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正しく恐れたいヘディング ~技術委員長 反町康治「サッカーを語ろう」第10回~

2021年05月31日

正しく恐れたいヘディング ~技術委員長 反町康治「サッカーを語ろう」第10回~

日本サッカー協会(JFA)は5月の理事会で、幼児期から15歳までのヘディングの指導について、新たな指針を承認し発表した。
(JFA 育成年代でのヘディング習得のためのガイドライン/http://www.jfa.jp/coach/pdf/heading_guidelines.pdf)

JFAがガイドラインを策定したのは諸外国の動きを参考にしたものだ。例えば、米国協会は2016年に導入したガイドラインで、11歳以下の場合はヘディングを試合、練習とも禁止した。米国はアメリカンフットボールが盛んでプレー中の脳震盪などの事例がいろいろあることから、プレー中に頭部と頭部がぶつかる危険性があるヘディングを子どもの間は完全に排除したようだ。イングランド協会やスコットランド協会も2020年2月に原則として11歳以下のヘディングの練習を禁止し、18歳までは年齢に応じて回数や頻度に制限を設ける指針を発表した。同年6月には欧州サッカー連盟(UEFA)もユース年代の練習に制限を設けた。欧州でそのような施策の基になったのは、2019年10月に英国のグラスゴー大学がサッカーの元プロ選手は認知症などの神経変性疾患による死亡率が一般人の約3.5倍にのぼると発表するなど、ヘディングと頭部疾患の関連性を指摘する研究結果がいくつも出てきたことだった。

医学的には異なる見解もあり、そこまで明確に原因と結果は直結していないらしい。しかし、事はサッカーをプレーする人の健康と安全に関わる問題である(特に発育期のお子さんを、確たる証拠がないからといって、いたずらにリスクにさらすわけにはいかない)。そこで、さまざまな最新の医学的知見に基づき、今後もアップデートしていくことを見越した上で、今できる最善と思えるものをJFAもガイドラインとして提示したわけである。詳しくはJFAのホームページを見ていただければと思う。今回ガイドラインの対象としたのは幼児期からU-15(15歳以下)までの子どもたち。そこで示された回数や頻度については、世界のどこを探しても「これ以下だと安心」「これ以上だと危険」というエビデンスはなく、我々がこれまでやってきた現場感覚が基準になっていることをあらかじめお断りしておきたい。

JFAが子どもたちにヘディングを一律で禁止する立場をとらなかったのは、小学4年から6年にかけては神経系の発達が著しく、そこが技術習得のゴールデンエイジと呼ばれているからだ。何もしないのではなく、年代に応じて、やり方や回数や頻度に制限を設けて「正しく恐れ」ながら、空間認知やボールとの距離感といった身体感覚を養ってほしいと考えたからだ。ゴールデンエイジといってもそれは神経系のレベルで、体はまったくできていないのだから、身体に負荷がかかる練習はもってのほか。子どもの発育に応じ段階を踏んで、頭でボールを操作する感覚に慣れていってくれればいいと思っている。

例えば、幼児期はヘディングの技術的な指導をする必要はまったくない。風船や丸めた新聞紙を自分で投げ上げ、落とさないように手でキャッチするとか、落ちてきた風船を体のいろんなところに当ててみるとか、その程度の遊びで十分だろう。小学校低学年になっても軽量のゴムボールなどを用いて風船からの卒業を目指すくらいでいい。風船では物足りないとなったら、百均ショップで買えるような軽量のボールを使用して、空間を移動するボールに合わせて身体を協調させるような運動を多く経験させたい。この年代のゲームはピッチサイズが小さく、ゲーム中のヘディングは偶発的にしか起こらないし、遊びの中で徐々に額でボールに触れる機会をつくってくれたらそれでいい。

小学校の3、4年になれば、そろそろヘディングの練習を始めてもいいけれど、人工皮革の4号球を使うのは負荷が大きすぎる。使用するボールはバレーボールのような軽いものがよく、ネットに入れて吊したボールを額でミートするといった練習を奨励している。テニスボール大のゴムボールを使ってキャッチボールをしたり、フライを追ったりするのもいい。ジョギングしながら、ボールを地面にたたきつけて弾んだボールを、あるいは空中に放り投げて、自分の最高到達点でジャンプしながら手でキャッチする練習も有効だと思う。練習はソロでやってくれればよく、無理に競り合いの場面をつくる必要はない。要は、子どもの間は「感覚」を養うことに重きを置き、空中にあるボールがどんな軌道を描いてどこに落ちてくるかを予測し、その地点に自分の体を持っていくコーディネーション能力の基礎を養ってくれればいいということだ。

小学校の高学年になると、空中にあるテニスボールを二人でジャンプして手で取り合うような「競る」という運動も徐々に取り入れる。サッカーの4号球を使ったヘディングを導入してもいいが、子どもの発育には個人差があり、頭部への負荷(衝撃と頻度/量)は慎重に考慮する必要がある。全員に同じ一律の練習を課す必要はない。至近距離からサッカーボールを投げつけるような指導は論外で、そういう練習を目撃したら、立場に関係なく、すぐに止めるべきだと思う。中学生になっても基本的な考え方は同じだ。中学1年生と3年生では体のつくりがまったく違うのだから、個人差や個体差を丁寧に見極め、きめ細かなヘディングの指導が必要ということである。

JFA技術委員会の中山雅雄普及部会長は「指導者のリスク感度を上げたい」という。「トレーニング課題を設定する大人の知識感度が良くないと、負荷の強すぎる練習を子どもに強制的にさせてしまう」と。普通に見ていて「危ないな」と思うことを子どもにやらせてはいけない。指導者は保護者との接点もあるので、ガイドラインを通して指導者から保護者への啓発活動も行っていけたらと考えている。中山普及部会長が元日本代表でヘディングの名手とされた人たちにヒアリングをしたら、彼らも本格的にヘディングの練習を始めたのは高校や大学に入ってからだったそうだ。空中のボールに対する空間認知やコーディネーション能力を養っておけば、技術の習得は体のつくりがある程度しっかりしてからでも遅くはないということだろう。繰り返しになるが、ヘディングの指導に焦りは禁物で、やるべきこととやってはいけないことの区別をしっかりつけて「正しく恐れ」ながら、取り組んでほしいと思う。

今年春からJFAアカデミー福島が福島の地で再始動した。視察に訪れたら、日本フットボールリーグの「いわきFC」との練習試合をやっていた。いわきFCは中学3年主体のチーム、JFAアカデミー福島はまだ新1年生しかいない。体格差は大きくスピードも段違いで、技術レベルはひけをとらなかったものの、スコアは完敗だった。その40分×2本の試合でヘディングの回数を自分なりに数えてみたら、両チーム合わせて30回くらいあった。JFAアカデミー福島の1年生はクロスをかぶったりするし、よく見ると、どちらも足元の技術に比べてヘディングの技術は見劣りした。この「足高頭低」は、おそらく日本のサッカー選手全般に共通する傾向だろう。日本の選手のヘディング技術の低さは、私がアシスタントコーチとして仕えた元日本代表監督のイビチャ・オシムさんもよく嘆いていた。「どうなっているんだ?」と。

日本にも古くは釜本邦茂さんに始まって、原博実さん、高木琢也さんのようなストロングヘッダーの点取り屋はいた。オシムさんの頃なら巻誠一郎もそうだろう。タイプはまったく異なるが、岡崎慎司(ウエスカ)もダイビングヘッドの技術は素晴らしい。DFなら中澤佑二、田中マルクス闘莉王も空中戦に強かった。幸い、今の日本代表はゴール前に吉田麻也(サウサンプトン)や冨安健洋(ボローニャ)や植田直通(ニーム)のようなDFがいて、空の戦いで見劣りはしない。彼らは代表の試合前日、GKにパントを蹴ってもらって跳ね返す練習をしている。佐々木翔(広島)もその輪に加わる。彼らはそういう地道な努力を怠らない。

しかし、言葉は悪いが「利き足は頭」みたいな選手が、今は確実に希少な存在になっているとも感じる。Jリーグでも「空の王者」というと湘南のウェリントンや札幌のジェイのような外国人選手ばかりが目立つ。単に、ヘディングの技術といっても、ゴールを決める力だけではないし、クロスを跳ね返す力だけでも、GKのロングボールを遠くにはじき返す力だけでもない。私がきちんと身につけて欲しいと思うのは、もっと広い意味でのヘディングの技術である。CK、FK、クロスのボールを頭に薄く当てて後ろに流したり、走り込んでくる味方に正確に柔らかくボールを落としたり、フリックで斜め後ろにパスができたり……。

スペインや南米の選手は足技が上手というイメージがあるが、私の見立ては、あちらには足元もうまいしヘディングの技術も持った選手が普通にいる。フットボーラーとして標準装備すべきアイテムの中にヘディングがしっかり入っているかのように。日本はそこがどうも勘違いされていて、ヘディングはFWとDFの専門技術みたいな扱いになっていないだろうか。常々、そう感じている私は、それで今回のガイドライン策定にも神経を使った面がある。サッカーの導入部から一律禁止などにしたら、ただでさえ世界から遅れたヘディングの技術が、さらにダメになってしまうと恐れたのだ。

私は「ヘディングは危険」というより、「危険なヘディングがある」とも思っている。JFA医学委員会の谷諭委員は「頭への衝撃の繰り返しがよくないのはボクシングのパンチドランカーを見れば分かること。しかし、パンチとヘディングはまったく別のもの。サッカーの場合、頭にボールが当たる衝撃のリスク自体は小さい。サッカーの試合で起きる脳震盪の主たる原因は、ヘディングそのものではなく、空中での衝突や地面への落下であることはよく知られた事実」と話される。間に合わないタイミングで無理に跳んで空中でぶつかって、双方ともバランスを崩して背中からもろに落ちて後頭部を打つとか、競り合いの際に振り上げた腕が頭や顔に入るとか、そういうヘディングに関わる危険な行為が災いを招くということだろう。そういう危険なプレーをなくすためにも、正しいヘディングの仕方を身につけるのは大事ともいえるだろう。

正しいヘディングの習得という意味では、受け身も大切な要素になる。私が子どもの頃は舗装された道路は少なく、土の道路には微妙な起伏があって、普通に駆けっこをしても転びそうになったり転んだりしたものだ。兄弟や友達と相撲やプロレスごっこに興じ、そうやって生活の中で自然と身につけたバランス感覚や体の裁きもあったように思う。しかし、今はそういう環境にない。前につんのめって転んだ時に受け身がとれず、顔を強打する子が増えているとも聞く。であれば、受け身の習得につながるような回転系のコーディネーションをトレーニングに入れていくことも大切だろう。脳震盪の怖さをきちんと指導者や保護者の方に認識してもらう啓発活動と並行して。

サッカーの試合からヘディングそのものが禁止されるのならともかく、そうでないのなら技術の習得をゼロベースにすることはしたくない。試合になれば、両チームでFKの数は15回ずつくらいある。CKも両チームで10回くらいあるだろう。そこからゴール前にボールが飛来すると思えば、ヘディングの技術向上を避けてとおることはできない。小学校の6年生くらいになれば「止める」「蹴る」「運ぶ」といった基礎に、負荷を軽くした形でいいからヘディングも大事だよということを意識させたい。そうしないと、いつまでたっても「日本の選手はヘディングが下手」という域から抜け出せないだろう。足元の技術は世界と遜色のないレベルまで来ているから、むしろそこに日本サッカーの伸びしろが確実にあるとも思っている。きちんとヘディングができるということは事故予防にもつながる。「危ない」といってなんでもかんでも子どもから取り上げたら、結局、その子は自分で何もできない子になってしまい、困るのはその子自身ということになる。ヘディングにもそんなことが当てはまる気がするのである。

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