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[特集]スポーツの楽しさを守る ~日本に文化として根付いているリスペクト、それは誇るべきもの 田嶋幸三JFA会長インタビュー

2023年12月07日

[特集]スポーツの楽しさを守る ~日本に文化として根付いているリスペクト、それは誇るべきもの 田嶋幸三JFA会長インタビュー

日本サッカー協会(JFA)は2009年、J リーグと共にリスペクトプロジェクトをスタートさせた。
ワーキンググループのリーダーを務めていた田嶋幸三会長に、「リスペクト」への思いやその重要性について聞いた。

●取材日:2023年7月12日

フェアプレーの原点「大切に思うこと」

――2008年12月にリスペクトプログラムを推進するワーキンググループが発足し、田嶋会長はそのリーダーを務められました(当時はJFA専務理事)。ワーキンググループを立ち上げた経緯や当時の思いなどをお聞かせください。

田嶋 JFAは昔からフェアプレーの重要性を説いていました。そんな中で1988年、国際サッカー連盟(FIFA)が加盟協会/連盟にフェアプレー・キャンペーンを展開するよう呼びかけたんです。その背景には、80、90年代にヨーロッパではフーリガンによる暴動が発生するなど社会的な問題があり、FIFAは試合を含めたあらゆる面でフェアであることの必要性を訴え、それを世界に浸透させることを求めました。そして、JFAも89年からフェアプレー・キャンペーンを実施するなど、より大々的に、具体的に取り組むようになりました。95年には、JFA主催の全国大会にフェアプレー賞を設置することを決定し、98年には「JFAサッカー行動規範」を策定します。これは浅見俊雄先生(当時はJFA理事)らが中心となり、サッカーの価値を高めるため、関わる全ての人が順守すべきことをまとめたものです。そうやって日本代表をはじめ、育成年代のサッカー活動で、フェアプレーの重要性を訴え続けてきました。

2001年のフットボールカンファレンスでは、UEFA(ヨーロッパサッカー連盟)のテクニカルダイレクターをされていたアンディ・ロクスブルグさん(現、AFCテクニカルダイレクター)が、フィンランドの取り組み事例として「グリーンカード」を紹介してくださった。それまでのわれわれは、「ファウルをしてはいけない」「レッドカードをもらうようなことをしてはいけない」など、禁止事項を羅列する傾向にあったのですが、グリーンカードで、もっと褒めよう、というポジティブな提案にとても大きな気づきを与えられました。例えば、家庭で子どもが片付けをしたら親御さんがグリーンカードを出して褒めるなど、ピッチの外でも正しい行いをしっかりと認めてあげることで、子どもはそれが正しい行為だったと気づき、続けるようになるでしょう。「RESPECT」という言葉を最初に用いたのも、イングランドをはじめとす るヨーロッパ各国でした。UEFAが 大々的にRESPECTを推進するようになり、FIFAもその言葉を使うようになった。今では当たり前に使われるようになりましたが、当時はそこまで浸透していなかったと思います。フェアプレーはどちらかというとピッチ上で起こること、つまりプレーに対して使う意味合いが強いものですが、リスペクトは全てが対象になります。サッカーで言えば、競技規則を守ることもそうですし、対戦相手や審判員、家族やサポーターなど応援してくれる人々、大会の運営に携わる人々、サッカー用具、施設や環境などの全てです。このリスペクトを日本に広めようと、JFAとJリーグでワーキンググループを立ち上げました。

――そうして翌09年7月、リスペクトプロジェクトがスタートします。

田嶋 リスペクトを日本に浸透させるには、日本語にした方がいいのではないかという声がありました。リスペクトは英語の辞書を引くと、法律を順守する、規範を守る、相手を尊敬する、尊重するなど、1ページを埋めるくらいにいろいろな意味が出てきます。これをもっとかみ砕いて分かりやすい言葉にできないだろうかと考えたとき、競技規則を守ることはサッカーそのものを大切にすることであり、相手を尊重するということは相手を大切に思うこと、物を大事に使うことはそれを大切にすることなんだと。そうやって「大切に思うこと」が、リスペクトを表現するに相応しい言葉だという結論に行き着きました。

「大切に思うこと」という表題でハンドブックも作成しました。いろいろなリスペクトのシーンを集めた、私が大好きな一冊です。ぜひサッカーファミリーの皆さんにも見ていただきたいと思います。

――リスペクトプロジェクトが発足して今年で15年になります。リスペクト「大切に思うこと」は、日本サッカーに浸透しているでしょうか。

田嶋 間違いなく浸透していると思います。代表選手やトップリーグでプレーする選手のコメントなどを聞いても、今では「リスペクト」や「感謝」という言葉が当たり前に使われるようになりました。サッカーに限らず、日常でもよく使われていますよね。その言葉の意味も、広く皆さんに理解されつつあると感じます。

日本で培われた伝統は世界に誇るべきもの

――FIFAは97年より、9月にFIFAフェアプレーデーを設けてリスペクト・フェアプレーを促進しています。JFAもこれに合わせて毎年9月をリスペクトフェアプレーデイズとしてさまざまな啓発活動を行っています。2011年から毎年実施しているリスペクトシンポジウムもその一つです。

田嶋 リスペクト・フェアプレーは、年間を通して常に推進されるべきものではありますが、強化月間を設けて積極的に発信することで、あらためて理解を深めてもらうきっかけになると思います。われわれJFAが取り組んでいるリスペクトフェアプレーデイズも、ただ口で言うだけではなく、ぜひ行動に移す期間にしてもらいたいですね。例えば、指導者と選手であらためてリスペクトとは何かを考える時間を設けるのでもいいでしょう。サッカーファミリーの皆さんには、サッカーができることへの感謝、周りの人への感謝など、自分にとっての「リスペクト」とは何か、について今一度考える期間にしてもらいたいと思っています。

――2004年度に導入した「グリーンカード」もJFA全日本U-12サッカー選手権大会をはじめとするU-12年代以下の大会で使用され、浸透してきました。

田嶋 グリーンカードを導入した当初は、審判員がどういうときに出せばいいのか分からなかったんですね。それで、良いと思った行いには全て出していいんだと、何枚出してもいいんだということをずっと言ってきました。取り組むうちに審判員も子どもたちの良い部分を探すことが上手になってきて、それと比例してグリーンカードの枚数も増えてきた。グリーンカードの意味を観客や親御さんも分かっているので、グリーンカードが出されると会場から拍手が起こる。そうやってみんなで子どもたちのリスペクト、フェアプレーをたたえる環境があることは素晴らしいことですし、これからも大切にしていきたいことです。

――そうしたリスペクトやフェアプレーのある風景を見られることもスポーツならではと思います。田嶋会長が思われるスポーツの魅力とは何でしょうか。

田嶋 スポーツは勝負事ですから、必ず勝ち負けや順位がつきます。常に全力を尽くしてプレーすることがフェアプレーの原点ですし、勝利に向かってひたむきにプレーする選手たちの姿は多くの人の心を揺さぶります。その中で相手をリスペクトする、勝った人を賞賛する、負けた人にも礼を尽くす。グッドルーザー、グッドウィナーという言葉がありますが、そうした、気高く、節度ある振る舞いが見られることもスポーツの魅力だと思います。例えば、世界大会の表彰式では勝利したチームの選手たちが、敗者となった対戦チームの選手たちが表彰台に向かうときに拍手を送ったり、横に並んで迎え入れたりする光景が見られるようになりました。それはUEFAチャンピオンズリーグで始まったことで、これが世界中に広がっています。

典型的な例としては、日本代表チームが、勝っても負けてもロッカールームをきれいに片づけ、感謝のメッセージを置いて大会を後にするということもそうです。他国の人々はその光景を見て驚きます。

FIFA女子ワールドカップオーストラリア&ニュージーランド2023に出場したなでしこジャパンが使った後のロッカールーム。
ホワイトボードには感謝のメッセージ

――日本代表チームの振る舞いは世界から称賛されています。

田嶋 決して当たり前にできることではありません。そうした行いを自然にできるのは、日本で培われた文化や習慣、リスペクトの精神があるからです。私たちは、そうした文化や伝統を持っていることを誇るべきですし、なくしてはならないものだと思います。各カテゴリー日本代表の選手やスタッフたち、もっと言えばJFA自らが国内外に示していかなければならないと感じています。それだけ影響力は大きいのです。

サッカーは世界で最も愛されているスポーツです。それゆえにトップレベルでプレーする選手たちには社会的責任が伴います。世界のトップクラブや選手たちが児童養護施設など福祉施設を訪問したり、サッカー教室を実施したりしているのも、自分たちに社会的責任があることを理解しているからです。サッカーを通じて、選手たちは社会に影響を及ぼすことができる。それは他のスポーツにも言えることです。私たちが2006年にJFAアカデミーを立ち上げたとき、「エリート育成」という言葉を使いました。その言葉に抵抗感を持った方も少なくなかったと思いますが、それは単にサッカーがうまいとか勉強ができることを意味するものではなく、サッカー界においても、社会においても、リーダーシップを発揮できる人材を育成することを意味するものでした。そうした人間でなければ、一流のサッカー選手にもなり得ないからです。自分だけが良ければいいという考え方ではなく、自分の立場を踏まえて行動するというノブレス・オブリージュ(noblesse oblige=高貴たるものの義務※)の思想は、リスペクトにも通じるものです。それをシェアして、みんなが幸せになれる社会をつくっていきたい。日本をサッカーで幸せな国にすることがJFAの目指すところです。

※貴族や上流階級に生まれたものは、社会に対して果たすべき責任が重くなるという思想。

サッカーを楽しむためにリスペクトは不可欠な要素

――サッカー選手として成長する上でも、スポーツマンシップやリスペクトは必要ですね。

田嶋 そうです。常に努力して、もっと上を目指そうと取り組むこともリスペクトです。勝敗だけでなく、自分がうまくなりたいと思うことはサッカーそのものを大切にする気持ちですよね。プロであれば、応援してくださっている人たちに素晴らしいプレーを見せたい、自分のプレーで感動してもらいたいという気持ちを持っていなければ上にはいけません。

――選手に携わる指導者や大人には、選手が自ら成長できるようにサポートすることが求められます。

田嶋 「プレーヤーズファースト」も忘れてはならないキーワードです。選手のことを第一に考えることを抜きにして、選手の成長も、指導者の成長もありません。勝利を目指して手を抜かずに日々鍛錬すること、試合でひたむきにプレーすることは素晴らしいことですが、指導者の思いが行き過ぎると暴力や暴言につながりかねない。そこはゼロ・トレランスの姿勢で、われわれ大人は、選手たちのサッカーを楽しむ権利を守らなければなりません。選手にとっても、指導者にとっても、リスペクトはサッカーを楽しむために不可欠な要素です。指導者自身もサッカーを子どもたちと楽しみ、一緒に成長するという姿勢を大切にしてほしいですね。

――リスペクト・フェアプレーを推進する上で、JFAとして大切にしたいことをお聞かせください。

田嶋 重要なのは、リスペクトを大切にすることではなく、大切に思うことがリスペクトであるということです。

今年2月には、「アクセス・フォー・オール(AfA)」を推進するためのワーキンググループを立ち上げました。AfAとは、年齢や障がい、国籍、宗教、貧困、ジェンダーにかかわらず、誰もが当たり前にサッカーにアクセスできる多様な機会と選択肢を持続的に提供しようという取り組みです。サッカーは世界で最も人気のあるスポーツだからこそ、われわれがやらなければならないことだと思っています。先ほどもお話しした通り、JFAが目指すのは、サッカーで幸せな国になること。リスペクトなくしてそれは実現できないでしょう。いろいろな人の支えがあってサッカーができていることを忘れずに、今後も継続してリスペクト、フェアプレーを推進していきます。

※本記事はJFAnews2023年8月に掲載されたものです。


「サッカー界全体でリスペクトを貫いてきたからこそ、サッカーは世界で最も愛されるスポーツになった」と田嶋会長

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