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セットプレーコーチとフィジオセラピスト ~技術委員長 反町康治「サッカーを語ろう」第17回~
2022年01月26日
デルタ株の脅威は去ったのかと思ったら、次にオミクロン株が現れて、新型コロナウイルスの新規感染者が再び急増している。そんな厳しい状況で1月27日に中国、2月1日にサウジアラビアとのFIFAワールドカップアジア最終予選を埼玉スタジアム2002で行うことを認めてくれた日本政府や埼玉県の皆様には感謝しかない。感染対策に万全を期して、その上で勝利をお届けすることが我々の責務だと思っている。
さて、日本代表のU-21、U-19、U-16という三つのカテゴリーの〝組閣〟が先ごろ完了した。また、2022年の今年から代表チームを横断して活動する新たなポストを設けたので、今回はそれらについて触れてみたい。
2024年のパリオリンピックを目指すU-21日本代表(出場資格2001年1月1日以降生まれ)の指揮官については、昨年末のJFA理事会で大岩剛監督の選任を承認していただいた。年が明けて1月13日の技術委員会で大岩体制を支えるコーチングスタッフも定まった。羽田憲司コーチ、浜野征哉GKコーチ、矢野由治フィジカルコーチという面々である。大岩に監督をお願いしたのは、いろいろな条件を検討する中で日本人指導者に託すのが今は最適と判断したからである。外国人指導者も選考対象になくはなかったが、新型コロナ対策として厳しい入国制限が敷かれている今、新しく外国から指導者を招き入れるのはハードルがかなり高い。ただし、一番の決め手は、やはり大岩監督の力量を買ってのことである。我々が目指すところの「ジャパンズウェイ」を強く発信するには、日本(選手)のストロングポイントもウイークポイントもしっかり把握している人物が望ましい。その点、大岩監督はJリーグの鹿島時代に石井正忠監督の下でコーチとして若手を指導し、後にトップチームを率いてAFCチャンピオンズリーグの頂点も極めた。移動を伴うアジアの戦いの厳しさも熟知している。サッカーに対する真摯な姿勢、チーム内での立ち振る舞い、指導の厳格さ、勝負に懸ける意志の強さも申し分ない。JFAの仕事で指導者養成事業にも携わり、情報を収集していくために必要な指導者同士のネットワークもある。昨年何回かU-18日本代表が活動した時に暫定的に監督の仕事をしてもらったが、その時の評価も非常に高かった。
東京オリンピックが終わるまでは、SAMURAI BLUEの森保一監督が横内昭展コーチの協力を得ながら、オリンピック代表の監督も兼ねる「1チーム2カテゴリー」でやってきた。今回はパリオリンピックを目指すチームとSAMURAI BLUEを完全にセパレートした。理由は簡単で、パリオリンピックはホスト国としての予選免除の特権はなく、パリオリンピック予選を兼ねたAFC U23アジアカップの戦いを予選から本大会まで一つ一つクリアしていかなければならない。活動のベースとなるインターナショナルマッチデー(IMD)ではSAMURAI BLUEとU-21日本代表の活動が日程的に重なることも多い。U-21日本代表の船出に予定する3月21日から29日にかけての海外遠征にしても、同時期にSAMURAI BLULEはオーストラリア、ベトナムとFIFAワールドカップアジア最終予選を戦う。それはU-21日本代表がウズベキスタンでAFC U23アジアカップ ウズベキスタン2022を戦う5月から6月のIMDも同じことだ。
2023年にインドネシアで行われるFIFA U-20ワールドカップを目指すU-19日本代表(2003年1月1日以降生まれの選手)は冨樫剛一監督の就任が既に発表されていたが、こちらのスタッフも船越優蔵コーチ、川口能活GKコーチ、菅野淳フィジカルコーチで決まった。U-19日本代表は今年9月にAFC U20アジアカップ 2023の予選が始まる。来年初めにAFC U20アジアカップ 2023決勝大会、FIFA U-20ワールドカップは6月に予定されている。この年代では、外国に居住する日本国籍を有した二重国籍の選手に逸材がいれば選考対象となってくる。参考として、どの国でどんな選手が活動しているかをJFAの欧州拠点にいるスタッフに調べてもらい、プレー映像と合わせて冨樫監督にも手渡してある。外国なら二重国籍を持った選手の奪い合いは日常茶飯事。日本もそんな戦いの中に入っていくような時代になった。
U-16日本代表(2006年1月1日以降生まれ)は、来年10月にペルーで開催されるFIFA U-17ワールドカップ出場を目指す。このカテゴリーの戦いに豊富な経験を持つ森山佳郎監督を今回は廣山望コーチ、高橋範夫GKコーチ、村岡誠フィジカルコーチが支える。9月から10月にかけて行われるAFC U17アジアカップ 2023予選が最初の関門になる。U-20とU-17のワールドカップについては真剣に優勝を狙っている。そのための準備を怠りなく日数をかけてやっていくつもりでいる。
U-19日本代表やU-16日本代表では、ロールモデルコーチとして内田篤人、中村憲剛には引き続き活動してもらうのと同時に、昨年をもって現役を引退表明した阿部勇樹にも依頼をして手伝ってもらえる様に調整している段階である。また、U-21日本代表、U-19日本代表、U-16日本代表以外のアンダーカテゴリーもそれぞれ年間4回くらいの活動期間を設けて刺激を与えていく。U-18日本代表なら静岡のSBSカップ国際ユースサッカー(8月)、U-17日本代表なら新潟の国際ユースサッカー(9月)など、日本国内で大会に参加する予定でいる。この頃にはコロナ禍が沈静化し、海外の代表チームを呼べるようになっていることを切に願う。この年代についてはコロナ禍でも昨年から歩みを止めずにやってきた。今年は徐々にその速度を早めていこうと思う。
アンダーカテゴリーの強化には飛び級の問題が常につきまとうけれど、既に各カテゴリーの監督といい話し合いができている。例えば、久保建英(RCDマジョルカ)みたいなパリオリンピックでもSAMURAI BLUEでも選ばれる可能性のある選手は、基本的に上のカテゴリーの代表活動が優先される。しかし、その選手の成長を大原則としたとき、SAMURAI BLUEではベンチ外や出場しても短時間で終わる可能性が高いけれど、アンダーカテゴリーの大会では主力としてフル出場が見込まれ、戦う相手のグレードも高いということであれば、その場合は下のカテゴリーの大会を優先させることもありえるということ。そこはもう、お互いの監督同士で腹を割って話し合い、我々も議論に加わってコンセンサスを取れるようにしていく。
各カテゴリーの代表スタッフを決めるのと平行して、今年から地味だけれど技術委員会テクニカルハウスに新しいポストを設けた。昨年まで栃木FCでヘッドコーチを務めていた菅原大介を初の「セットプレーコーチ」として採用したのである。菅原は私が北京オリンピックの監督だった時のテクニカルスタッフの一人で、能力は熟知している。オーストラリアやメキシコは既に同種のコーチがいると聞いている。セットプレー対策はこれまで分析担当が仕事の一部として受け持ってきたが、処理すべきデータがあまりにも膨大になり、専門職が必要ということで今回の決断に至った。菅原新コーチは代表と名のつくチームすべてのセットプレーに関わることになる。ご存じのとおり、サッカーの得点のほぼ30%はセットプレーから生まれている。セットプレーからの得点を増やすと同時に失点を減らすことは勝利に直結するわけで、得失点の割合からすると、10日間の練習があったら3日間はセットプレーのセッションに割いてもいいくらいである。しかし短期間に集合解散を繰り返す代表チームの場合、その練習時間の確保が難しい。いかに短期間に効率良く攻守両面でセットプレーの肝をチームに落とし込めるか。その重責を担うのが菅原コーチというわけである。あまり詳しく語ることはできないが、とにかく映像等のデータを収集して対戦相手のセットプレーを丸裸にする。分析の対象は自チームにも及ぶ。相手の弱点を徹底して突く一方で、こちらの死角は可能な限り消していく。分析に基づいて立てた策は、映像化して素早く選手の頭にインプットできるようにする。基本的にはデスクワークが中心だ。
昨年の欧州選手権のリポートに目を通すと、ゴールキックからの攻撃と守備がトピックとして割かれていた。ゴールキックからの守備についてなら、マンマークで張り付いて相手に時間も空間も与えずに、いかに高い位置でボールを奪うか。逆に相手がどれだけハイプレスをかけてきても、スペインは絶対にロングキックで逃げない。相手のハイプレスをはがす力があると、パスをつないで一点突破すれば一気にハーフウェーラインを越えられるからだ。一口にセットプレーといってもCK、FKだけでなく、ゴールキックもスローインもある。対象は広く、奥は深い。リバプールはスローインだけで12種類のオプションがあるという。ルールの変更にともない、今後も日進月歩で研究が進む分野だろう。セットプレーをオプションとしてどう使うかは監督次第なところもある。セットプレーの練習をするくらいなら、オープンプレーの練習をした方がいい、という考えの監督もいるだろう。そういうことも理解した上で、絶対に必要な「素地」になるものを菅原コーチにはつくってもらいたい。
地味なところでいうと、今回の最終予選からフィジオセラピスト(PT)と呼ばれる理学療法士も代表につけることになった。PTは、ケガをして戦列から離れた選手が治療を受けた後、日常生活を送れる状態から実際に試合で戦える身体に戻るまでの橋渡しをする重要な役割。そもそも代表チームはケガ人を招集しないから、本来は必要ない存在なのだが、大きな大会になると、例えば筋肉系のトラブルで大会の序盤に戦力になれなかった選手が懸命なケアの甲斐あって準決勝や決勝に間に合いました、というようなケースがある。そういう調整・回復のプロセスにPTは大きな役割を果たす。新しく採用したPTの中條智志は昨季まで川崎フロンターレで働いていた。昨年いっぱいでフロンターレを辞めたと聞いて、フロンターレの了解を得て今回代表に招いた。彼はアスレチックトレーナーに加え、鍼灸(しんきゅう)の資格も持っているから、PTとして出番がない時はトレーナーとして働くこともできる。これまでSAMURAI BLUEは前田弘チーフアスレチックトレーナー、菊島良介トレーナーとサポートの2人の4人体制で選手の身体をケアしてきた。それを5人体制で回せるようにした。選手の要望を聞いた上でのことでもある。マッサージなどの身体のケアは通常、夕食後に行うが、25、26人の選手を4人でケアするとなると、その混み具合を見て「僕はいいです」と遠慮する選手も出てくる。トレーナーを増やせば、それだけ待ち時間を削れ、選手は早く就寝できるようになる。
セットプレーコーチの新設もPTの採用も昨年来の反省を踏まえた面がある。現場にすごく必要なので、予算的に厳しい時に協会に無理を言って実現してもらった。ケガをした選手を1日でも、いや1秒でも早く戦列に戻すことができるかどうかでチームの命運が決まることがある。PTもセットプレーコーチも地味でも必要な仕事。必ずや代表チームの手助けになると確信している。
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