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Players’ Journey(プレイヤーズ ジャーニー) ~技術委員長 反町康治「サッカーを語ろう」第16回~

2021年12月28日

Players’ Journey(プレイヤーズ ジャーニー) ~技術委員長 反町康治「サッカーを語ろう」第16回~

日本サッカー協会(JFA)が進めようとする改革に対して、国際サッカー連盟(FIFA)はどのような意見を持っているのか。双方の理解を深めるためのヒアリングが11月にオンラインで行われた。FIFAの窓口になったのは浦和レッズやオーストラリア代表の元監督だったホルガー・オジェックさん。FIFAワールドカップの隔年開催など、いろいろなテーマについて意見交換がなされたが、その場で彼が口にした「Players’ Journey(プレイヤーズ・ジャーニー)」という言葉が妙に私の胸に残ったのだった。旅を意味する英単語はいろいろとある。「Trip(トリップ)」は短い旅だが、「Journey(ジャーニー)」は長めの旅を意味する。私がPlayers’ Journey(プレイヤーズ・ジャーニー)という言葉にひかれたのは、選手の歩みとは、まさに果てしのない旅のようなものだと感じるからだ。プロになるための道のりは険しく、日本代表になるとか、海外のトップクラブで活躍するとなると、その旅はさらに過酷なものになる。

第2次世界大戦後の英国の社会保障政策を端的に表すものとして「ゆりかごから墓場まで」というスローガンがあった。これを選手の人生に当てはめると「ゆりかご」は競技の入り口に、「墓場」はシューズを脱ぐ時になるのだろう。ただ、プロ選手の「引退」は必ずしも「墓場」を意味しない。第一線を退いても本人にその気があれば、50代、60代、70代になっても生涯スポーツとしてサッカーを楽しむことはできる。私のように引退した後でコーチ業に転身する者もいる。その場合は選手としての旅は終わるけれど、指導者としての新たな旅が始まるということだろう。いずれにしても、それぞれの旅の終わりが、どのような形でやって来るかは、本人を含め誰にも予測はつかない。それもまた旅の魅力なのである。JFAの技術委員長という職にある今は、とにかくサッカーという競技の入り口から出口まで、誰もが充実したフットボール・ライフを送れるようにすることが我々の使命だと考えている。技術委員会が取り組む四つの柱(普及、ユース育成、指導者養成、代表強化)のすべてのクオリティーを上げていく。そうすることで日本サッカーはもう一歩も二歩も先に進めると思っている。

例えば、普及に関していえば、今年は「ミニサッカーガイドライン」を作成した。その狙いを簡単にいうと、4種(小学生)年代における「スモールサイドゲーム」の奨励である。かねてよりJFAは、4種年代のゲームで選手の数を減らすことに取り組んできた。象徴的な例が今年で45回目を迎えた、年末に鹿児島で開かれる全日本U-12サッカー選手権である。この大会は2011年に11人制から8人制に試合形式を変えた。ピッチのサイズを小さくし、人数も減らすことで、一人ひとりの選手のボールに触れる回数が増えるようにしたのだ。10年の歳月をかけ、8人制は小学生年代ですっかり定着し、狙いどおりの効果が出ていると思っている。

小学4年生くらいから8人制をやるのはいいが、U-10やU-8だと8人制でも多すぎるのではないか。JFA技術委員会の普及部会がそう考え、推奨するようにしたのが4対4等のスモールサイドゲームである。8人制よりさらに狭いスペースで年齢に応じて人数を決めていく試合形式はボールに触れる機会はもっと増やせる。ボールタッチの機会が増えればそれだけいろんな感覚は養われるし、何よりサッカーをする楽しさにつながる。上手な子ばかりボールを独占し、周りはそれを眺めるだけでは子供はサッカーがつまらなくなってすぐにやめてしまう。それではゆりかご(入り口)から即、墓場(出口)になりかねない。そういう事態を4種年代で避けるために、スモールサイドゲームをもっと推奨し普及させようとなったわけである。

中学生になると大人と同じ11人制のゲームに移行していく。ここからはどれだけ選手を伸ばせるかが焦点になる。高校生については、来年から「高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグ」のチーム数を東西とも2チームずつ増やして12チームで競わせるようになる。同リーグはクラブユースも含めた高校年代の最高峰の大会として2011年にスタートした。その下のカテゴリーとして全国9地域に分かれた「高円宮杯 JFA U-18プリンスリーグ」があり、さらにその下にも各都道府県単位のリーグがある。リーグ間には昇降格があり、年間を通して行われるリーグ戦の中で培われる地力が、日本サッカーを下支えしている。その頂点に位置するプレミアリーグのチーム数を増やすのは、より能力の高い集合体を形成してインテンシティーの高い試合を増やすためだ。試合の強度を高めるために暑い夏の試合は避け、ゲームに適した環境で戦えるようなスケジューリングもしていく。

ちなみに、12月19日の天皇杯決勝に世間の耳目が集まった裏で、今年のプレミアリーグEAST王者の青森山田とWEST王者のサンフレッチェ広島ユースの〝ファイナル〟が高円宮JFA夢フィールドでひっそりと行われた。今年のプレミアリーグはコロナ禍で日程消化がうまく進まず、12日に予定したファイナルが開催できなかった。その代替えとして「JFA競技会委員長杯(プレミアリーグ 2021 EAST vs WEST)」と銘打って試合を行った。結果は2-2の引き分け。高体連の雄とJクラブユースの雄のバトルは内容も素晴らしく、この年代の未来の明るさを感じた。

我々が考える選手育成の理想的なイメージは、17歳(高校2年)でプロデビューを果たし、10代のうちにSAMURAI BLUEの一員になるというもの。冨安健洋(アーセナル)や久保建英(RCDマジョルカ)はまさにそれに当てはまる。冨安や堂安律(PSVアイントホーフェン)は13歳、14歳の頃には既に目をつけられてナショナルトレセンに呼ばれ、U-15から日本代表になって、アンダーカテゴリーのワールドカップを戦い続けてきた。しかし彼らのようにJクラブから欧州のクラブへ早々に旅立つ選手は少数派で、一般的には高校を出た後の選手(ポストユース)の強化は日本の一番の課題である。ポストユースの集合体はU-20のワールドカップやU-23の五輪を戦う母体となるだけに、早急に経験値を上げなければならないのだが、高卒1年目でJクラブや大学でレギュラーになるのはやはり難しく、必ずしも試合経験を積めていない。

これが欧州のクラブなら事は簡単だ。とにかく若いタレントを青田買いし、その後はレベルに応じたレンタル先を探し、試合経験を積みながら成長させることができる。欧州全域という単位で見たら、向こうは放牧させるクラブに事欠かない。日本は地理的にそういう鍛え方は難しい。ただ、日本には大学経由で選手を大成させる独特のパスウェイもある。世界中を見回しても、大学卒でプロになれる国は日本、韓国くらいだろう。大学に籍を置きながら、Jクラブでもプレーできる特別指定選手はJ1からJ3まで昨年は55人、今年は60人もいた。川崎の主力に育ち、海外から引き抜きの噂が絶えない旗手怜央も順大時代に2年間、川崎が特別指定で預かっていた。それもあってプロ入り後の適応は早かった。そういう日本独自のやり方も織り交ぜながら、ポストユースを鍛える方法をJリーグと連携して模索し、より良きものにしていきたいと考えている。

技術委員長という職は常にいろいろな意思決定を求められる。その際の判断基準は、日本サッカーにとって、それが本当に必要であり、良いことかどうかということに尽きる。その大前提だけは見失わないようにしている。12月19日に開催した今年の天皇杯決勝にしても、正月の風物詩となっている元日開催が普及の面では一番いいが、来年1月末のワールドカップ・アジア最終予選から逆算すると、1日でも早くJリーガーにオフを与え、その分来年の始動を早めてもらう必要があった。「プレイヤーズ・ファースト」の観点からも、そうすることが妥当だと判断した。2年前にこの仕事に就いた時は、東へ西へと日本中を旅するイメージをしていた。フットワークの軽さが取りえの僕に、そこは向いていると思っていた。しかし新型コロナウイルスに襲われ、緊急事態宣言もあったりして、全国を行脚することはこの2年、ほとんどできていない。残念ではあるが、一方でオンラインのWEB会議が日常化し、全国47FAの方とコミュニケーションを密に取る機会は逆に増えたかもしれない。オンラインだと移動の時間が省け、その分いろいろな人と幅広く接することができている。

今年1年を簡単に振り返ると、メダルをあと一歩のところで逃したのは残念だったが、東京オリンピックで強豪と戦えたのは一番の収穫だった。代表同士の試合なんてこれまではある意味でタブーとされてきたが、ジャマイカ代表の来日が遅れたことで、6月にSAMURAI BLUEとU-24代表の試合を急きょ組んで、実りあるものにできたのも良かった。コロナ禍の日々は突然、思いもしない問題が浮上し「今すぐここで決めろ」みたいな厳しい選択を迫られる。毎日のようにフレキシビリティーが問われた1年だったけれど、四つの柱のダイレクターやJFAの職員が身を削って働いてくれて、さまざまな問題に際どくもスムーズに対処できたと思う。

今年はコロナ禍で延期になったアンダーカテゴリーのワールドカップも再来年に開かれる予定で、それに向けた新体制を12月に発表できた。U-21は大岩剛監督が、U-19は冨樫剛一監督が、U-16は森山佳郎監督が2021年に行われるアジアの大会で世界を目指して戦う。すべてのチームがうまく軌道に乗っていけるように我々はサポートしていく。SAMURAI BLUEのターゲットはもちろん、来年11月にカタールで開幕するワールドカップである。そこに出るためにアジア最終予選が年明け早々に控えている。1月27日の中国戦、2月1日のサウジアラビア戦である。2試合とも埼玉スタジアムでやれることになっており、ここで最終予選突破の目処を一気につけたい気持ちでいるが、世界中で脅威が広がるオミクロン株が予断を許さない状況を生み出している。様々なことを考え出すと胃が痛くなるほどだ。

また代表戦の露出をもっと増やす必要性もひしひしと感じている。もっともっと多くの方に日本代表の試合を見てもらい、国民の皆様にサッカーから得られる喜怒哀楽の醍醐味を味わってもらいたいなと。今の選手が三浦知良を「カズさん」と慕っているのは、カズの全盛期の活躍をテレビで見て、胸を躍らせた記憶があるからだろう。子供は常に憧れや模倣から入るもの。そういう目に訴える機会が痩せていくことには危機感しかない。年明けのキリンチャレンジカップのウズベキスタン戦と最終予選のホームの2試合は強い代表をお見せして、明るい話題を提供しないといけないと思っている。幸い、森保一監督のもとで選手もスタッフもチームは一致団結している。順位もじわじわ上げて、無条件で本大会に出場できる2位まで浮上し、いい形で年を越せるようにしてくれた。来年はその流れを継続し、さらに力強いものにしてくれるでしょう。なので、皆様も安心して、良いお年をお迎えください!

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