メニュー

【JFA100周年企画】

「100周年は大きな節目。
次の歴史でどう変化するか
楽しみ」
室伏由佳さん
(アテネオリンピック女子ハンマー投日本代表)
インタビュー

2021/07/21
本人提供

VOICES

サッカーファミリーの声

日本サッカー協会(JFA)は2021年9月に創立100周年を迎えます。ここではサッカーの魅力について考えるきっかけにするために、さまざまなサッカーファミリーにインタビューを実施します。第12回目は2004年のアテネオリンピックに女子ハンマー投日本代表として出場し、その後、JFAこころのプロジェクト「夢の教室」で夢先生を務める室伏由佳さんに登場いただきました。 ○オンライン取材日:2021年6月28日

まず、室伏さんのスポーツ経歴を教えてください。

室伏

小学生の頃、習い事としてテニスをやったのですが、集中力が続かず、すぐにやめてしまいました。陸上に関しては、父(ハンマー投前日本記録保持者の室伏重信氏)が大学の教員で指導者だったこともあり、私にとっては幼少の頃から陸上競技場が遊び場でいつも身近にあり、その影響もあって中学から部活で陸上を始めました。

最初から投てき競技だったのでしょうか。

室伏

最初は短距離と跳躍競技で、100メートル走やリレー、走高跳をしていました。中学3年の時には当時行われていた混成競技で3種競技A(100メートル走、走高跳、砲丸投の各種目の記録を点数に換算し、その合計得を競う競技、現在は4種競技として実施)で全国中学校体育大会に出場しました。そのまま短距離や跳躍を続けるんだろうな、と考えていたんですが、体力がなくて走り込みについていけなかったので、高校進学のタイミングで円盤投に転向し、本格的に取り組みました。

円盤投の魅力はどこにあったのでしょうか。

室伏

やればやるほど記録が伸びて、その変化を実数で見られるのが楽しかったですね。ビギナーの時は一気に伸びるものですが、私の場合は伸び率がものすごくて、日本のシニアの大会で8位入賞できるほどの記録が出てしまったんです。技術とタイミング、力の発揮の仕方が関係する技術種目で、何日もかけて完成させていくのですが、体調やメンタルの変化に左右されながら一つの“作品”を作り上げていくような部分にも魅力を感じました。

ハンマー投に転向したのはその後ですか?

室伏

大学1年の時に女子ハンマー投が国際的に公式種目となり、興味があったことや、父からも自身にマッチした種目として薦められたことから少し取り組んだのですが3カ月ぐらいですぐにやめてしまい、その後、3年ぐらいは円盤投に専念していました。再開して本格的に取り組んだのは大学4年の秋、すでに大学での競技シーズンが終わった後でした。実は、当時他の女子選手がハンマーの試合で投げているのを見て「自分のほうがもっと遠くに投げられる」と思ってしまったんですよ。父に再挑戦を相談したところ「追求すればオリンピックへのチャレンジは可能」ということで取り組むようになりました。

本人提供

競技を通じて最も印象的だった出来事を教えてください。

室伏

やはり2004年のアテネオリンピックですね。大学4年生の終わり、22歳でハンマー投を再開させてから5年という極めて短期間で出場することができたのですが、オリンピックの舞台は本当に特別でした。1投、10秒に満たない投擲時間、何年かけて準備をしたとしても、あっという間に終わってしまうことが恐ろしくもあり、残酷でもあり、神秘的でもありました。小学2年生の時に父が出場した1984年のロサンゼルスオリンピックをスタンドから観戦し、大歓声の中で集中して競技に挑む選手たちの様子をはっきり覚えているんですけど、私が出場した時もそれと同じ雰囲気を味わうことができて、歴史の一員になれたような感覚でした。

サッカーの試合を見る機会はあるのでしょうか。

室伏

テレビでも観戦しますし、Jリーグで活躍する選手の皆さんとの親交もあったためにスタジアムにも何度か行ったことがあります。陸上は各競技が同時進行で行われるので、観客は見たい競技を見て好きな選手を応援する感じなのですが、サッカーは一体感を持って応援したり、一斉に頭を抱えたりと、一緒に戦っている感じが新鮮でした。

JFAは今年9月に100周年を迎えます。

室伏

大きな節目ですよね。我々が生まれる前から運営されてきて、その中で多様な人材が活躍してこられたと思います。今は各スポーツの結びつきが強くなっていますが、JFAの影響は大きいと思いますし、次の歴史でどう変化していくのか、私はすごく楽しみにしています。

本人提供

JFAこころのプロジェクト「夢の教室」で夢先生もご経験されています。その経緯を教えてください。

室伏

私の家族をずっと取材してくださっているジャーナリストの増島みどりさんに「今後のスポーツ界のためにやらないといけない」と言われたことがきっかけでやらせていただくことになりました。最初はやっぱりうまくいかなかったですが、JFAのスタッフの皆さんが教室の合間や直後にすぐに反省会をしてくださって、実際に話すアプローチの方法をいくつか検討したりするなど、1回きりの授業でどう伝えるかを工夫することを大変学ばせていただきました。子どもたちが本心を書いてくれる「夢シート」は、今の教員生活にも大いに役立っています。

未来を担う子どもたちへのメッセージをお願いします。

室伏

新型コロナウイルスの影響でスポーツの在り方や考え方が大きく変わり、子どもたちにとっては今後どうなっていくのか分からなかったり不安に思ったりする状況だと思います。このコロナ禍が落ち着いた後は、新たなスポーツの形が広まっていくはずです。各競技団体とスポーツを推進している方々がいかにうまく連携していくかが大切だと思っていますし、子どもたちが自由な発想で各スポーツに取り組めるような試みが増えていくことを期待しています。

これからの100年間でサッカーやJFAに期待することを教えてください。

室伏

他の競技団体にはいろいろな歴史があり、さまざまな課題があると思うんですけど、JFAにはぜひスポーツ活動の推進やコーチングなど含め、様々なモデルケースを示していただき、相談役になっていただきたいです。各競技団体のアスリートや普及関係者、育成関係者を集めて交流会を開いていただき、ヒントが少ない競技団体にぜひとも手を差し伸べていただきたいと思っています。

©Walnix
プロフィール
室伏 由佳(むろふし ゆか)
1977年2月11日生まれ、静岡県生まれ、愛知県出身
父・室伏重信の影響で幼少期から陸上競技を始める。円盤投とハンマー投の投てき競技で頭角を現し、2004年のアテネオリンピックにはハンマー投の日本代表として出場した。陸上競技女子ハンマー投の日本記録保持者、女子円盤投の元日本記録保持者。現役活動中に大学院進学と共にスポーツ心理学の分野で研究活動を継続。引退後、順天堂大学スポーツ健康科学研究科博士課程に入学し、国際的なテーマであるスポーツとアンチ・ドーピングに関する教育研究を推進、2019年3月に博士課程修了(スポーツ健康科学博士)。2014年10月よりJFAこころのプロジェクト「夢の教室」で夢先生として登壇。現在は、順天堂大学スポーツ健康科学部で専任講師として教育・研究活動を行っているほか、全日本テコンドー協会の理事や日本陸上競技連盟の指導者養成部委員など多岐にわたって活躍している。