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東京オリンピックを目前にして思うこと ~技術委員長 反町康治「サッカーを語ろう」第11回~

2021年07月07日

東京オリンピックを目前にして思うこと ~技術委員長 反町康治「サッカーを語ろう」第11回~

「オリンピック」という単語を耳にすると一瞬身体が身構える――。なんてことを書くと大げさに思われるかもしれないが、2008年北京オリンピックにU-23日本代表を率いて1次リーグで敗退し、日本に帰国した当座は本当にそんな心境だった。北京オリンピックで一緒に悔しい思いをした本田圭佑、長友佑都、岡崎慎司、香川真司、吉田麻也、内田篤人らは後にSAMURAI BLUE(日本代表)の主軸となり、2010年南アフリカ、2014年ブラジル、2018年ロシアのワールドカップを戦ってくれた。そんな彼らの活躍を見て「反町さんの選手を見る目は確かでしたね」「ありがとう」なんて言ってくれる人もいたが、その程度のことではあの時に受けたダメージが癒やされることはなかった。どんな年代であっても国を代表して戦うということは、それくらい重いというのが実感としてある。

新型コロナウイルスのパンデミックにより、1年の延期を余儀なくされた東京オリンピックが、いよいよ7月23日に開幕する(サッカー競技は女子が21日、男子は22日スタート)。1年の延期は欧州選手権や南米選手権も同じ。オリンピックとは開催時期も近いから、どの協会も選手選考と派遣に頭を悩ませている。いくら選手が希望し、協会も歓迎しても、選手の所属クラブが首を縦に振らない限り、欧州選手権や南米選手権とオリンピックを掛け持ちで出ることは至難の業だ。そもそも、掛け持ちではない選手を集めようとしても、オリンピックのチーム編成はままならない。国際サッカー連盟(FIFA)が定めるインターナショナルウインドーでも、協会が大手を振って選手を集めて試合が組めるSAMURAI BLUE(日本代表)と違って、オリンピック世代は所属クラブと丁寧な話し合いの場を持って理解を深め合わないと、選手を供出してもらうことすら難しい。それはあらゆる協会に共通の悩みだ。

オリンピック世代のチーム編成の難しさが放置されたままなのは、オリンピックの取り組みに地域差があることも一因だろう。協会によってもかなり温度差がある。例えば、南米勢は伝統的にオリンピックのサッカーに対する思い入れが強い。私が戦った北京オリンピックでいえば、アテネから連覇したアルゼンチンにはリオネル・メッシ、アンヘル・ディ・マリア、セルヒオ・アグエロにオーバーエージ(OA)でファン・ロマン・リケルメやハビエル・マスケラーノまで加えていた。ブラジルも力を入れてくる。前回リオデジャネイロオリンピックではOAにネイマールを加えて、初のオリンピック金メダルをもぎ取った。同じような熱意はアフリカ勢にも感じる。彼らにとって団体球技で金メダルを取れるとしたら、サッカーが一番手というのが、その理由だろうか。一方、欧州勢に南米ほどの思い入れは感じない。彼らの頭の中には勝つべきタイトルがワールドカップ、欧州選手権、U-21欧州選手権というふうに優先順位があるように感じることがある。オリンピックのサッカーは1980年のモスクワ大会までアマチュアのみで行われていた。それゆえに東欧の共産圏の国々がメダルに近かった。プロリーグを持つ西欧諸国からすると、そんな時代の名残というか、どうしてもオリンピックを下に見て、クラブ側も無理をしてまで協力しようと思わないのかもしれない。

そんな環境の中でも何とか意中の選手を集めようと、我々は昨年の今ごろからJクラブと協議を重ね、供出する選手の数はOA、バックアップも含めて1クラブ3人までといった上限を定めたりしてきた。JFA職員をドイツ・デュッセルドルフに常駐させたのも、欧州のクラブとのパイプを太くするためだ。欧州での活動はコロナ禍の影響で制約のある時期もあったが、今は軌道に乗せることができたように思う。東京オリンピックの場合、選手派遣に関してはすべてのクラブから今回は正式なレターをもらい、〝ドタキャン〟なんかないように固めてある。欧州のクラブの協力を得られたのは、自国開催のオリンピックで何としてもメダルを取りたいという我々の熱意が伝わったのが大きい。また、OAでいうと、今回選んだ吉田麻也にしても遠藤航にしても酒井宏樹にしても、選手として所属クラブで確固たる地位を築いているのもありがたかった。オリンピックを終えてから新シーズンのチームづくりに参加しても、戦力として確実に計算できるから、クラブのOKをもらえた面がある。

さて、オリンピック開幕を直前にして、大きなルールの変更があった。ワールドカップの23人と違って、オリンピックはこれまで基本的に18人の登録選手と大会中に故障者が出た場合に差し替え可能な4人のバックアップメンバーを帯同することしか認められていなかった。18人で最大6試合を中2日のペースでこなすのは大変な上に、東京オリンピックは日本の高温多湿の気候と新型コロナウイルスの防疫というハードルも乗り越えなければならない。それはあまりに過酷ということで、7月1日になって、FIFAから新たな通知が届き、今回限りの特例としてバックアップメンバーを含めた22人全員を選手登録できるようになった。ベンチ入りはあくまでも18人なので、試合の度に22人から18人に絞り込む作業をしなければならないが、この追加措置のおかげで選手のやり繰りの自由度が増したのは間違いない。同日の通知の中で、1試合最低7人の選手とコーチを1人用意することができれば試合をすることはできるけれど、選手が6人しかそろわないとか、コーチが1人もいないとなったら、0-3の棄権負けになることも示された。通常ならありえない事態だが、コロナ禍では、いついかなるときにチーム内にクラスターが発生するかわからない。こういう想定がFIFAから示されること自体、コロナ禍のオリンピックの難しさが知れるというものだ。

18人から22人に出場登録枠が広がっても、オリンピックに参加するチームで余裕を持って大会の準備を進められるチームは基本的にないという構図は変わらない。特に欧州勢はスペインにしても日本が1次リーグで戦うフランスにしても、チームとして活動する期間はほとんどないまま東京に乗り込んでくることになるだろう。優勝候補のスペインと、日本はオリンピック本番前の7月17日に強化試合を神戸で行うことになっている。「本番前に世界のトップ3に入るような国と試合がしたい」という森保一監督の要望を聞きいれ、技術委員会としてはスペインに白羽の矢を立てて、かなり前から交渉を続けていた。準備期間が短いスペインにとっても、日本国内で本番を想定して試合ができるのは貴重な機会になるので、うまく話をまとめられた。スペイン側の希望は1日でも日本との強化試合を後ろに設定してほしいというものだった。彼らはユーロの決勝に進むことを想定し「そこからオリンピックに流れてくる選手がいるかもしれないから、1日でも多く休養が必要」と考えたわけである。実際、6月29日にスペイン協会が発表したメンバーにはエリック・ガルシア、ダニ・オルモ、ミケル・オヤルサバル、ウナイ・シモン、パウ・トーレス、ペドリと6人の欧州選手権組がいる。この陣容を見れば、今回のスペインは準備期間が短い中でも真剣にオリンピックを勝ちに来ていることがわかるだろう。オリンピックの男子サッカーは22日にスタートするが、そこから遡って5日間はどのチームも試合をやってはいけない決まりがある。スペインがオリンピック本番前にやる試合は日本戦だけ。日本、スペイン、両チームにとって実りのある試合にしたいと思っている。

日本のチームづくりは、ここまではうまく運んだと思う。「1チーム2カテゴリー」というコンセプトを基に、大きなラージグループとして強化を進められた。昨年1月のAFC U-23選手権(タイ)を終えた後、U-24代表が単独で活動したのは昨年末の国内合宿くらいだ。コロナ禍がもたらしたマイナス面を補うように、サムライブルーの活動でも常に「2カテゴリー」は意識され、オリンピック世代の選手を積極的に組み込んできた。その積み重ねでいろいろなノウハウや知見がスタッフに蓄積され、今年6月にサムライブルーとU-24を同時に走らせたときもスムーズにマネジメントができたし、活動の途中で3人のOAとU-24を融合させても何の支障もなかった。というより、ここでU-24を一気にパワーアップさせられた。6月の活動に反省点があるとすれば、対戦相手の力量が不安定だったことだ。周囲が作り出す楽観ムードはチームにとってマイナスな影響になることもあるのだから、本当はここでもっと骨の折れる試合をやって本番に向けて危機感を醸成したかったが、日本の快勝が続いて、メディアの論調は逆になってしまった。

ここまで来ると、オリンピックでの成功の鍵は心身のコンディショニングをうまく整えていくことにあると思っている。大会前の準備期間を含めると、チームは1カ月近く、寝食を共にすることになる。コロナ禍のニューノーマルな毎日は気分転換の外出もままならないのだから、プライベートな生活面では相当厳しいこともあるだろう。そのあたりの息抜きはうまくやっていく必要がある。今回オリンピックチームに初めてフィジカルコーチをメインとサブの2人置いたのもコンディショニングを重視してのことだ。試合に出てリカバリーが必要なグループと、そうでないグループとでは練習の中身は違ってくる。2つのグループを回すのに1人では無理だろうと判断してフィジカルコーチを増やした。コンディショニングの難しさはオリンピック本番前から始まる。今回でいえば、選手はシーズンのさなかにチームに合流するJリーグ組、アジア各地の戦いから日本に戻ってくる名古屋、セレッソ大阪、川崎のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)出場組、そしてシーズンオフを終えて始動したばかりの欧州組に分類できる。Jリーグ組はそれほど心配ないと思うのだが、ACL組は確実にリカバリーが必要だし、欧州組はシーズン開幕前のような繊細な作業が必要になるだろう。

オリンピック本番では南アフリカ、メキシコ、フランスという難敵とのグループリーグを突破して、何としても8月7日の決勝(横浜国際総合競技場)まで勝ち進みたいと思っている。最大で6試合を戦うことができれば、チームは一つになり、熟成は進んで上り調子のまま、9月から始まるワールドカップ・アジア最終予選に向かうことができる。オリンピックで活躍して子どもたちの間で「するスポーツ」としてのサッカーの輝きを取り戻したい。コロナ禍でじわじわと進む子どものスポーツ離れに歯止めをかけたい。そんなことも個人的に考えている。子どもが憧れの視線を送る選手に堂安律や久保建英や三笘薫にはなってもらいたいなと。最近、メディアでサッカーの情報量が減っているように感じるので余計にそんなことを思うのだ。

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