ストーリー

【ピッチサイドストーリー】笑顔の母が見守った、娘の「やり切った」6年間~第28回全日本高等学校女子サッカー選手権・福井工業大学附属福井高校

2020.01.07

第28回全日本高等学校女子サッカー選手権大会が1月3日(金)に開幕し、連日熱戦が繰り広げられている。ここではピッチサイドで試合を応援する方々にスポットライトを当て、ピッチ上に秘められたストーリーをお届けする。

2回戦 2020年1月4日(土)/みきぼうパークひょうご第2球技場
福井工業大学附属福井高校 0-1(前半0-0、後半0-1)鳴門渦潮高校

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全国大会という大舞台に、試合前の選手たちはどこかそわそわしている。かたや監督をじっと見つめて、その話に聞き入るチームもある。試合前の過ごし方はさまざまだが、福井工業大学附属福井高校(北信越3/福井)の選手たちはピッチを挟んでベンチと反対側にいる応援団のところへ駆け寄っていく。メンバー入りを果たせなかった仲間の手を握り健闘を祈ったり、笑顔で互いにエールを送ったり。キックオフが近づいても名残惜しそうに――。

その顔が、試合が始まると必死の形相に変わる。インターハイ4強の鳴門渦潮高校(四国2/徳島)との2回戦でも、懸命に最後まで戦い続けた。だが、後半早々の失点が重くのしかかり、大会を去ることになった。

キックオフ前は笑顔を送っていた応援席へ、重い足取りであいさつにいった。号泣する選手もいたが、背番号9を着けた松原凪は試合中のような表情でぐっとこらえていた。

「なかなかゴールに近づけなくて、苦しかったです」。そう話した松原だが、一番大きなゴールチャンスをつくった。後半半ばに右サイドからにじり寄り、ゴール目前でシュートを放ったが、GKの好セーブに阻まれ、得点とはならなかった。

話をしながら、松原の目が動く。視線の先には、母・雅美さんがいた。雅美さんが近づいてくると、選手から子どもの顔になった。

松原は右サイドハーフで先発し、試合途中から中央に入った。どちらのポジションでも攻守によく走り、だからこそチャンスに顔を出せた。でも、「まったく活躍してないよね?」と雅美さんは屈託なく笑う。

松原は附属中学から、この学校で6年間もプレーしてきた。さすがに小学校を出たばかりの娘と離れるのは心配だったと雅美さんは振り返るが、「もう慣れました」と今なら笑える。高速道路を使っても2時間もかかり、簡単に応援に行けるわけではない。この全国大会はその貴重な場なのだ。

サッカーに明け暮れる娘から、連絡も頻繁にあるわけではない。「お金が必要な時だけやね。遠征費が要る、とかね」と、隣にいる娘を茶化して表情を崩す。「サッカーのことは分からない」と話す雅美さんだが、「今年はあまり結果を出していなくてね。結局、この大会でしか全国には来ていないんですよ」。娘のことは、誰よりもよく知っている。

その貴重な“再会”の場で、松原は成長の跡を母に示した。福井工大附属は1回戦で6ゴールを奪って快勝している。6点目が松原によるものだった。「ああいう試合だと点数入れられるのな。こういう切羽詰まった試合では無理やな」と、やはり母は笑っていた。そのゴールが、このチームが奪った最後の得点となった。

松原はこの試合を最後にサッカーの第一線から離れる予定だ。悔しさに口元を引き締める娘の姿を見た雅美さんは、やはり涙を見せずに語った。「やり切ったから」。親子は同じ言葉を口にしていた。

サッカー漬けの中高6年間、遠くから娘に多くを注いできた。「これから働いて、恩返ししてもらわんとね」。その時間は、たっぷりある。

第28回全日本高等学校女子サッカー選手権大会

大会期間:2020年1月3日(金)~2020年1月12日(日)
大会会場:
三木総合防災公園(兵庫県三木市)、五色台運動公園(兵庫県洲本市)、いぶきの森球技場(兵庫県神戸市)、ノエビアスタジアム神戸(兵庫県神戸市)

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