アクセス・フォー・オールハンドブック テキスト パート3の3 障がい者 【27ページ】 「障がい者」  内閣府調べによると、障がい者は、全国に1,160万人(9.2%)とされており、年々増加傾向にあります。知人や家族、一時的なもの、または加齢によるもの等も含めて考えると、実に多くの人に関わることであり、全く無縁の人はいないのではないでしょうか。 データ 障がい者の種別の内訳は、精神的障がいが53%、身体的障がいが37.6%、知的障害が9.4%です。 背景を知ろう!  「スポーツ基本法」と「スポーツ基本計画」が2011年に改定され、障がい者スポーツの振興について言及されました。また、以前はスポーツは文部科学省管轄、障がいについては医療との関連で厚生労働省管轄に分かれていましたが、2015年にスポーツ庁ができ、障がい者スポーツがスポーツ庁管轄となりました。2012年のロンドンパラリンピックが成功をおさめ、障がい者スポーツの理解が深まり、社会変革につながる大きな成果を上げました。日本でも2013年に2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催が決まり、この機会が障がい者スポーツの理解を日本で深めるための大きな契機となることが期待されました。  一方、海外のサッカー界の状況を調査してみると、先進事例がありました。特にイングランドの取り組みが非常に進んでおり、そこから多くを学びました。  日本サッカー界としては、以前は組織としての取り組みがありませんでしたが、2014年にグラスルーツをあらためて捉え直し、「JFAグラスルーツ宣言」を出し、「サッカーをもっとみんなのものへ」とする中で、「年齢、性別、障がい、人種等に関わりなく、だれもが、いつでも、どこでも。」と、初めて「障がい」を明記し、サッカーファミリーの仲間と捉え、組織としての取り組みを開始しました。 (1) 組織づくり 7つの障がい種別団体との連携・組織強化地域、FA、Jクラブ等との連携会議 2016年に日本障がい者サッカー連盟(JIFF)を設立し、日本に障がい種別ごとにある協会・連盟を統括してJFAと向き合う体制を整え、JFA加盟団体となりました。「広くサッカーを通じて、障がいの有無にかかわらず、誰もがスポーツの価値を享受し、一人ひとりの個性が尊重される活力ある共生社会の創造に貢献する」ことを理念として活動しています。また、都道府県内での障がい者サッカー全体を統括する組織づくりを推進しており、地域の障がい者サッカーチーム、FA、Jクラブ等が連携し、普及状況に合わせた活動ができる仕組みを構築しています。 (2) 指導者養成 場づくりのキーマンとなるJFA登録指導者に対して障がい者サッカー指導リフレッシュ研修を提供し、障がいがある選手と共に楽しむためのトレーニングセッションやゲームの考え方を伝えています。 (3) 啓発活動 JFAでは、ハンドブックを3種類(障がい者サッカー紹介、指導者向け、審判向け)作成し、指導者・審判指導者講習会等で配布して啓発活動を行っています。また、各団体の活動をJFAのメディアを通じて情報発信をしています。 (4) DEI推進 障がい者サッカーで培われる強みを活かし、小・中学校向けの出前授業や企業向けの研修等を行い、障がい者へのマインドセットを変えるインクルーシブ教育の取り組みを行っています。 アクションを起こそう! 「する」 相手を知ることで壁を取り除く インクルーシブフェスティバル等  障がいの有無や種別等、様々な「違い」を超えて障がい児者と健常児者が混ざり合い、?緒にサッカーを楽しむことでお互いの理解が深まります。  JIFFでは、設立初年度の2016年から毎年12月に 「JIFFインクルーシブフットボールフェスタ」を開催しています。?学?を対象とした「まぜこぜサッカー」、障がい種別や年齢、性別、サッカー経験の有無等も関係なく、楽しめる「まぜこぜウォーキングフットボール」等のインクルーシブフットボールや、障がいのある子どもとサッカーとの出会いの機会を創出するコンテンツ等を実施しています。様々な協力者を得て、広島、茨城、神奈川等全国にも広がりつつあります。 インクルーシブフットボールフェスタとは サッカーを通じて障がい児者と健常児者が交流をはかり相互理解の機会をつくることを目的とするもので、開催地域のFA、プロサッカークラブ、フットサルクラブや障がい者サッカーチーム等が連携して開催しています。 まぜこぜサッカー 障がい児も健常児も?緒になって混合チームで?うサッカーです。 特に子ども年代からまぜこぜの環境を経験することの重要性を感じ、実施しています。 まぜこぜウォーキングフットボール ウォーキングフットボールとは歩いて行うサッカーで、「まぜこぜウォーキングフットボール」は、障がいの有無や種別、年齢や性別等関係なく混合チームをつくり、様々な違いを超えて一緒に楽しめるよう、一部特別ルールを設ける等工夫して行います。 「する」 障がい者がサッカーをする場を広げる 様々な組織が場作りに取り組む、サッカーをする場の選択肢を増やす @ レベルや状況に応じて健常者と共にプレーする場があるという認識を持つ グラスルーツばかりでなく障がい者サッカーをエリートレベルでプレーする選手の中には、国内外の高いレベルで健常者と共にプレーする選手がいます。レベルや状況に応じて共にプレーする可能性があることを知っておきましょう。 A パンディスアビリティフットボールの機会創出 障がい種別によっては、また地域によっては、選手数が少なく、その中だけでサッカーをする機会が 十分に持てない場合が多くあります。イングランドやウェールズの事例を参考に、障がい種別を横断し、またそこに健常者も参加する形で、パンディスアビリティフットボールの機会をつくり始めました。レベルに応じて思い切りサッカーを楽しむ、トレーニングをする場を定期的に増やすことを目指しています。 B JFA障がい者サッカー指導リフレッシュ研修 共にプレーする際の基本的考え方と配慮の工夫に ついて学びます。少しでも日常の場が増えること、より良い環境で迎え入れる場が身近で増えていくことを期待しています。修了者は、JIFFのインクルーシブフットボールコーチまたはJIFF普及リーダーとして登録いただき、随時関連情報等をお知らせしています。ブラインドサッカー、知的障がい者サッカーに関しては、各団体がそれぞれの指導をさらに深める講習会を提供しています。 C 健常者と共にプレーする場合の補聴器の装用 デフサッカーは補聴器を外してプレーしますが、健常者と共にプレーする場合にはその限りではあり ません。WEリーグやFIFA U-20女子ワールドカップでも装用しての出場実績があります。しかし、地域や大会ごとに補聴器の使用可否の判断が異なり、プレー機会に差が生じていました。JFAは、2024年に改めて方針を通達し、安全を確認した上で装用してプレーが可能であると示しました。 D 男性の5パーセント、20人に1人は色覚障害 色覚異常とは、色の違いが分かりにくかったり、違う色でも同じ色に見えたりすることが代表的な症状です。日本では、「先天色覚異常」とされる人が潜在的にいるとされ、サッカーの現場で身近な選手にも関わる可能性が予想されます。もしもわかっていれば、練習においては見やすい環境やビブスの色や組み合わせ等、工夫の余地があり、プレーしやすさに繋げられる可能性があります。ヨーロッパサッカー連盟(UEFA)でもサッカーに関わる色覚障害についての資料が提示されています。 「見る」 様々な場面を想定してアクセシビリティを考える スタジアムアクセシビリティの検討 センサリールーム等の取り組み  例えばスタジアムの行き帰り、スタジアム内のアクセシビリティは十分でしょうか。チケットを購入する際のWebアクセシビリティは確保されているでしょうか。様々な種類の困り事があることを理解し、様々な場面を想定してどのような対応が可能か、アクセシビリティについて考えてみてください。  スタジアム内の案内、試合情報の提供等の伝達手段として、声かけによるサポートはとても重要です。さらに大型ビジョンで映像を流す、音声ガイド・触地図・拡大ガイドブック・筆談ツール等を活用する、といった取り組みも進んでいます。  車椅子席の設置においては、家族や友人と楽しめるか、視野の確保は十分か(旗や前の席の人が立ってしまって遮られる等)、行き帰りの導線は確保されているか等、観戦するための環境が整っているかの確認が大切です。特に帰りはエレベーターは、使用が集中するため適切な調整が必要になります。  人混みや大音響等の刺激が苦手な人にもサッカーを楽しんでもらえるように、それに対応したスペース(センサリールーム)の設置をJリーグ、WEリーグやJFA主催大会等では実施しています。  JFAは、障がい者の方々が安心して観戦できる環境を整えるため、SAMURAI BLUEの試合では専用シートを設置し、家族や友人と共に楽しめるようにしています。知的発達障がい者には、試合の進行や演出を事前に伝える見通しシートを配布、試合中に一時的に落ち着けるスペース(カームダウン・クールダウン)を用意。視覚障がい者には、ボールや選手の位置、試合の状況が把握しにくいという課題に対し、スマートフォンとイヤホンを用いた専用実況解説を提供し、ピッチサイドに近い座席で臨場感を確保。1人でも安心して来場できるよう、スタッフが適切な対応を実施しています。スタジアムの施設や環境によっては、ハード面の変更は容易にはできないかもしれませんが、ソフト面で工夫し解決できることもあります。 センサリールームとは 明るすぎない照度と、大きな音や声等の大音量の遮音が施され、人混みや周囲の視線を避けた安心できる部屋で、防音ガラス越しにサッカー観戦や映画等を楽しめることを目的とした部屋。目的の前提には、見方や楽しみ方の「方法」が多数派とは違うだけで、困りごとがない人たちと同様に「観る」「楽しむ」といった思いは一緒であるとの考え方があります。イングランドやカタールでも多くのスタジアムにセンサリールームを設置しています。 カームダウン・クールダウンとは 慣れない移動や、様々な人や音、光、におい等の混在により不安やストレスを感じて困っている発達障がい等見た目にわからない障がいのある人達が、ストレスを減らし落ち着くことができ、パニックを防ぐことを目的としたスペース。目的の前提には、移動や非日常的な空間において、感覚過敏の特徴に状況判断等の苦手さも伴って、不安や心配を強く感じてしまう発達障がい等見た目にわからない障がいのある子ども達の安心安全を、スペースの存在で担保する考え方があります。 「関わる」 様々な役割でサッカーに関わって活躍する 指導者講習会参加のためのガイドラインと配慮 情報アクセシビリティの確認  障がい者がプレーするばかりでなく、様々な役割でサッカーに関わって活躍することも、健常者と同じように考えられます。わからないから、前例がないから、何かあったら困るから、ということで断ってしまうことなく、状況を確認して合理的配慮に結びつけられるための考え方の整理が大切です。  以前より、障がい者が指導者講習会を受講することがあり、様々な対応で実現してきました。経験により、知見が蓄積されてきています。障がい者差別解消法が改正となったことで、事業者側に合理的配慮の提供が求められるようになってきています。受講申し込み受付から判断に至るプロセスに関わる人で、考え方を共有しておく必要があります。  以上の背景から、あらためて受講のためのガイドラインと事前準備のためのフローやチェックリスト等を整備しています。大きくは物理的なアクセシビリティと、情報保障の2種類になります。物理的なアクセシビリティについては、会場の設備(階や段差、トイレ等)、情報保障については、障がいに応じた教材の提供方法や機材活用等、様々な対応策があります。まずはJFAにご相談いただければと思います。聴覚障がいの場合には、JIFFによる手話通訳費用補助制度をご活用ください。  情報保障の面では、申し込みにくくなっていないか、問い合わせや相談がしにくくなっていないか、今一度確認をしていただければと思います。情報のとりにくさ、伝えにくさ、活動のしにくさにはいろいろな種類があるので、できれば複数の選択肢があることが望ましいとされています。 JIFFアクセシビリティ補助制度とは JIFFでは、障がい者がサッカー・フットサルの指導者講習会や審判講習会等へ健常者と同様に参加できるようにするため、講習会主催者へアクセシビリティ対応への費用補助をする制度を設けています(2018年度?2024年度までの「手話通訳費用補助制度」を2025年度より拡充)。これまで、障がい者が講習会等に参加するには、主催者は予算的な問題でアクセシビリティ対応が難しく、障がい者は参加を断念することも多くありました。ライセンス獲得を目指す障がい者の経済的負担と不安を取り除き、健常者と同様に不便なく講習会へ参加できるよう、本制度を策定しました。障がいの有無にかかわらず一緒にスポーツを楽しみ、高め合う社会をつくるには、障がい者が健常者と同じように、選手としてだけではなく指導者や審判員としてもチャレンジできる機会をつくることが必要です。主催者の皆様はぜひ制度をご活用いただけますよう、お願いいたします。 【32ページ】 国内外の事例をご紹介します。 「する」 知的障がい者のプレー機会創出 「横浜F・マリノスフトゥーロ」 Jリーグ初の知的障がい者サッカーチームとして2004年に発足しました。横浜ラポール・横浜市スポーツ協会と協力して運営。また2018年度から横浜市社会人リーグに登録して健常者のチームとも試合を行っています。地域のイベントやサッカー教室等のサポートも積極的に行っています。現在、約100名の選手が在籍しており、チームはレベル別に編成されているので、経験の有無にかかわらず参加することができます。 「あおぞらサッカースクール」 FC東京は、知的・発達障害のある子どもを対象とした「あおぞらサッカースクール」を開催。調布市と連携し、月一回の割合で開催しているもので、障がいの特性に応じた指導方法で知的障害や発達障害の子ども達が安心して楽しみながらサッカーを学べる学べるプログラムを提供しています。 「ヴィンセドールルミナス」 ヴィンセドール白山(Fリーグ)は、2021年にソーシャルフットボールチーム「ヴィンセドールルミナス」を設立しました。精神障がいのある人達が継続的にフットボールをプレーできる機会が不足していたことから、安心してスポーツを楽しめる環境を広げようと活動しています。現在は小学生から60代までの選手が所属しています。 @ 地域密着型のソーシャルフットボールチームを創設 A 障がいの有無に関係なく参加できる仕組みを構築 B 地域社会との交流を促進 「みる」 スタジアムにセンサリールームを設置 「川崎フロンターレ」 感覚過敏や発達障害のある子どもが安心して観戦できるよう、 2019年に日本初の試みとして等々力陸上競技場(現Uvanceとどろ きスタジアムby Fujitsu)にセンサリールームを設置し、音や光、に おい等の刺激を抑えた空間を提供し ました。その後、他クラブや他競技 にも拡大。現在では、多くのスタジ アムに設置されるようになりました。 「全般」 試合会場にリレーションセンター設置 日本ブラインドサッカー協会(JBFA) JBFAは、障がい者や一時的に身体機能が低下している人が試合観戦を楽しめるよう、リレーションセンターを設置し、試合会場での情報提供やサポートの不足に困ることのないようにしています。 @ サービス介助士(注)によるサポート A 音声ガイドシステムや触地図、拡大ガイドブックの提供 B 筆談ツールを活用した情報保障 サービス介助士とは年齢や障害の有無にかかわらずに誰もが社会参加できるように必要なことをその人、その場にあったやり方で出来る(=ケアをフィットする)人です。 【33ページ】 コラム デフフットサル女子日本代表主将 岩渕 亜依さん 耳が聞こえない子ども達が、どのような環境でも受け入れてもらえるような社会になるように  私は、高校までは地元の地域の学校に通い、卒業後、視覚障害と聴覚障害の学部を併設している大学に進学しました。小学校ではサッカーをやっていましたが、中高はソフトボール部に所属。大学で先輩に声をかけられて、またサッカーをプレーするようになりました。私にとっては、サッカーを再開したという感覚でしたが、まわりには耳が聞こえない人ばかりだったので、自然とデフサッカー・デフフットサルを始めることとなり、今に至ります。  耳が聞こえないという障がいについて、私自身は、コミュニケーションの問題、方法が異なるために情報を取りに行くことができない障害だと考えています。マジョリティである健常者は、声でコミュニケーションをとれますが、私達は手話を使います。耳から情報を取りに行くことはできません。私はそのコミュニケーションの難しさを、進学などの環境が変わり人間関係がリセットされるときに特に感じてきました。耳が聞こえないという自分の特性、できること、できないことを受け入れてもらえるかという不安が生じます。優しい人もいればそうではない人もいます。代表選手になってから、レベルの高いチームでプレーするために、耳の聞こえる健常者のチームに入ったのですが、受け入れてもらえるだろうかとはじめは不安になりました。こういったコミュニケーションの困難さを自分自身はまだ乗り越えられていないと思っています。  それでも、チームが勝つためにはコミュニケーションが必要です。学生時代に代表選手として考える時間を得て、この必要性に気づいたとき、自分から、少しずつコミュニケーションがとれるようになっていきました。コミュニケーションのためには目の前の人を理解したいという気持ちが大切です。相手が自分を理解する必要もありますが、私自身もチームメイトを理解する必要があります。一人ひとりを理解しようと思って接していくと、良い関係がつくれると思えるようになりました。  今後、目指していることや実践していきたいことが3つあります。まずは、選手として結果を残したいということです。6月にイタリアでデフフットサルのワールドカップが開催されます。前回優勝していますので、連覇を目指します。また、11月には東京でデフリンピックが開催されます。サッカー競技に選出されたら、結果を残したいです。もう1つは、デフの子ども達のスポーツの選択肢を増やす活動です。聾学校のサッカーの体育の授業でフットサルの講師をしていますが、これを継続していきたいと思っています。最後が、デフフットサルの理解を広めていく活動です。競技人口が少なく、健常者のチームに入る方も多いと思います。そのとき、チームの方の理解は必要になっていきます。そこで、デフフットサルの体験会を開催し、耳が聞こえない子どもだけではなく、耳が聞こえる子どもや大人と一緒に、耳が聞こえない人とのコミュニケーションをとるにはどうしたら良いのか、普段どうやってコミュニケーションをとっているのかを体験していただきながら、理解を深めていただいています。  耳が聞こえない子ども達が、どのような環境に入ったとしても受け入れてもらえるような社会になるように活動していきたいです。 【34ページ】 コラム ロービジョンフットサル選手 JFA職員 岩田 朋之さん 障がい者サッカーを「ムーブメント」から「カルチャー」へ  26歳でレーベル病を発症し、視覚障がい者となりました。視野全体が白くぼやけ、特に中心が濃く白い霧がかかった状態で、完全に見えないわけではないのですが、それまでの仕事を続けることが難しく、2013年から理学療法士の資格を取得するために大学に通いはじめました。小学生からサッカーが好きでしたが、本格的に選手としてスタートしたのはこの頃からです。  きっかけは、2013年6月、友人に強く誘われたFIFAワールドカップアジア最終予選。本田圭佑選手のPKは、双眼鏡越しに目を凝らした状態でも、髪の毛の金色と青い塊がぼんやり見えているだけでしたが、地響きのような6万人の歓声に「夢」を信じる気持ちを取り戻し、いつかサッカーに恩返しがしたいと思うようになりました。やがて、本田選手のゴールを支えに選手としての挑戦をし、ロービジョンフットサルの日本代表選手としての活動がはじまり、視覚障がいの子ども達と接する中で、子ども達の目指せる場所をつくっていきたいと思い始めました。2017年、パラスポーツ研究のため筑波大学大学院に進学。その頃、イタリアで開催されたロービジョンフットサル世界選手権でイングランド代表のキャプテン、ステファン・デイリー(スティーブ)と出会いました。彼と話すうちに、次第に自分が抱えている問題にまで話がおよび、日本のパラスポーツが盛り上がる一方で、マイナースポーツのままである自分達の競技やロービジョンフットサルや障がい者がサッカーを楽しむ環境を変えるためにもがいていること等、思いの丈を伝えました。すると彼は、「日本はまだムーブメントなんだ」と、そして「これからカルチャーにしていくことが、君のこれからの人生の旅だね。トモ、グッドラックユアジャーニー!」と言ってくれました。  大学院修了後、2018年、イングランドのロービジョンフットサルの代表監督でサッカー協会の職員でもあるイアン・ベイトマン氏の支援のもとイングランドのフットボール文化を学ぶ機会を得られました。特にイングランドの障がい者サッカーの指導者養成の仕組みを聞くことができました。何よりも指導者の姿勢に心を動かされました。日本では周囲からロービジョンは「見た目では何が障害なのかわからない」と言われることもあり、指導者にとっても、ときにもどかしさを覚えるのではないかと感じていました。しかし、イングランドの指導者達は、健常者のサッカーと比較するのではなく、ロービジョンフットサルという競技そのものを当たり前に認め、主役はその選手達だと考えていました。イアン監督は、常に誰のためのフットボールなのかを考えて指導していると言い、今は自分が監督としての役割を果たしているが、いつかスティーブが監督を務めるだろうと将来を見据えていました。実際に、スティーブは2023年にイングランドでの世界選手権で代表監督としてチームを率い、その後、性別や障がい者の違いを超えて、今はデフフットサル女子イングランド代表監督に就任。パラスポーツやフットボールへの貢献が認められ、2020年に英国王室からMBEという勲章を与えられました。2019年、スティーブが代表選手としての最後の大会に、彼と私はある約束をしました。「トモ、いつか互いに監督としてワールドカップの決勝で戦おう」その約束を果たすためには、自身の指導者としてのレベルアップと環境が整備されることの両方が必要です。  私は現在JFAで働いており、中央競技団体だからこそできる仕組みづくりに多くの仲間と一緒に取り組んでいます。特に同僚の仲井健人さん(デフサッカー選手/JFA職員)とは、同志としてアクセス・フォー・オール推進に向けて力を合わせて取り組んでいます。指導者としては、C級コーチとフットサルC級を取得したところですが、取得にあたって得たインストラクターや受講者仲間の存在はかけがえのないものでした。指導者講習会受講の経験を活かして、障がいのある人が指導者となる仕組みをより一層整えていきたいと考えています。「障がいのある人にとって日本が世界で一番サッカーを楽しめる国にする」ことが新しい「夢」であり、これからも障がい者サッカーを「ムーブメント」から「カルチャー」へと日本が変容していくように貢献し続けます。