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ザッケローニSAMURAI BLUE監督手記IL MIO GIAPPONE “私の日本”vol.37「本番を前にして」

2014年05月23日

ザッケローニSAMURAI BLUE監督手記IL MIO GIAPPONE “私の日本”vol.37「本番を前にして」

5月12日、私はブラジルのワールドカップに連れていく23人の選手を発表しました。翌日には7人の予備登録メンバーを公表し、FIFA(国際サッカー連盟)に提出する30人のリストとして提出しました。23人の最終メンバーを決める過程では本当に苦しい思いをしました。前にも述べましたが、日本にはワールドカップを戦うにふさわしい力量の持ち主が確実に23人以上いるからです。その中から23人を厳選しなければならない。本当につらい作業でした。割合として海外組12人、国内組11人という比率になりましたが、そこはまったく意識しませんでした。当たり前のことですが、海外でプレーしているからといってその選手が素晴らしい証しにはなりません。30人のリストで比べれば国内組が計17人と数で逆転するようにJリーグにもたくさんの素晴らしい選手がいます。要するに私は、海外組や国内組といった分け隔てを頭に置くことなく、高温多湿な気候、長時間のフライトを伴う移動といった条件を念頭に置きながら、ひたすらシンプルに「ブラジルで日本がやろうとするサッカーに適性があるかどうか」を基準に選手を選んだのです。その結果としてこういう割合になったに過ぎません。選ばれた選手は能力が高く、選ばれなかった選手は能力が低かった、というような単純な話ではないことも、あらためて強調しておきたいと思います。

それでは、ブラジルで日本が実現を目指すサッカーとはどんなものでしょうか。今回のワールドカップでは常に能動的に自分たちから仕掛けるサッカーをさせたいと思っています。後ろに構えて、ただひたすら相手のミスを待つようなことをさせるつもりはありません。「勇気とバランス」は就任以来、私がずっと強調し続けてきたことです。ブラジルでも攻撃も守備もしっかりやる、アグレッシブであると同時にバランス感覚にあふれたゲームをさせたいと思っています。具体例を挙げるなら、昨夏のコンフェデレーションズカップのイタリア戦のような試合でしょうか。最終的に3―4で負けてしまいましたが、日本が本当に何をしたいのか、その一端を披露する、におわせることはできたと思っています。コンフェデレーションズカップはあくまでもリハーサルでしたが、こちらがぐっとアクセルを踏み込めば、あのくらいのことはできるよ、というのを周りに示すことはできたと思っています。イタリアに負けたのは、勝てる展開に持ち込めていただけに残念でしたが、落胆の度合いは私には小さいものでした。それは開幕戦のブラジル戦と違って勝つためにゲームに突入し、勝つためにプレーしたからです。運が味方してシュートがクロスバーやポストに阻まれることがなければ、勝ったのは我々だったかもしれません。結局、勝負の世界では一つのミスやエピソードで評価ががらりと変わってしまう。もし、あの試合で我々が勝っていたら、日本サッカーに対する世界の評価はアグレッシブな内容とともにもっと劇的に変わっていたでしょう。そういう意味でも、この夏のブラジルでは中身に結果を伴わせたいと思っています。そのために、クロスゲームを勝ちに持ち込める微調整を細部にこだわってやっていくつもりでいます。幸い、今の日本代表は内容を濃くしながら結果を出すこともできるチームです。個の能力、才能に欠ける部分や場面はありますが、チーム全体で攻め、守ることができれば、日本サッカーの面目を一新できると信じています。

日本代表監督に就任してからの4年間を振り返ると、苦しい時期もありました。「いつ」「どの試合で」と具体的には言いませんが、そういう時期には共通点がありました。チームの勝利に対する欲求が、それ以前より下回った時でした。何となく現状に満足してしまい、流してしまうような状況になった時です。そういう時に試合をすると、どんなことが起きてしまうのか。選手の中に温度差のようなものが生じ、これまでどおりのプレー、これまでどおりのトライをしたい者と、そうでない者とで足並みがそろわなくなり、間延びしてあちらこちらにスペースができる現象が起きてしまいます。これでは勝つのは難しい。日本のように全員でコンパクトにまとまって戦うことを信条とし、身上でもあるチームはなおさらです。ワールドカップ本番では、そういうことは絶対に起きないよう取り計らうつもりです。断っておきますが、私は何でもかんでも攻めればいい、前のめりになって戦え、と言いたいわけではありません。展開次第では相手に押されっぱなしという時間帯もサッカーにはあることです。引くべき時は引く。これはサッカーの試合なら当たり前です。私が強調したいのは、ここは引く時と判断したら、それこそ全員がペナルティーボックスの中に入って守りを固めるような意思の統一が必要だということです。攻めも守りも意思の統一にズレがあっては、相手が格上、格下に関係なく、勝利は遠のいてしまう。それがサッカーというものです。試合に勝とうとしたら、足、つまり技術が大切なのはいうまでもありません。同時に頭の中が常にクリアな状態であることも同じくらい大事です。足も頭も両方が良い状態でないと良いサッカーはできません。卓越した技術、戦術、健康なメンタルも伴って初めてクオリティーの高い、インテンシティーあふれるサッカーが可能になります。そうした要素のどれか一つでも欠けたら、我々が目指すサッカーはできなくなるでしょう。

今回選んだメンバーには、そういう意味で全幅の信頼を寄せています。技術も戦術的理解力も優れた選手たちです。メンバー発表の際に示した私の自信の大きさに驚いた方もいらっしゃるようですが、私は、根拠のない自信を元に大言壮語するタイプの人間ではありません。私の自信はこの4年の間、選手が私に示してくれたプレー、能力の高さに起因しています。これから先、本番までの間により精度を高める、チームとしての連係をより密にしてスピードを高める作業は残っていますが、私が選んだ選手たちならきっと望むレベルに達すると踏んでいます。選手には、代表チームに入れたことを誇りに思い、23人に選ばれたことをゴールとするのではなく、ここからがスタートだという強い気持ちで本番に向けてモチベーションを高めていってほしいと思います。ただ、意外なことを言うと思われるかもしれませんが、私は選手に代表としての高揚感や誇り、自負と同時に、サッカーを楽しむ気持ちをピッチで表現してほしいと願ってもいます。子どものころの気持ちに戻ってピッチで輝いてほしい。それこそ、童心に帰って、子どものように、我を忘れるような境地で試合に入り込んでほしいと。4年に一度の、国と国の威信を懸けた戦いに何を呑気なことを言っているんだ、という声が聞こえてきそうですね。ファンやサポーター、国民の大きな期待に応えることと童心に帰ることは両立しないと思われますか? 私は必ずしもそうは思いません。むしろ、そうした研ぎ澄まされながら、どこか遊び心を感じさせるような境地にある時、選手は大きな仕事ができると思っています。余分なプレッシャーは監督の私がほどくつもりでいます。選手にとってワールドカップのピッチに立つことは子どものころからの夢。その夢が実現するのですから、ひるむことも、恐れることもなく、その瞬間、瞬間を楽しみながら過ごしてほしいと真剣に思っています。ピッチで心ゆくまで躍動してほしいと。

最後にサポーターの皆さんにもメッセージを。これまでチームに寄せてくれた声援と信頼に心からの謝意を述べたいと思います。真のサポーター像というものがあるとしたら、いい時も悪い時も変わらずに温かい声援を送り続けてくれる日本のサポーターのことだと私は思います。この4年間を振り返ると、声援の度合いはチームの成長とともにどんどん増していった気がします。自分にとっても大きな励みになりましたし、おかげで仕事を円滑に進めることができました。チームを育てていく上で、皆さんがつくり出してくれた温かい雰囲気や熱気はすごくポジティブなものでした。これから日本代表は4年にわたる物語の最終章に入っていきます。物語のクライマックスはここからです。どんなエンディングが待っているのか、それは「神のみぞ知る」でしょう。しかし、何が起ころうとも、最後の最後まで、チームを、選手を信じて、これまでと同じく日本から温かい声援を送り続けていただければと思います。皆さんの声はブラジルにいる我々の背中をきっと押してくれる。そう信じています。

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