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選手育成とユース改革 ~技術委員長 反町康治「サッカーを語ろう」第7回~

2021年02月26日

選手育成とユース改革 ~技術委員長 反町康治「サッカーを語ろう」第7回~

日本サッカー協会(JFA)の技術委員会が取り組むべき4つの柱の仕事のうち、「代表強化」「指導者養成」「普及」については、これまでに触れた。そこで今回は「選手育成」について語りたいと思う。というのも、来年からユース育成のプランニングに手を加えていくつもりでいるからだ。その経緯を分かりやすくお伝えしたい。

残念なことに今年開催されるはずだった二つのアンダーエージのワールドカップが中止になった。U-20ワールドカップ(5月20日~6月13日、インドネシア)とU-17ワールドカップ(10月、ペルー)である。それに連動してアジアからの出場国を決めるアジアサッカー連盟(AFC)U-19選手権(3月3日~20日、ウズベキスタン)、U-16選手権(4月、バーレーン)も中止になった。U-20の日本代表はほとんどプロで固められているが、U-17は学年でいえば、高校の1年生、2年生が主体。世界の中での日本の現在地を知れる重要な大会がなくなったのはとても残念である。だからといって、彼らをそのまま“放っておく“わけにはいかない。次世代のサムライブルーを担う面々を鍛える環境をしっかり整えようと、技術委員会でも再確認したところだ。

夏の高校総体、いわゆるインターハイと正月の全国高校選手権は私のような旧世代にとって非常に大きな意味を持つ大会だった。この二つと、県選抜で戦う秋の国民体育大会の「3冠」を目指して、365日、サッカーに明け暮れた。Jリーグが93年にスタートし、Jクラブのアカデミーが強化されるにつれ、クラブユースの大会も充実していった。そして、それぞれ別のレールの上を走っていた高校の部活とJクラブのアカデミーや三菱養和のようなクラブを相互乗り入れさせ、同じレールの上を走らせたら、きっと強化に役立つということで「高円宮杯 JFA U-18プレミアリーグ」とその下のカテゴリーとして「高円宮杯 JFA U-18プリンスリーグ」という形で2011年から始めるようになった。今年でちょうど10年目を迎えたわけである。

ユース年代の頂点を決めるプレミアリーグは、10チームずつ東と西に分かれてリーグ戦でしのぎを削り、東西のチャンピオンが最後に日本一を懸けて争う大会。ここから多くのサムライブルーが誕生した。アビスパ福岡の冨安健洋(ボローニャ)しかり、ガンバ大阪の堂安律(ビーレフェルト)しかり。今や、正月の高校選手権に並ぶステータスの大会になり、ユース年代のレベルアップに大いに貢献している。そのプレミアリーグを来年4月から東12、西12と2チームずつ増やすことにした。2つ増やしてもレベルが落ちる心配はまったくしていない。むしろ、よりレベルの高い試合が増えると見込んでいる。

並行してユース年代のカレンダーに手を加えることを考えている。議論の出発点は夏のインターハイだ。この大会、いろいろ問題があると感じている。一番は夏の昼間に連戦を強いる日程である。熱中症対策としてクーリングブレイクを設けているが、たっぷり水分を補給し、体を氷で冷やすような時間を取らなければならないほどの環境で試合をさせること自体が問題だろう。インターハイはいろいろな競技が集まった高校生のオリンピックみたいなものだ。本家のオリンピックもサッカー競技は分散してやるように、インターハイも本体とは別に涼しい場所でやれないものかと思う。それはプレミアリーグやプリンスリーグも同じ。炎天下でパフォーマンスが上がらない試合をするより、夏場ならせめてナイター施設が整った場所で試合をさせた方がいいように思うのだ。

さらにいえば、年間を通しての日程の再編も今は視野に入れている。7月の終わりころから8月の初めのころにかけて、完全にブレークを入れるのである。世の中が「働き方改革」の名の下に、メリハリをつけながら生産性の高い働き方をしようという方向に動いていることを思うと、ユース年代のプレー環境はあまりにも無理がありすぎると感じるからだ。プロの選手にオフがあるように、ユースの選手にだってサッカーから離れる期間があっていいはずである。高校生は1年を通してサッカー漬けになるのが当たり前という風潮に、なんとかくさびを打ち込みたいのである。

レベルの高い試合を年間を通してやり続けるにはメリハリをつけることが大事で、サッカーに不向きな夏場に休むのは、誰がどう考えても理にかなっている。夏休みに親と休暇を取ったことがないとか、部活の先生は家庭を顧みなくても仕方ないとか、どう考えても異常だろう。早くに起きて、校庭にラインを引かなくてもいい、ごく普通の朝が学校の先生にだって必要だ。最近、聞いた話だけれど、コロナ禍で部活動が停止になって朝練をしなくなったら、普通に通学して勉強だけをしていた選手の体がどんどん大きくなったらしい。連日の早朝練習が選手を寝不足にして肝心の身体の成長を阻んでいたわけである。シーズン中に、特にサッカーに不向きな夏場にしっかりオフの期間を設けることは、家庭を持つ先生(監督)にとってもその家族にとっても、選手とその家族にとっても、ウィンウィン。それで競技レベルが上がれば、まさに「三方良し」だろう。

オフの期間を設けると、インターハイや高校選手権の予選などにしわ寄せがいく。その詰まりをどう解消するかという問題はある。一案として“スキップ”がある。例えば、プレミアリーグに参加し、高校選手権でも常に日本一を争う青森山田は各種の大会の県予選1回戦から出る必要が本当にあるだろうか。10-0で勝つ試合をして、それが競技力を高めることにつながるだろうか? それよりも、青森山田は県大会予選の準決勝くらいから出られるようにして、それまでは自分たちと同レベルの相手が多いプレミアリーグなどでインテンシティー(強度)の高い試合を重ねた方が良いのではないか。反対意見はあるだろう。なぜ、プレミアリーグの高校だけ特別扱いするのか。一発勝負の高校選手権からジャイアントキリングの楽しさを奪うのか。それぞれ一理はある。しかし、私は、県予選の1回戦で青森山田に0-10で負けて終わりではなく、そういうチームも同じレベルの相手と繰り返し戦えるような環境をつくる方がよほどためになると思っている。

どうやってスキップするチームを選ぶのか? 何が基準なんだ? そう問われたら、それはJFAが一律に決めることではないと答える。各県にはそれぞれ技術委員長やユースダイレクターがいる。年度の初めには各県でプレミアリーグ、プリンスリーグに出場するチームは分かるのだから、そのチームをインターハイや高校選手権の県予選でどう扱うかは各県の協会と高体連が自主裁量で決めればいいことだ。ユース年代全体の日程を見直し、サッカーに不向きな夏場にオフを設け、夏休みを利用して行われるインターハイは選手の体に負担をかけ過ぎない場所でやる。そしてサッカーライクな季節に徹底的にインテンシティーの高いゲームをしてもらう。それは間違いなくユース年代のスキルや全体のレベルを上げることにつながると信じる。

国際サッカー連盟(FIFA)ランキング1位のベルギーは、2018年FIFAワールドカップの時、選手の平均年齢が27.1歳と日本より若かった。さらに遡ると、彼らのプロデビューは17.9歳で、日本の19.1歳と1歳強の差があった。日本風に言うと、ベルギーでは高校在学中にプロデビューするのが普通なわけである。欧州に位置する彼らは日本よりはるかに恵まれた環境にある。大人のUEFAチャンピオンズリーグをそのままスケールダウンした格好のユース年代のチャンピオンズリーグがあり、高いレベルでユース時代から欧州域内で切磋琢磨している。昨年そのUEFAユースリーグで日本人GKの小久保玲央ブライアンがベンフィカの一員として決勝でレアル・マドリードと試合をしたのは記憶に新しい。島国でアジアの東端に位置する日本に同じことはできないのだから、国内でレベルを上げていくしかない。それは強度の高い試合をどれだけ日常にできるかにかかっている。今は、その日常の強度の差が、そのままプロデビューの年齢差に表れていると認識している。

制度改革は大事だ。私が高校生だったころと違って、今の国体はU-16の大会に特化している。なぜ、そうしたかというと、中学から高校に進学したばかりの1年生がボール拾いばっかりさせられて伸びる機会を逸していたからだ。国体をU-16にすることで各県の中学3年生と高校1年生の強化は確実に進んだ。国体とプレミア/プリンスリーグの両方を経験した選手に南野拓実(サウサンプトン)や柴崎岳(レガネス)がいる。南野のプロデビューは17歳、柴崎は18歳。国体改革はプレミア/プリンスリーグ、アンダーエージの日本代表、さらにはサムライブルーの強化にもつながっているわけである。自然発生的に選手が出てくるのを指をくわえて待っているわけにはいかない。その年代にふさわしいゲーム環境をつくって、選手をピックアップしていける状況にしていかないといけない。

日本のサッカー選手がプロになるパターンはさまざまだ。Jクラブのユースからすんなり昇格する者もいれば、高体連出身、街のクラブから、さらに大学を経由して、そしてレアではあるがアマチュアチームから成り上がってくる者もいる。どんなパスウエーをたどって来るか予測がつかないところが育成の醍醐味でもある。そういう多様性を踏まえた中で、大学生や高校生にも特別指定選手制度を用意したように、それぞれに一番いい環境をつくってあげたいと思う。2030年にサムライブルーはFIFAワールドカップでベスト4になることを目標に掲げる。今回述べたようなユース年代の諸改革が実現できたら、そこに届く芽になると真剣に思っている。

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