判員のレベルが上がったことで、現在は2級審判員が各種全国大会で活躍するケースが増えました。審判員としての水準が上がっているのは素晴らしいことですし、優れた審判員には積極的にレベルの高い舞台を用意して、さらに力をつけていってほしい。そういう期待も込めて、資格制度を見直したいと考えています。

――指導者の資格制度も見直す構えですか。

 現在の審判指導者の資格登録は、審判インストラクター資格で3級から1級までの登録がされています。審判指導者に求められる知識やスキル、それを生かした業務は大きく二つあります。一つは、審判員にテクニカルな部分を指導する審判インストラクター、二つ目は、試合中の審判員を評価するアセッサーです。J1で笛を吹いていた元審判員が、アセッサーとしてJ1を担当する審判員を評価する、といった具合に、基本的にはアセッサーは自身が経験したカテゴリーの審判員を評価します。しかし、J2を担当した審判員の中にもアセスメント能力の高い人材はいらっしゃいますので、そういう人にはJ1のアセッサーを担当していただいています。ただ、基本的には自分が現役のときに経験したカテゴリーでないと、経験則やスキルを含めて他者の評価はしにくい。ましてや、これからはVARが入ってきますので、VARを経験したことがない人が、現役のVARを評価できるのかという問題も生じます。それぞれが適切な場所で適切な業務を全うできるような資格制度にするためにアセッサー資格での登録にしていく必要があります。


黛俊行審判委員長

横の連携を取って国際審判員を強化

――今年VARを導入して、現時点でどのような手応えを得ていますか。

 おおむね良いスタートが切れたと思っています。VARが介入しても、審判員の主観が伴う判断についてはそれぞれの見解がありますので、意見があることは承知しています。しかし、審判員にはフィールド上での判断が重要であることを求めています。その意味ではVARが介入しようがしまいが、自信を持って判断を下し、落ち着いて試合をコントロールしていると思います。
もちろん、ミスもありますし、改善の余地もあります。昨年11月から今年2月にかけて研修会を実施し、VAR導入の準備を進めることができました。しかし、それぞれ短期間でしたので十分な準備ができたとは言えません。今後も研修を重ね、VARへの理解をさらに深めていきます。

――研修会の話が出ました。今シーズン開幕前、オンラインで各カテゴリーの審判員と審判インストラクターを集めて研修会を行いました。

 昨年、審判インストラクターの皆さんが日本フットボールリーグ(JFL)やなでしこリーグの試合を現地でアセスメントし、審判員の指導や評価をしてくださいました。厳しい状況の中、一人の感染者も出さずに乗り切れたのは、危機管理能力の高い真面目な人たちが真摯に向き合ってくださった結果と感謝しています。
審判インストラクターやアセッサーの皆さんはモチベーションが高く、若い審判員を育成、強化するには試合全体の雰囲気も含め、俯瞰的に試合を見た上で、審判員を評価、指導していくことが重要だというご意見を多くいただきました。JRD(Jリーグレフェリーデベロプメント)でも昨年から感じていたことでしたので、今年はJ3のアセッサーを現地派遣に戻すことにいたしました。現地アセッサーの方々には快く受け入れていただき、若い審判員の成長につなげられるのではないかと期待しております。

――審判員の精神面のサポートはどのように行う予定ですか。

 審判員は非常にストレスのたまる仕事です。それに加えて今年はVARの再導入、引き続きコロナ禍への対応などでさまざまな負担がかかり、メンタル的に追い込まれかねない状況にあると考えます。そうしたリスクを取り除くためのケアは不可欠です。それと同時に、審判インストラクターやアセッサーに自分の心の内をさらけ出すことを審判員は弱音を吐くことと感じてしまう傾向にあるので、極めて難しい。心のケアを第三者にお願いして、サポートする仕組みをつくっていきたいと思っています。ストレスを溜め込んで健康を害することのないように万全の環境を整えること。それが審判員のパフォーマンスに大きく影響するはずです。


今シーズンからJ1の全試合でVARを導入している。新しいテクノロジーの紹介について、
黛審判委員長は「おおむね良いスタートが切れたと思う」と話す

後編はこちら

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