JFA.jp

JFA.jp

EN
ホーム > JFA > 「サッカーを語ろう」技術委員長 反町康治 > 最新ニュース一覧 > FAコーチ ~技術委員長 反町康治「サッカーを語ろう」第18回~

ニュース

FAコーチ ~技術委員長 反町康治「サッカーを語ろう」第18回~

2022年02月28日

FAコーチ ~技術委員長 反町康治「サッカーを語ろう」第18回~

私の日本サッカー協会(JFA)での肩書は「技術委員長」であるが、全国の47都道府県のサッカー協会(47FA)にもこの仕事は存在する。彼らとJFAコーチ(旧JFAナショナルトレセンコーチ)らが一堂に会する「全国技術委員長会議」という集いも毎年開催されている。昨年はコロナ禍とあってオンラインで2月末に行ったが、今年は何とか実際に集まりたいと思っていた。千葉・幕張に完成した「高円宮記念JFA夢フィールド」をまだ訪れたことがない47FAの技術委員長もいるし、同所に設けたテクニカルセンターの様子も見てもらいたかった。しかし、事前にアンケートを取ると、人が多く集まって密になりそうな場所に行くことを禁じられている方もいて、最終的には昨年同様オンラインの形で今年も実施したのだった。

オンラインでも午前9時から午後5時までプログラムはびっしりで中身の詰まった議論はできたと思っている。私もスピーカーを務めた。その際、私がお願いしたのはJFAから47FAに向けた情報発信はこれまでどおりだけれど、今後は47FAからもJFAに対して積極的に情報発信してほしいということだった。実際、会議では地域からの興味深いプレゼンテーションが幾つもあった。例えば、北信越ブロックのプリンスリーグはこれまで1部制で、その下はすぐ県リーグだった。そうするとプリンスの参加チームが抜けた各県のリーグは強豪校とそれ以外の差がつきすぎて大差のゲームが増える現象が起きた。これでは強化にならないということで、県の垣根を越えてプリンスリーグ2部を来年度から作るということに決定した。インテンシティーの高い拮抗したゲームがこの2部で増えることは間違いないだろう。常にプレーヤーズ・ファースト目線で北信越全体のレベルアップを考えて打ち出したことで、素晴らしいトライだと感じた。

JFAは今年春ごろ、我々が追い求める理想の姿を『Japan’s Way』という指針にまとめて発表する予定でいる。日本人の特性である勤勉さや献身性、リスペクトの精神を盛り込みつつ、あるべき選手像や目指すべき指導者像を明確にしたもの。根本には日本ならではのサッカーを追求し、この国を笑顔であふれるようにしたいという願いがある。その『Japan’s Way』にしても、JFAが示すのは、あくまでも大方針のようなもの。実際に選手をあずかって日々指導する現場は、地域によって環境も条件も異なる。そういう実情を無視して一律に「これが我々のやり方だ」などと押しつける気は毛頭ない。テレビを見ていると県民性の違いを伝えることで成り立っている番組がある。狭い島国といっても、例えば北海道と沖縄では気象条件を含めてサッカーをする環境は全然違うのだから、JFAが伝えるものを、いい意味で地域ごとにカスタマイズしてくれても何の問題もないと考えている。むしろ、そういう挑戦はJFAに刺激になるし、他の47FAにとっても参考にも励みにもなると思うのである。2005年に我々は「2050年にワールドカップを自国で開催し優勝する」と宣言した。その途上ではU-17、U-20のワールドカップでトロフィーを掲げることもターゲットにしている。その目標から逆算してプレーヤーズ・ファースト目線で選手のプラスになると考えついたことは、どんどん47FAで実行し、成功も失敗もどんどん発信してほしいと思う。我々も受信機能を高め、指導や育成や普及に関する情報が垂直にも水平にも行き渡るように努めるつもりだ。

北海道、東北、関東、東海、北信越、関西、中国、四国、九州と9つに分かれた地域には1人ずつJFAコーチが配置されている。そういう地域とのパイプをさらに太くするために、JFAは2年前から47FAに技術担当専任者(FAコーチ)の配置を推進している。希望する47FAにはJFAからベースとなる補助金を渡し、47FAはそれを原資に「これは」と見込んだ人物と契約を交わし、その地域のサッカーの発展に貢献してもらう。仕事の中身はそれこそ育成なのか、指導者養成なのか、普及なのか、その地域が抱える課題に応じて変わってくるのだろう。とにかく、有給だからフルタイムで働いてもらうことが原則で、フットワークが軽く、豊富な指導歴があって、地域にコネクションがある人が望ましいからハードルはかなり高い。それでも、そういう人がFAコーチになってJFAとのパイプ、地域のハブとしてきめ細かく機能してくれたら確実に日本サッカーの未来は明るくなると確信している。

今のところ47FAの中でFAコーチを置いているのは28のFA。例えば、中国地域は全県にいるけれど、九州地域は鹿児島だけとまだばらつきはある。県内のサッカーの実情に通じ、地元の人ともうまくコミュニケーションが取れる人となると人選は大変という事情がある。既に仕事をしているFAコーチの経歴を見ると、長年教員として地元のサッカーに貢献した人やJクラブに関わった人が多い。例えば、岩手の鳴尾直軌FAコーチはモンテディオ山形やアルビレックス新潟で活躍した元Jリーガー。指導者に転じた後はグルージャ盛岡や新潟シンガポールの監督を歴任した。岐阜のFAコーチにはJFAやJリーグで豊富な指導経験を持つ松永英機さんが今年から就かれた。今後指導者養成もB級ライセンスまでは全部47FA単位でやろうという方向にあるなか、彼らのような能力の高い人が地域のサッカーの発展のために一肌脱いでくれると本当に心強い。拙速は戒めなければならないが、すべての47FAに1日も早くFAコーチを置きたいと思っている。

競技力の向上を示す“強化の山”をこれまでは「ピラミッド」という言葉で単純に表現してきた。ピラミッドのように底辺が大きければ大きいほど、頂上部分も自然に高くなるというふうに。もちろんそれも大事だが、ウェルビーイングを表す“普及の山”であるピラミッドも強化同様に大事であると感じている。このダブルピラミッドのどちらかが高まればもう一方も高くなるという相乗効果を作りだしていきたい。つまりエリートの能力開発も大事だが、頂上に行き着けなかった人が生涯スポーツとしてサッカーを楽しめるようにすることも大事だということである。そういう意味で理想的なのは世界の頂上付近に常に君臨し続けるドイツだろう。スポーツシューレがどこの地域にもあって、プロチームの練習を見た後は自分たちもボールを蹴ることができる文化が日常に根づいている。サッカーは競技人口が多く、オリンピックやワールドカップに出るだけでも大変な競技だが、競技人口が多いとプレーする相手に困らないから環境を整えたら生涯スポーツとして楽しむことができる。障がいを抱えた方たちのサッカーが認知され、ウォーキングフットボールのように初心者と経験者が交ざって楽しめるサッカーもある。そういうすべてに目配りをし、サッカーファミリーとしてのシナジー効果を出せたら、それは間違いなくSAMURAI BLUEも強くなると思う。

47FAの活性化もシナジー効果をもたらすだろう。ひところ「地方創生」ということが日本で盛んに言われたが、そもそも街づくり、人づくり、仕事づくりは、はやりすたりでやるものではない。いつの時代もやるべきことだ。我々の世代は中央集権的な思考にどっぷりつかった世代で「都会への憧れ」から「上京」するのを当たり前のように考えていた。コロナ禍の今は在宅勤務が可能な人を中心に、都会から地方に転出する人が増えているという。ITの発達で、もう「東京にいないと情報が入らない」なんてことはなく、どこにいてもキャッチできる時代になった。これからの日本がどんな社会になっていくのかわからないが、一つ言えることはサッカーを楽しむことに地域で差があってはいけないということ。子どもたちには生まれたところでプロになれるパスウェイがあるべきだし、お年寄りには「もう動けないからサッカーから足を洗うわ」と自らリタイアを宣言するまでゲームを楽しめる環境を地元に用意したい。そういう環境をつくることに47FAがアクセルを頑張って踏もうとする時に、JFAがブレーキを踏む必要はないと考える。そういうことができるために47FAの人材を少しずつでも確実に厚くしていきたいと思う。

技術委員長の仕事は「ディケイド(10年)」という単位で考えることが必要だ。今から10年後の2032年にオリンピックがある。そこで戦うU-23の選手は今、小学校6年生ということ。つまり明日、僕らが小学校のグラウンドで会う子どもは10年後、オリンピック選手になる可能性がある。そういうことを踏まえて、今この子の成長に何が必要かを考えなければならない。我々も考えるし、地域も考える。サッカーの指導に携わる者には次の試合の勝利と10年後の勝利を同時に考える複眼が必要ということ。私の場合ならワールドカップ出場を懸けた3月24日のオーストラリアにどうやって勝つかと同時に、10年後のオリンピック金メダルを獲得するために逆算して打つべき手を考えなければならない。この2年間、コロナ禍でアンダー世代は海外に行って試合をすることができていない。メキシコなんかどんどん欧州で試合をやっていると聞くと焦りは募る。国際試合をしないと試合からの課題の抽出というチームの成長にとって一番ありがたいものを摂取できない。この〝鎖国〟状態はいつまで続くのか。悶々とし胃が痛む毎日だ。

アーカイブ
JFAの理念

サッカーを通じて豊かなスポーツ文化を創造し、
人々の心身の健全な発達と社会の発展に貢献する。

JFAの理念・ビジョン・バリュー