アクセス・フォー・オールハンドブック テキスト パート3の2 LGBTQ+ 【23ページ】 「LGBTQ+」 近年、オリンピック等でも、各種目でLGBTQ+について話題に上がることが増えてきています。もともと存在した人達が顕在化してきたと言えます。社会全体で、そしてスポーツの現場でも、情報にふれる場が増えてきました。ある調査によると日本のLGBTQ+の割合は約10%と言われています。 ※異性愛者であり(ヘテロセク シュアル)、生まれた時に割り当てられた性と性自認が一致する(シスジェンダー)に該当する回答者以外を「LGBTQ+当事者層」と定義 【24ページ】 背景を知ってアクションを起こそう! 近年、一般社会でも、スポーツ界でも、LGBTQ+が話題に上がることが増えてきています。エリートレベルでは、東京オリンピックでは186人、パラリンピックでは36人の参加が話題となりました。 特に競技の面では、トランスジェンダー選手の競技参加が話題になることが増えています。国際オリンピック委員会、各競技、各国でのポリシーの検討・表明が始まっており、IOCでは2003年以来、検討と発信が重ねられています。海外からも様々な話題が入ってきています。主にエリートレベルのものですが、それだけでなく、グラスルーツレベルでも競技運営や指導者からの問い合わせも入ってくるようになっています。  スポーツ界、サッカー界全体としては、DEIの考え方が浸透してきています。一方、日本の件数が少ないことも知られています。社会・文化の影響を多分に受けていることが予想されます。表面的に数が増えるべきということでは決してありませんが、表面化しにくいということには、よく考える必要があります。また、社会や文化の違いによると思われる特徴も、意識していくことが重要です。  LGBTQ+は性的指向と性自認について示した言葉ですが、サッカーの「する」「見る」「関わる」に、本来性的指向は障壁にならないはずです。障壁になるのが偏見や差別だとしたら、それに対して発信していく必要があり、それには啓発が欠かせません。正確な情報を伝えていくことが何より重要です。  トランスジェンダーの競技参加について、IOCをはじめとし各競技団体が取り組んできていますが、まだまだケース数が少なく、研究・議論は途上段階にあります。当初はスポーツ全体での考え方とされていましたが、競技特性等の要素が強いので、競技ごとに検討することになっています。国内では、いくつかの競技団体がポリシーをまとめ発信しています。  サッカー界においては、イングランドやドイツ等が、すでにポリシーを発信しています。2025年3月には、AFCがAFC大会への参加に関わるポリシーを発信しました。専門家グループが様々な要素を勘案してケースバイケースで対応することとなっています。これは各国でのサッカー活動への適用を意図するものではありません。JFAでも対応の必要が生じた場合、専門家からなる医学委員会内のアドバイザリーボードが依頼に応じて専門的見解を出すことで対応していきます。今後も継続して海外動向や他競技含めた動向を見つつ、楽しめない人、アクセスできない人の存在への理解を深め、その上で誹謗中傷や差別を防ぐためにも啓発、相談対応等の装備を整えていくことが必要と考えています。 「LGBTQ+について」 「男性」と「女性」に分かれて競技をするスポーツ文化の中で、残念ながらLGBTQ+の人達は様々な困難を抱えた状況にあります。誰もが安全・安心にスポーツを楽しむためには、LGBTQ+について正しく理解することが大切です。LGBTQは下の5つの言葉の頭文字からきています。LGBTQだけに収まらない性の多様性をプラス(+)で表現しています。 L レズビアン 自分が認識している性別が女性で、女性が恋愛対象の人 G ゲイ 自分が認識している性別が男性で、恋愛対象が男性の人 B バイセクシュアル 男性も女性も恋愛対象の人 T トランスジェンダー 生まれた時に割り当てられた性別と、自分が認識している性別に違和感がある人 Q クエスチョニング 誰を好きになるか(ならないか)や自分がどんな性別なのかを決められない、分からない、あえて決めない人 なお、Qは、クィアとも言われます。自分が感じている性別や誰を好きになるのかが非典型で多数派ではない人のことを言います。 【25ページ】 国内外の事例をご紹介します。 「関わる」 LGBTQ+向けのファンクラブの設置 マンチェスターシティ プレミアリーグ(イングランド)マンチェスターシティが、同クラブのLGBTQ+のコミュニティと連携し、オフィシャルのファンクラブを設置しました。「カナル・ストリート・ブルース」は、マンチェスターシティの公式LGBTQ+サポータークラブで、サッカーとゲイコミュニティという2つのアイデンティティーを結びつけています。 「全般」 多様性に向き合い、アクセシビリティを整えていく プライドハウス東京 東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会を契機として、LGBTQ+に関する理解を広げることを目指し立ち上がったプロジェクトです。2023年4月にNPO法人化しました。新宿御苑前にある常設の大型総合LGBTQ+センター「プライドハウス東京レガシー」を拠点に、NPOや個人、企業がコンソーシアムとなり、個別のテーマに基づき8つのチームに分かれて活動しています。「アスリート発信チーム」では、LGBTQ+とスポーツの接点から、誰も排除しないLGBTQ+インクルーシブなスポーツ環境づくりと、スポーツを通じたLGBTQ+に関する情報発信を行っています。 「全般」 体育・スポーツにおける多様な性のあり方ガイドライン 性的指向・性?認(SOGI)に関する理解を深めるために ?本スポーツ協会(JSPO)  この啓発ハンドブックは、選手、指導者、ひいてはすべてのスポーツ関係者が、性的指向・性自認(SOGI)等の観点から性の多様性について理解を深めるための参考資料となることを目指して作成されたものです。LGBTQ+の人々の人権を守ることは、誰もが自分らしく身体活動やスポーツをすることができる空間の構築にとって重要です。ハンドブックには、2017年度から2019年度にかけて、公認スポーツ指導者、中央競技団体、都道府県体育・スポーツ協会等へのアンケート調査や、法的根拠に基づく課題の整理、当事者や専門家へのヒアリングを実施し分析を行った研究成果が反映されています。東京2020大会では、公表されたものとしては初めて、トランスジェンダー女性選手が参加し、2021年には国際オリンピック委員会(IOC)がトランスジェンダー選手やDSDs選手の新たな参加枠組みを示す等、国際スポーツ界では大きな変化が生じています。また、2023年6月には「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」が施行されました。第4版はこれらの変化も踏まえた内容に改訂されています。 JSPO 「体育・スポーツにおける 多様な性のあり方」 研修会 LGBTQ+等の性的指向や性自認に関する権利が保障されていない人々への配慮ある身体活動・スポーツ空間をめざし、実態調査にもとづく課題抽出と対策の分析を行うとともに、多様な性のあり方について啓発を行うことを目的としたプロジェクトを設置。体育・スポーツにおける「多様な性のあり方」についてより広く啓発活動を推進することを目的とした研修会を開催しています。 JFA LGBTQ+教育の取り組み JFAでは、LGBTQ+に関する理解を深めるため、役職員を対象にした研修を2回実施しました。第1回研修は、2022年6月です。電通ダイバーシティラボの中川紗佑里氏を講師に迎え、LGBTQ+の基礎知識、国内外の事例、アライの重要性等を学びました。受講者からは、「概要と現状を知る機会となった」「日常での配慮の仕方に気づいた」との声がありました。第2回研修は2023年11月に開催。スポーツ領域に焦点を当て、千葉大学大学院の貞升彩氏による講義を実施。オリンピック憲章やプレミアリーグの啓発事例、国内のトランスジェンダーアスリートの事例を通じ、スポーツにおける性別の分類や課題について学びました。参加者からは、「LGBTQ+の課題がスポーツと関わることを認識できた」「IOCやJSPOの方針を知る機会になった」との声がありました。これらの研修を通じて、JFAは多様な人々が安心してサッカーに関われる環境づくりを推進しています。 【26ページ】 コラム プライドハウス東京 アスリート発信チーム 成城大学スポーツとジェンダー平等国際研究センター 副センター長 野口 亜弥さん 「選手の個性を大切にしていくことが第一歩」  2021年10月、オーストラリアのプロサッカー選手として活躍するJosh Cavallo選手が、自身の性的指向を公表しました。男子の現役選手がゲイであることを自ら公表するのは極めて珍しいです。日本では、5〜10%の方がLGBTQ含めた性的マイノリティ(以下、LGBTQ+といいます)に該当すると言われており、男子サッカー選手の中にもLGBTQ+当事者がいることは当然です。しかし、例えばJリーガーの中にLGBTQ+当事者がいることに考えが及ぶ人は少ないのではないでしょうか。  私自身は、サッカー選手としての経験やアメリカやスウェーデンでの生活を通して、LGBTQ+当事者の友人やチームメイト達に接する機会に恵まれ、とくに海外のサッカー界では、パートナーを堂々と紹介されることも多くありました。しかし、日本のスポーツ界においては、LGBTQ+当事者の生きづらさを目の当たりにしてきたことも事実です。同性同士の2人が仲が良いと、こそこそと噂話をされている様が日常的にあれば、「カミングアウト」することに抵抗を感じることでしょう。日本では、カミングアウトしたリスクを本人が被らざるを得ず、スポーツ組織で守れる仕組みがなく、中には、競技を続けられなくなった方もいます。誰を恋愛対象とするのか、またはしないのかは、スポーツ競技の「する」「見る」「関わる」に本来何の影響も及ぼさないはずです。異性愛規範や同性愛嫌悪などの言動は、LGBTQ+当事者の精神的安全性を損ないます。  また、トランスジェンダーの選手の競技参加について、ここ数年で耳にする機会も増えてきたのではないでしょうか。女性の競技会にトランスジェンダーの女性選手が出場するときには、身体的な優位性が議論にあがります。女性がスポーツに参画していくための戦いの歴史を鑑みると、シスジェンダー(自分の性の認識と生まれ持った性別が一致している人のこと)の女性が安全に公平に競技するスペースを守りたいという権利も守られるべきだと思います。一方、トランスジェンダーの女性が自認する性別カテゴリーで競技したいという権利も守られるべきです。女性カテゴリーの競技会にのみ焦点があてられますが、男性カテゴリーでトランスジェンダー男性が安全に公平に競技できる環境も全く整ってなく議論されることもありません。トランスジェンダーやノンバイナリー(男性・女性という性別のどちらにもはっきりと当てはまらない、または当てはめたくない、という考えを指す。「第三の性」 「クィア」とも呼ばれる)の選手、またDSDs(性分化における多様な発達:Differences of Sex Developmentの選手を含めた安全で公平、公正なカテゴリー分けについて、今ようやくスポーツ界で議論が始まったばかりで、根拠となる研究も現在蓄積しているところです。明確な根拠がないまま議論を尽くしきれない中で、誹謗中傷が拡大していくのは避けなければなりません。  サッカーは、多くのサポーターやパートナー企業、自治体から支援されており、社会的にも影響力が大きい競技です。だからこそ、サッカーに関わる人々がLGBTQ+に関心を寄せることに大きな意味があります。私を含め、今サッカーが大好きで関わってきた人達は、サッカーに関わる道が整ってきた、機会を得られた人達です。その私達が、アライ(同盟や協力者、仲間、LGBTQ+に理解を示し支援する人達という意味で、社会変革のために自身の立場を活用する人達のことを言います)としてこれまでサッカーにアクセスできなかった仲間達に参加できる機会をつくることができます。  グラスルーツに関わる皆さんにお願いしたいことは沢山あるのですが、例えば、サッカーのコーチが、女の子だから「ちゃん」、男の子だから「くん」と呼んでしまうことが多いと思いますが、その子の見た目で性別を勝手に判断してしまう前に、子ども達になんて呼ばれたいのかきいてみてほしいです。子ども達はいろいろな表現方法を望んでいると思います。そういったコミュニケーションが本当の意味で子ども達の理解につながります。そして、常に異性愛規範で話していないか、トランスジェンダーの人はいないと思っていないか等自覚していくことが大切です。女の子が好きな女の子も、男の子が好きな男の子も当たり前にいるのです。かっこいい表現もかわいい表現も誰だってしていいんです。様々な可能性を頭に入れ、選手の個性を大切にしていくことが第一歩になると考えます。