JFA.jp

JFA.jp

EN
ホーム > JFA > 最新ニュース一覧 > 9月の代表活動を振り返って ~技術委員長 反町康治「サッカーを語ろう」第24回~

ニュース

9月の代表活動を振り返って ~技術委員長 反町康治「サッカーを語ろう」第24回~

2022年10月17日

9月の代表活動を振り返って ~技術委員長 反町康治「サッカーを語ろう」第24回~

9月は各カテゴリーの日本代表チームが世界各地で活発に活動する「代表マンスリー」だった。まず、インターナショナル・ウインドー(IW)を利用してSAMURAI BLUEは2つの強化試合をドイツ・デュッセルドルフで行った。9月23日の米国戦は2-0で勝ち、27日のエクアドル戦は0-0で引き分けた。試合内容も良く、11月20日に開幕する「FIFAワールドカップカタール2022」に向けて、いい準備になったと思う。パリオリンピックを目指すU-21日本代表も22日にスイス(場所はスペインのマルベージャ)、26日にイタリア(場所はイタリアのカステル・ディ・サングロ)と強化試合を行い、スイスには1-2で敗れ、イタリアとは1-1で引き分けた。

また、U-19日本代表はラオスで開催された「AFC U-20アジアカップウズベキスタン」の予選グループCに参加。ラオス(4-0)、グアム(9-0)、パレスチナ(8-0)、イエメン(1-0)に全勝して来年3月の本大会への出場を決めた。スコアだけを見れば、U-19日本代表は楽勝の1位突破に見えるかもしれないが、最後のイエメン戦は本当にぎりぎりの戦いだった。日本に勝つためにイエメンはオールコートのマンマーク・ディフェンスを採用してきた。自分たちのオリジナルな戦い方を捨ててまで徹底して何か特別なことをやらないと日本には勝てないと、ある意味で日本をものすごくリスペクトしてチャレンジしてきたわけである。ゾーンで守る相手には隙間を見つけて、いいところに立ってパスをつないで持ち味を発揮できる日本だけれど、マンマークを徹底されてイエメン相手にはその武器をうまく使えなかった。日本の唯一の得点は78分のCKからのオウンゴールによるものだった。

日本を追い詰めたイエメンからは中東勢のセカンドグループのレベルアップがひしひしと伝わってきた。トップ集団のカタールはFIFAワールドカップ開催を追い風にさらに強化に力を注いでいる。サウジアラビアは日本が3位に終わった今年6月のAFC U-23アジアカップを制した。欧州に近い地の利を生かし、中東勢は欧州遠征を積極的に繰り返して強化に役立てているという。そういう切磋琢磨が中東全体のレベルアップにつながっている。ウズベキスタンもアンダーエージから我々の脅威であり続けているし、これからもアジアの〝中央〟や〝西〟への注視を怠ってはならないと痛感している。来年3月のAFC U-20アジアカップウズベキスタンは、来年5月にインドネシアで開催されるFIFA U-20ワールドカップの最終予選も兼ねている。イエメンに苦戦したU-19日本代表の選手たちには少しでも多くの国際経験を積ませて、いい形で来年の戦いに臨ませたいと思っている。

U-21日本代表も、コロナ禍で失った強化の機会を取り返すべく、今は積極的に国際経験を積む時期だと認識している。それで今回はJクラブの協力を得て、欧州遠征を実現することができた。日程的にはかなりハードだったかもしれない。東京からドバイ経由でマドリードに入り、そこから電車、バスを乗り継いでスイス代表がキャンプを張るマルベージャに乗り込んだ。その後、再び飛行機に乗ってローマに飛び、イタリア代表と戦った。スイスやイタリアが相手だとインテンシティがキーワードになって、アジア勢となら握れる主導権が簡単には握れない。相手が繰り出す強度の高さに必然的に付き合わされ、日本のリズムで試合ができなくなる。欧州での2試合は試合後にたくさんの課題がチームに見つかり、日常の改善に目が向くという波及効果もあったと思っている。

コロナ禍でこの2、3年、国際交流が途絶、減少したことによる〝後遺症〟は想像以上にあるのかもしれない。率直に言って、スイス、イタリア戦には世界との差の開きを感じた。特にそれを顕著に感じたのが守備のアプローチ。スイスとイタリアに共通していたのは、ゴールキーパーから始まる相手のビルドアップに対して、前からボールを奪いにかかる、いわば前線の選手が守備網全体を引っ張る「プル型」の守備をしていたこと。一方の日本はまだ、うかつに前から行くよりも守備の陣形を整えることを優先させ、整然とスリーラインの隊列を組んでから前に押し出す「プッシュ型」の守備がもっぱらだった。プル型の守備を仕掛けるスイス、イタリアは人に強いし、連動する意識も旺盛。スプリントの回数は多く、ハイスピードというか、高強度のランを惜しまず繰り出した。交代選手が3人から5人に増えたこともあり、出力を抑えて90分間持たせるよりも、交代のカードを積極的に切って、チームとしてインテンシティの高さを保つことに傾注する。そういう相手に対して、日本はワンタッチをうまく使って相手のプレスをはがせるシーンもあったけれど、ファイナルサードの精度が高くないので「決め」のところで引っかかることが多かった。それでシュートやゴールまでに至らないということが課題として浮き彫りになった。

スイス戦では交代で入った選手の息が上がるということもあった。日本の常識では試合終盤なら全体のペースは落ちていて、交代で入った選手はブースターの役目を果たせるもの。ところが、そんな時間帯になってもスイスのインテンシティは序盤と同じなままで、その急流にうまく乗ることができず、呼吸が「はあ」「はあ」と乱れてしまったわけである。高いインテンシティの応酬が90分間続くゲームが日常的になされていれば、そういう問題は起きないのかもしれないが、日本国内にそういう環境は乏しい。それゆえに「このままではまずい」と思う選手ほど、欧州への移籍を考えるのだろう。既にパリオリンピック世代には小久保玲央ブライアン(SLベンフィカ)、田中聡(KVコルトレイク)、斉藤光毅(スパルタ・ロッテルダム)など欧州組が何人かいる。我々のような代表の強化担当者にとって、オリンピック世代に海外組が増えるのは痛しかゆしの面がある。欧州のハイレベルな環境で才能に磨きがかかるのはいいことだが、代表招集は格段に難しくなるからだ。ご存じのとおり、オリンピック予選はIWの対象外であり、所属クラブに選手をリリースする義務はない。オリンピックに対する考え方の違いから、欧州のクラブは本番はもちろん、アジア予選に選手を快く送り出してくれないこともある。オリンピック世代に海外組が増えるほど、各所属クラブに理解を求める折衝をかなり丁寧にやる必要が出てくるわけである。それはこれから先の話として、とにかく今回のスイス、イタリア戦はチームにいいインプットができたと思う。昨年の東京オリンピックでベスト4まで進み、世界の背中に手が触れられるところまで来た気になっていたが、今回その距離が開いた気がした。スイスに右の頬を、イタリアに左の頬を連続でたたかれたような。でも、それで落ち込んでいるわけではない。早い段階で目を覚ますことができたのを幸いに変え、ここから自分たちでパリオリンピックの金メダルを目標に、いいアウトプットをするだけのこと。U-21日本代表には11月も海外へ武者修行に行ってもらうつもりでいる。

SAMURAI BLUEは9月の2試合が最後の選考対象試合となった。今回はデュッセルドルフというJFAが欧州に拠点を置く場所だったこともあり、海外開催でありながら運営は非常にスムーズに行えた。日系企業が多く進出し、在留邦人が約8千人も住んでいるところで「リトルトーキョー」と呼べる一角もある街だから、身構える必要をあまり感じず、シュテファン・ケラー市長も我々を大いに歓迎しくれた。同市と千葉県は姉妹都市関係にあり、ケラー市長は千葉・幕張にある高円宮記念JFA夢フィールドを表敬訪問してくれたこともある。会場となったアレーナは市の持ち物で開閉式の屋根がついているが、地元のクラブの試合では雨が降っても屋根を閉じることはないそうだ。それが今回のエクアドル戦でわざわざ屋根を閉めてくれた。明らかに市の好意だった。練習の合間に地元のインターナショナルスクールの生徒たちと写真撮影などの交流・普及活動を合わせてやれたのもよかった。エクアドルのサポーターの多さにもびっくりした。これは想定外。ぎりぎりになってコミュニティーからの問い合わせが増えたと聞いた。おかげで会場の雰囲気が国際試合らしくなった。

米国もエクアドルもワールドカップに出てくるチームだけに、緊張感のある本番に近い試合ができたと思う。実感したのは欧州で試合をする時の海外組のコンディションの良さだった。時差も移動もないから睡眠時間を含めた休養が十分に取れる。それが試合内容の濃さに直結した。2年前にオランダ、オーストリアで親善試合をやった時も感じたことで、日本国内軽視と思われると困るけれど、欧州でキリンチャレンジカップをやるありがたみと意義を改めてかみしめた。米国戦は走力という面でインテンシティの高いゲームができた。数字で見るとSAMURAI BLUEのフィールド・プレーヤーの「時速20キロ以上の速さで走る割合(高強度ラン)」のパーセンテージはここ2年で初めて10%を超えた。これは我々が目指しているところである。対戦相手のアメリカも10%を越えていたのでお互いにスピードという視点からみるとインテンシティの高い試合展開だといえるだろう。エクアドルにはスター選手はいないけれど、組織としてまとまりがあり、外したと思っても完全には入れ違えない体の強さがすごかった。おかげでデュエルの面でインテンシティの高さが求められる試合になった。日本の良さも出たし、短期間でも意識して向上しなければならない課題も見えた。最大の収穫はケガ等でチームを離れる選手も出たが、当初の予定どおり、ほとんどの選手をゲームに関わらせることができたことだろう。チームを二つに分けても力は遜色ないということも確認できた。

立場上、あまり個人に寄った話はすべきではないが、冨安健洋(アーセナル)が久しぶりに代表に合流し、90分間フルに試合ができたのはうれしかった。センターバックでスタートし、酒井宏樹(浦和レッズ)がベンチに下がった後半は右サイドバックも務めた。所属クラブで充実の時を迎えている守田英正(スポルティングCP)、遠藤航(VfBシュツットガルト)の出来も素晴らしかった。UEFAチャンピオンズリーグにレギュラーで出場する守田は欧州のインテンシティの高さに完全に適応した感がある。金曜日にスポルティングの試合があったので、エクアドル戦が終わるとそのままスタジアムからポルトガルのリスボンに直帰し、すぐに試合に出場した。これも欧州で試合をやったことのメリットだろう。今回の遠征にはSAMURAI BLUEのキャプテンだった長谷部誠(アイントラハト・フランクフルト)が顔を出してくれた。長谷部は現役選手としての活動と並行してドイツで指導者ライセンスを取得中。4年前までともに戦った代表の「今」を気にしてくれたのだろう。チームのミーティングにも参加し、我々スタッフとも「ドイツではこういう感じでやっている」と意見交換ができた。ほんの短い間だったけれど、お互いにとって有意義な時間を過ごせたと思う。

スタッフの体制も活動もカタールのワールドカップ本番を見すえたものだった。準備段階でのフィジカルのデータの取り方を含め、ワールドカップを完全にシミュレーションして動いた。11月にカタールに集合して「いざ」という段になって、悪い意味でのサプライズがまったくないようにするために。一つの集団になって、あらゆる面で万全な状態をつくり、チームを本番に臨ませるのが我々スタッフの仕事だから。そのために、7月のE-1選手権から毎朝、広報やメディカル、分析担当、エキップ、ロジ担当、代表シェフの西芳照さんら各セクションの代表者を集めて対面でミーティングも行っている。本番が近づくにつれ、スタッフの数はどんどん増え、各セクションの仕事の量もみるみる増えている。その処理に追われるほどに、別のセクションとの意思の疎通は逆にどんどんおろそかになりかねない。それを危ういと感じたからだ。他のセクションが今、どんな取り組みをし、どんな問題を抱えているか。それを互いにわかり合っている方が全体の仕事はスムーズに運ぶし、一体感も醸成されるに違いない。そう考えての〝朝礼〟の導入である。単純に情報共有を徹底するだけでなく、自分たちの思いをぶつけ合える場にもしたかった。この取り組みはワールドカップでも継続してやっていこうと思っている。

11月1日にはワールドカップに臨む26人のメンバーが発表される。森保一監督はこの件に関して完全に最終決定権を持ち、私を含め周りがとやかく言うことはない。従来の6月開催のワールドカップの場合、時期的に選手の移籍が絡んだりするが、今回はそういう雑音を気にすることなく最終メンバーを選べるのはいいことだろう。どういう顔ぶれになるにしても、チームが一心同体であることに変わりはない。メンバー発表をした後もそれぞれが所属するリーグの試合は続くから、それからケガをする不運な選手も出てくるかもしれない。そういう意味で本当に最後の最後まで気の抜けない時間が続くことになる。ここまでSAMURAI BLUEはコロナ禍でも決して歩みを止めることなく、充実した活動を送ってきたと思っている。アジア最終予選で苦しい時期もあったが、苦しんだからこそ得られたものもあった。私が技術委員長になってから、スタッフにセットプレー・コーチやフィジオセラピストを加えるなど、チームのためにプラスになると思ったことは積極的に採り入れてタイムリーに援護射撃の体勢を整えてきたつもりでいる。本大会のために用意する練習場も宿舎も万全を期した。これまで山あり、谷ありだったけれど、基本的に準備はいい方向に進んできたと感じている。つくづく思うのは、こうやって何をやっても、何が起きても、不安を感じてしまうのがワールドカップというものなのだろう。そこに不安、怖さ、重さがつきまとうからこそ人事を尽くす気にもなるし、どんな天命が下っても、受け入れる覚悟を持てる。

アーカイブ
JFAの理念

サッカーを通じて豊かなスポーツ文化を創造し、
人々の心身の健全な発達と社会の発展に貢献する。

JFAの理念・ビジョン・バリュー