アクセス・フォー・オールハンドブック テキスト パート2 具体的な考え方と事例 【12から14ページ】 アクセス・フォー・オールの観点で取り組む際の基本ガイドライン (1) 社会モデル 「障壁は個人ではなく社会がつくっている。 社会が解決できる。」  様々な障壁は、本人個人の問題ではなく、社会全体で受け止め克服する課題と捉える考え方です。元々は、「障害」に対する捉え方として、従来の「医療モデル」あるいは「個人モデル」、すなわち困難に直面するのは「その人に障がいがあるから」であり、克服するのはその人(と家族)の責任だとする考え方がありました。それに対して、「社会モデル」は障がい者が日常生活または社会生活において受ける制限は、社会における様々な障壁(バリア)と相対することによって生ずるもの、「社会こそが『障がい(障壁)』をつくっており、それを取り除くのは社会の責務」である、という考え方です。障がいに限らず、社会には多様な人々がいるにもかかわらず、学校や職場、街のつくり、慣習や制度、文化、情報等の多くが健常の成人男性を基準にしたものであり、結果として、少数者の存在やニーズを意識しない形で成立しているケースがほとんどです。そうした社会のあり方こそが障壁をつくっている、と考えるのが「社会モデル」です。  アクセス・フォー・オールの観点では、広く様々な障壁に対して、同様に考えることができます。すなわち、個人の問題ではなく広く社会の問題として、存在に気づき、社会全体が工夫し、対応することでアクセスが可能となることが多くあるのではないか、ということです。本人の事情・問題であり、本人負担で解決すべきものと考えられがちであり、そのためあきらめている人、最初から考えもしない人が多くいるのではないかと思われます。社会の側が解決すれば広がっていくと考えていきたいというのが私達の考え方です。 (2) 合理的配慮 「社会的なバリアを取り除いて行くために対話を重ね、一緒に解決策を検討していく。」  社会生活において提供されている設備やサービス等は障害のない人には簡単に利用できる一方で、障害のある人にとっては利用が難しく、結果として障害のある人の活動を制限してしまっている場合があります。このような、障害のある人にとっての社会的なバリアについて、個々の場面で障害のある人から「社会的なバリアを取り除いてほしい」という意思が示された場合には、その実施に伴う負担が過重でない範囲で、バリアを取り除くために必要かつ合理 的な対応をすることとされています。これを「合理的配慮の提供」といいます。 令和3(2021)年に障害者差別解消法が改正され、事業者による障害のある人への「合理的配慮の提供」が義務化されました。この改正法は令和6(2024)年4月1日に施行されました。ただし、法令によってではなく、サッカーファミリーの当たり前だから取り組んでいきたいと思います。 「合理的配慮の提供」にあたっては、両者が対話を重ね、一緒に解決策を検討していくことが重要です。 ● 気づいていなかった、考えてみたこともなかった。 けれどわかっていればできる配慮はないか。 ● そのほうが良い、わかりやすい。そして、結果として、みんなに良い、そういったことはないか。 ● 伝えているつもりでも伝わりにくかったことはないか。参加しにくかったことはないか。 ● それに対し、できる工夫はないか。 そういったことを考えていければと思います。 (3) 情報保障 「情報にアクセスしやすいか、 皆に届いているか、理解しやすいか。」 情報がアクセスしやすい状態になっているか、皆に届いているか、理解しやすいか。私達はたとえばホームページ上で、告知や募集等様々な情報を提示しています。それが人によっては届きにくいことに、普段は気づかずにいることがあるかもしれません。 ● これで皆に届くだろうか、と考えてみること、必要としているかもしれない多様な人達に広く届けたいと思うこと。例えば問い合わせの手段を複数にしてみること。例えば案内表示を見直してみること。 ● 会議やミーティング、研修会参加の際に、要望があった場合に合理的にできる対応を考えること。例えば資料の提示の仕方を配慮すること。課題や試験の方法を工夫すること。 ● 参加したい、わからない、わかりにくい、という意思を表明したり意見を聞いたりする機会をつくること。ニーズがないと考えないこと。 本来相手が得られるはずの情報を保障するための、こういったことを、可能な範囲で一度考えてみてはいかがでしょうか。 (4) 無意識のバイアス(思考の偏り)で 「気づく機会、アンテナを立てる機会を増やし、自覚的になる」 ほとんどの場合は、「無意識」である、悪気はまったくない、ときには親切心から、ということが多いですが、無意識的なバイアスで、様々な可能性、選択肢を排除してしまっていることがあります。無意識だからこその難しさですが、気づく機会、アンテナを立てる機会を増やしていくことで、自覚的になることができます。 (5) 「存在」に気づく 「様々な人の存在に気づき、自分達からオープンに」 こちらも多くは無意識に起こっていることで、積極的に排除しようと思っているわけではないことがほとんどです。だからこそ、そんなことはしていない!を思ってしまいがちです。しかし、忘れている、おいていっている、排除している、ということが実際に起こっているかもしれません。同質の集団では常識とされていて気づかない、思いもしないことがあるかもしれません。だからこそ、意思決定機関には様々な人が必要となり、時には社会を構成する様々な人の声を聞く機会をつくることも大事です。心ならずも排他的になっていないか、社会を構成する様々な人を想定して、「希望がないだろうけれど、あるなら受け入れる」ではなく、自分達から積極的にオープンになっていくことを考えてみる機会にしたいものです。 (6) 顕在化していないニーズ 「先入観やイメージで 選択肢を閉ざしてしまうことがないように。」 こういう人は「来ないだろう」「無理だろう」「来たいと思わないだろう」「必要ないだろう」「大変だから 無理させたらかわいそうだろう」と考えてしまいがちですが、それを判断するのは本人であり、イメージ で選択肢を閉ざしてしまうことがないようにしたい ものです。 「そんなニーズはないのでは」「特に言われたことがない」「別に言ってきたら断ってはいない」といった声も聞くことがあります。おそらくニーズが顕在化していない、しにくいだけかもしれません。気づいてもいない、本人があると思えていないようなニーズがたくさんありえます。サッカーをもっともっと多くの人に楽しんでもらいたい。それを、これからもっと開いていける。そのためには私達自身がそれに気づき、「ある」と考え、もっと自分達からオープンになっていく必要があります。 (7) 様々な楽しみ方を 「サッカーの楽しみ方、それぞれの価値観両方を大切にしていきたい。」 サッカーは世界のスポーツであり、様々な関わり方、楽しみ方があります。熱量高く真剣にチャレンジしたい人がたくさんいることが、日本サッカーの財産であることは間違いありません。また一方で、気楽にやりたいのでコミットメントの高い関わり方を要求されるのは嫌だと思う人、いろいろなものにしばられずに自分のペースで楽しみたい人もいて、JFA等の団体が把握していない場で楽しんでいる人達がたくさんいることも事実です。それぞれの楽しみ方、価値観の両方を大切にしていきたいと考えます。 私達がアクセス・フォー・オールを考える 上でも、あらゆる分野のチャレンジの障壁を考える上でも、同じような視点で捉えることができると考えています。あらためて社会を構成する様々な人を想定したときに、チャレンジを阻害する障壁は、あらゆるところに存在しているということ気づくことこそが、無意識にできていたバイアスを取り払う第一歩です。そしてそれを個人の問題ではなく社会の問題として、合理的に配慮すること、工夫することで解決できることがたくさんあるということに気づくことができれば、もっともっとアクセスしやすい日本サッカーになれると考えています。?