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【最後の青春ドラマ】ボランチ起用から奇跡の兄弟FW共演にこぎつけた高校1年時~第100回全国高校サッカー選手権大会・岡崎慎司(FCカルタヘナ)前編

2021.12.27

第100回全国高校サッカー選手権大会が12月28日(火)に開幕します。高校年代の大舞台に立った選手はどのような青春時代を過ごしてきたのか。ここではFIFAワールドカップに3大会連続で出場した岡崎慎司選手(FCカルタヘナ/スペイン)の高校時代のストーリーをお届けします。

兄と目指した選手権の舞台

「いろいろな思いが詰まっていて、一人一人にストーリーがある。3年間のすべてが凝縮された大会だと思います」

全国高校サッカー選手権大会についてそう語ったのは、FIFAワールドカップに3大会連続で出場し、現在はスペイン2部のFCカルタヘタでプレーする岡崎慎司だ。

兵庫県出身の岡崎は2002年4月、地元の強豪・滝川第二高校に進学した。2歳年上の兄・嵩弘さんが在籍している同校サッカー部に入ることは、岡崎にとって自然な流れだった。

FWとして入部したものの、入学当初の立場は1年生チームの準レギュラー。黒田和生監督(当時)からも「3年間レギュラーになれないかもしれない」と最初に言われたという。ある日の紅白戦ではボランチとしてプレーしたそうで、やはりFWだった嵩弘さんは別のチームで右サイドバックを務めていたという。

この時に「頑張ろうぜ」と声を掛け合ったボランチと右サイドバックは必死のアピールを続け、同年度の第81回高校選手権で2トップを組むこととなる。岡崎の場合は荒川友康コーチとの出会いが大きかった。2002FIFAワールドカップ 日本/韓国でアルゼンチン代表のマルセロ・ビエルサ監督(現・リーズ監督)の通訳を務めた荒川コーチは、岡崎に「今はまだ“石ころ”だけど、磨けば磨くほどいいものになる」と伝え、練習試合などで積極的に起用した。岡崎は一気に頭角を現し、1年生ながらAチームのレギュラーに登り詰めたのである。

一方、岡崎が「僕が入学した時もまだCチームだった」と振り返る嵩弘さんも、自らの努力で選手権のメンバーをつかみ取った。「3年間、時間を掛けて、最後はレギュラーになった。本当にすごい兄貴だな、と感じました」と岡崎が敬意を示すように、嵩弘さんにも彼自身の“ストーリー”があったのだろう。

「2人ともがむしゃらに走り回るスタイルなので、どうしても動きがカブってしまうんですよね。兄貴が同級生から『(3年の)岡崎がもう少し考えて動けや』と言われるのを見て、すごく申し訳ない気持ちになりました」。岡崎は兄弟でのプレーを苦笑交じりに振り返るが、それでも2人のアグレッシブなプレーはチームの大きな武器で、3回戦の高知高校戦(3-1)では、嵩弘さんがゴールで勝利に貢献している。

そして岡崎自身は、準々決勝の東福岡戦(3-2)で2つのゴールを記録した。それまで全国大会とは無縁だった彼にとって、初めて全国の舞台で奪ったゴールである。放ったシュートが人に当たってコースが変わったり、味方のクロスボールが相手DFに当たって岡崎にとっての絶好球になったりと、「運も使ったけど、自分らしいゴール」でチームを準決勝へと導いた。試合後のヒーローインタビューも初体験。「見返してみると『何を言っているんだろう?』みたいな感じ」と、こちらは“らしさ”を発揮できなかった。

2大会連続で味わった国立での屈辱

準決勝は市立船橋高校と対戦。舞台は国立競技場だったが、この試合は岡崎にとって苦い思い出しか残っていない。0-2で敗れたこと以上に、直前に体調を崩し、先発で出場するもわずか20分弱しかプレーできなかったためだ。「座薬を入れて試合に出たんですけど、国立の雰囲気を感じる間もなく交代しました。とにかくつらかったイメージしかないです」。岡崎にとって初めての選手権は、こうして幕を下ろした。

続く2年時、Aチームの主力として期待を寄せられる立場ではあったが、岡崎は当時のことを「あまり記憶がない」と振り返る。それでも「活躍できたのはたまたまで、もっとうまくなりたいと常に向上心を持ってやっていたと思います」と、持ち前の貪欲な姿勢で努力を続けた。

第82回大会の兵庫県予選では足首の捻挫でほとんど出場できず、決勝の市立尼崎高校戦のみ途中出場。1点ビハインドから後半アディショナルタイムに執念の同点ゴールを奪い、延長戦での河本裕之(大宮アルディージャで今季引退)の決勝弾へとつなげた。「サッカーをしていると、点を取るか取らないかで自分の運命が左右される場面に直面することがあると思うんですけど、僕にとってはその最初の場面があの得点でした」と言うほど自身にとっても大切なゴールだった。

岡崎は本大会の初戦となった2回戦の長岡向陵戦で2ゴールを奪い、一躍、注目を浴びる。しかし続く立正大淞南戦、チャンスでオーバーヘッドシュートを放つと、1-0で勝利した試合後、黒田監督から激怒された。

「黒田先生から『1回戦で2点取っておごりが出た。お前はあんな場面でオーバーヘッドするような選手じゃないはずだ』と言われて、みんなの前で号泣しました。自分にそういう気持ちがあったんだと受け止めたことを覚えています」

反省した岡崎は準々決勝の初芝橋本戦でも1ゴールを奪い、滝川第二を2大会連続の国立へと導いた。しかし、彼らの前に立ちはだかったのは当時「最強」と言われていた国見高校だった。“怪物”平山相太(現・仙台大学ヘッドコーチ)は同じFWとして「レベルが1つ、2つ違った」そうで、チームも0-4の完敗を喫した。

「僕自身も全く歯が立たなかったですね。前年とは違った無力感がありましたし、『また国立でこんな思いをするのか……』と感じたことを覚えています」。国見戦をそう振り返った岡崎。そして試合後、彼は意外な言葉を掛けられることになる。

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第100回全国高等学校サッカー選手権大会

大会期間:2021/12/28(火)~2022/1/10(月・祝)

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